My Love, Your Idol
Elysi Project
第1話 雨と猫
雨が降っていた。
窓ガラスを伝う雨筋が、ネオンサインをゆらりと歪めていく。
カフェのドアが閉まると、ジナは先に背を向けようとした。
ドユンは反射的に手を伸ばし、彼女の袖をつかんだ。
ジナが振り返る。
その瞳は、ひどく冷たかった。
一瞬、二人の視線が雨の中で絡み合う。
「オッパと一緒にいても……なんだか、すごく寂しい。」
少し前、カフェの中でジナが言った言葉が
ドユンの耳の奥で何度も反響した。
何か言いたかった。
でも、喉がうまく動かなかった。
握っていた手はするりと彼女の指先から滑り落ちる。
ジナは傘を開き、暗い夜の中へ歩き出した。
その瞬間、カフェの中で仲良く笑い合う二人の姿が
視界の端に映った。
ドユンは思わず顔をそらした。
今は、何も見たくなかった。
「オッパって、ひとりだけの世界にいるみたいで……
それがね、ちょっと素敵だと思ってたの。」
初めて会ったとき、彼女はそう言った。
“自分だけの世界にいる人”みたいだと。
そのときは、それが魅力に見えていた。
でも今は、それが彼女を寂しくさせている。
街灯の下、一匹の猫がこちらをじっと見つめていた。
濡れた瞳が、微かに揺れている。
まるで「どうして追いかけなかったの」と問いかけるように。
ドユンは顔を上げられないまま、
消えていった彼女の後ろ姿が消えた道を見つめ続けた。
終わったことは分かっていた。
それでも、足はその場に縫い付けられたように動かない。
── 道の向こう側で、細い影がしばらく彼を見つめていた。
雨の帳に溶けるような、女性らしい細いシルエット。
ドユンは気づかなかった。
その視線が、ずっと前から彼を覚えていたことに。
雨は変わらず、彼の肩を静かに濡らしていた。
やがて彼はギターケースを抱きしめるように握り、
ゆっくりと背を向けた。
こうして、別れの夜は始まった。
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