The Third/レッドセーバー 第8話
『ナイト』
悠香が何者かなんて、関係ない。
一度、死んでようが、生き返っただろうがどうでもいい。
悠香は悠香だ。
今、目の前で笑っている。
それだけでいい。
悠香が息子と遊んでいる。
もちろん、おれたちの息子。
5歳になった。
目がおれそっくりだと、悠香はいう。
おれのミニチュアだ。
郊外にマイホームを買った。
悠香待望のマイカーも買った。
おれも立派なローン持ち。
あんたと同じ人生さ。
でも、おれとあんたでは決定的な違いがある。
チリン、チリン。
手振りベルの音が聞こえる。
悠香には聞こえない。
悠香はあれ以来、ナイトの能力を失った。元々、覚醒もしてはいなかった。
「ねぇ、パパ。
また、ベルの音がする」
最近、息子にも聞こえるようになった。
あのショッピングモールの女の子もそうだった。
生まれ持っての適性があるのか?
「何でもない、気にしなくていいよ」
スマホが鳴ったふりをして、外に出る。
おれもそれなりに出世した。
24時間休みなく動く工場からの連絡もわりとある。
「会社からだ」
その一言で成立する。
おれは着の身着のまま、パチモンのクロックスというスタイルで家を出た。
外に出ると辺りは日が落ち、外灯が頼りになる。
住宅街の外れの公園。
この時間だと、誰もいない。
ここが最近のバトルフィールドだ。
外灯の明かりに羽虫がたかっている。
もう、少ししたら、夏だな。
チリン、チリン。
手振りベルの音に向かって歩く。
公園の時計台の下にそいつはいた。
ザ·ロード。
死んでいなかった。
当たり前だ。
あのとき、こいつを斬ったとき、まるで手応えがなかった。
おそらく、こいつには実体がない。
そして、しれ〜っと、再び姿を現し、またデスゲームは始まった。
何も変わらない。
変わったといえば、こいつの手振りベルのデザインが少し変わったくらい。
まるで、まちがい探しだ。
フッとザ·ロードが姿を消した。
時計台の向こうから、学生服の高校生が現れた。ブレザーを着た男子。髪型はショートマッシュ。
最近のデスゲーム、学生がくることも少なくない。
ショートマッシュが目をつむり、意識を集中させた。
ズンッ。
黒い球体が現れ、地面が球体により沈んだ。
おれも目をつむり、意識を集中した。
黒い球体がおれを包む。
二つの球体がスッと消えた。
二人のナイトが対峙する。
デスゲームが始まる。
二人の腰のマウントが作動し、武器がスタンバイする。
おれはセーバーを抜き、青い光刃を発動させた。
相手も武器を抜き、それを発動させた。
相手の武器。
細身で先端の鋭く尖った刺突用の片手剣、レイピアだ。球体を半分に切った形の鍔からグリップエンドまでナックルガードが伸びている。
ナイト·レイピア。
緑の細身の光刃を持つレイピアを片手で持ち構える姿は、まるで フェンシングのフルーレだ。
初めて見るタイプのナイトだ。
どんな動きをするか見てみたい気がしたが、そろそろ夕飯時だ。今は今晩の我が家の献立の方が気になる。
以前、挑戦してくるナイトを殺さずに生かす試みをしてみたが、無駄だった。
一人も救えなかった。
少しだけ望みをかけてみる。
最近始めた試み。
ナイトアンケート。
ナイト·レイピアに質問した。
「なぁ、おまえの願いは何だ?」
しばらくの沈黙。
こんなシチュ、初めてに違いない。
デスゲーム前にアンケートなんて。
少し、間を開けて、ナイト·レイピアが答えた。
「最強のナイト、ブルーセーバーを倒し、ぼくが代わって最強になる。
ナイト·ブルーレイピア。
メッチャ、イケてるでしょ♪」
最低な答え。
さらにタメ口。
ダメだ、こりゃ。
最近現れる奴に多い。
何ソレ?
ホントに願いなの?
そんな軽いのがはびこってる。
けど、もう一つ質問をぶつけてみる。
「最強の称号を得て、どうする?
何の得もないぞ」
また、しばらくの間。
そして、ナイト·レイピアは返答した。
「何の得もない?
