『another K·night/ASURA』第1話

 『紗倉 まな』


 広いエントランス。

 自然な光が差す。

 エレベーターの扉が開く。

 奥の大きな鏡に自分の姿が映る。

 白のリブニット、ベージュのミニのフレアスカート。

 タイトなニットで胸のふくらみが目立つ。自慢のFカップ。

 フレアスカートのフォルムが腰のくびれを強調していた。

 ボタンを押す、上階へ。

 1人ではもったいないほど広い空間。静寂の中、ふと思いにふける。

 清潔なフロア。長い廊下を歩き、部屋の前へ。インターホンを押すと、少しの間が空き、ドアが開いた。

 中から現れたのは、中肉中背の中年の男性。白いシャツにダークなスラックス。禿げ上がった額が広い。やわらかな笑顔を見ると、ホッとする。

「やあ、まなちゃん」

 そう、声をかけられた。

 まな。

 紗倉まな。

 わたしの源氏名。

 店長が面接でわたしにつけた。

 ショートカットのわたしを見て、雰囲気が似てると人気セクシー女優の名前を拝借したらしい。

「こんにちは」

 わたしもつられて、笑顔であいさつを返す。自然な笑み。営業スマイルじゃない。

 天井が高く、広いリビング。

 日当たりだけで充分な明るい空間。

 レザーとは思えないやわらかい感触の大きなソファに座り、わたしのひざ枕で彼は寝そべっている。

 この高級マンションは彼の持ち物。これだけじゃなく、まだ、持ちビルもあるらしい。

 信じられないくらいのお金持ち。

 そんな彼が、仰向けで幸せそうにわたしの顔を見上げてほほえんでいる。

 優しい笑顔。

 決してハンサムじゃない、禿げ上がったオッサン。

 やわらかく細い髪の毛をなでる。

 優しい手つきでいつくしむように。

 あまりにも幸せそうな顔をしてるから、イタズラしたくなる。

 体を前傾にして、彼の顔に胸を押しつける。ひざ枕とパイ圧のコラボ。

 彼は、それもされるがまま。

 今日も出勤時間のすべてを買い取ってくれた。

 姫出勤。

 プレイはこうしてひざ枕をしたり、ベットで添い寝するだけ。

 なぜなら、彼は“不能“だから。

「ね、今度、外で会わない?」

 わたしがそういうと、少なからず驚きの表情を見せる。

「別にいいけど、どうしたの?」

 彼がわたしを見上げたまま、言った。

「お部屋にお料理届けてもらうのも、ステキだけど、デートがしたい。

外で待ち合わせて、どこか美味しいお店に連れてって」

「うん、いいよ。

何が食べたい?」

 そう尋ねられ、思案をめぐらせる。

「そうだな···お肉!

美味しいお肉食べたい」

 ちょっとはしゃいだ声を出す。

「うん、わかった。

やっぱ、まなちゃんは若いな」

 わたしは今年で24になる。

 それほど、若くはないよ。

「レンガ造りの窯でじっくりと焼き上げてくれる炭火焼きステーキの店を知ってるけど。

厚切りのランプ肉。

香りも味もバツグン。

ソースはなし、岩塩とコショウのみの味付け。

樽で熟成したフルボディの濃厚な赤ワインも出してくれる。

どうかな?」

「何ソレ!

メッチャ美味しそう♪

うん、そこがいい。

連れてって」

 わたしは彼にキスをした。

 舌を入れると、応じてきた。

 粘膜も性感帯。

 思わず、声が漏れる。サービスではなく。

 彼の股間に手を伸ばすが、フニャフニャのまま。

 別にそれでもいい。

 こうやって、1つになっていられれば。


 第2 話『本郷 猛』に続く

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