そんなわけないよ。
ぼくが最強になれば、ぼくを倒すために猛者が挑戦してくる。
こんなゾクゾクすることないよね」
命をかけた戦いにスリルを求め、何の価値もない最強という称号にこだわる。
クズだ。
人間のクズ。
聞くだけ無駄だった。
おれはナイト·レイピアを指差していった。
「死ね」
デスゲーム開始早々のデスモード発動にナイト·レイピアが面食らってる。
でも、従わざるをえない状況だ。あちらも、おれを指差していった。
「死ね」
『『デスモード』』
合成音声が響いた。
お互いの武器がそれぞれ、出力を上げる。
ナイト·レイピアはフルーレの構えのまま。おれは右手でセーバーを逆手に持ち、腰を落とした。水平にセーバーを振りかぶる。
先にナイト·レイピアが動いた。
『デスバースト』
レイピアから合成音声が響く。
剣を前に突き出しての突進。突きを無数に連射している。デスモードのパワーとスピード、剣が何本にも見える。
『デスパニッシュ』
セーバーから、合成音声が響いた。
おれはその場から動くことなく、右下から左上へセーバーを振り上げた。
瞬間的にセーバーの光刃が伸びる。レーザービームのようにはるか向こうまで光刃は伸びた。スピードと相まって、その太刀筋は線と言うよりは面に見える。
青い光刃はナイト·レイピアの体をとらえ、その向こうの時計台もろとも斬り裂いた。
デスパニッシュ。
ナイト·ブルーセーバー、最大最強の必殺技。
今、おれが放つこの技を回避できるナイトはいないだろう。
チートが過ぎる。
斬り裂いたナイト·レイピアと、時計台が青い炎を上げた。
あの時計台、何回燃やしたかわからない。
どうせ直すのはザ·ロードだ。
知ったことじゃない。
チリン、チリン。
軽やかで優しい音色が、戦いの終わりを告げる。
ナイト·レイピア。
本名は知らない。
見たこともない制服だった。
どこから来たのか、わからない。
ザ·ロードのデスアムネジアはこの場でしか効力はない。
一人の高校生が失踪した。
世間的にはそうなる。
彼の帰宅を待つ家族がいるだろう。
その人たちのことを考えると、気の毒に思える。
けど、彼本人には悪いとは思わない。
おれを殺しにきた相手を返り討ちにした。
ただ、それだけだ。
おれは家路についた。
相手を殺さなければ、生き残れない。
そんな状況になったら、あんたなら、どうする?
相手を殺したくない。
だから、戦わずして、死を選ぶか?
おれはそんなの、まっぴらだ。
死にたくない。
愛する人を守りたい。
善と悪。
光と闇。
変身ヒーローと悪玉。
ナイトに善悪なんてない。
強いていえば、全員悪者。
おれは人殺しだ。
それを否定するつもりはない。
でも、それ以外はあんたと同じだよ。
汗水流して働いて、
金を稼ぎ、
愛する家族を養う。
家族とともに休暇を楽しみ、英気を養う。
人生なんて、その繰り返しだ。
おれの人生だ。
邪魔する奴は許さない。
返り討ちにしてやる。
おれは自分の人生を守る。
自分の家族を守る。
おれの息子。
悠香が名前をつけた。
騎士って書いて、ナイト。
何で、その名前にしたのって、悠香に聞いた。
強そうでしょ。
勇気を持って、みんなを守ってくれる人になってほしい···
だって。
スマホが鳴った。悠香からの着信だ。
「お〜い、ごはんだよ。
早く帰っておいで」
「あ、うん。もう、帰るよ。
今日の晩ごはん、何?」
「ハンバーグだよ!」
「···あ、そう。
悠香のハンバーグ、好きだよ。
目玉焼きのってるし」
「また、ナイトの好きな物ばっか作ってって、思ったでしょ?」
図星。
「···そんなことないって!」
「そ〜かと思って、ピカピカな鯖売ってたから、俊雄の好きなサバミソ作っといたよ!」
「···悠香、愛してる」
「はい、はい。
帰ってきたら、ハンバーグ焼くから、早くね」
「うん」
おれは電話を切った。
時期的にはゴマサバか···
脂は少ないけど、ピカピカって言ってたから、鮮度はいいな。
悠香のサバミソ。
あの子、味付けはセンス抜群だからな。
それに、腹の周りのトロリとやわらかいとこは格別だ。
しかも、我が家のサバミソは臭み消しに梅干しを入れる。
悠香の実家から送ってくる梅干し。
あれ、サバの旨味を吸ってうまいんだよな。
冷蔵庫で冷やしていた純米酒と合わせよう。
愛妻の心がこもった料理、愛情。
息子の無邪気な笑顔。
これを守るためにおれは生きている。
かけがえのない大切な日常。
それを守るために、がんばっている。
あんたと変わらないさ。
ただ、変身できることを除けば。
The Third/レッドセーバー了
『another K·night/影武者』へ続く
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