第10話 今だけ気づかないで
祭りの日から一週間が経ったその日、蒼龍は通信用の端末を睨んだまま黒いオーラを垂れ流していた。
「……飛蘭。
蒼龍様、どうしたの?」
「…それが、苗家の先代当主に久々に実家に帰ってこいって言われたみたいなのね」
「ああ…」
あまりにおどろおどろしいオーラに顔を引きつらせた小雷は飛蘭の言葉にものすごく納得した。
小雷も苦笑している。
苗家現当主である蒼龍の屋敷は帝都にあり、苗一族の本拠地も帝都だ。
しかし苗家の本邸は帝都から離れた都市にあり、先代当主である蒼龍の父はそちらで暮らしている。
行って帰るだけで時間がかかるし、蒼龍の父が蒼龍を呼んでたった一日で用が足りるはずがない。
おそらく見合いの話とかを持ち出されるだろう。
見合いの話にくわえ、数日向こうに引き留められると思うと蒼龍は憂鬱で仕方ない。
「……引きこもりたい」
「蒼龍様、数日の辛抱だから。
なんなら私も一緒に行きましょうか?」
ぽんぽん、と肩を叩いた飛蘭の言葉に蒼龍は顔を上げ、「いや」と首を横に振った。
「飛蘭はこちらにいてもらわないと。
大丈夫だ。一人でも」
「…ならいいんだけど」
「ただ、果てしなく陰鬱な気分になるだけなんだ…。
見合いの話があった場合、父が持ってきた話だと会わずに断れないからな…」
「…が、がんばれ蒼龍様!」
柔らかな微笑みを見せたのもつかの間、すぐにまたおどろおどろしいオーラを発した蒼龍に小雷はそれしか言えなかった。
「へ?
実家って…ここは違うんですか?」
「ここは俺個人の屋敷だ。
蒼龍家本邸は柳蘭という都市にあるんだ」
月は蒼龍の言葉にただびっくりしていた。
こんなでかい屋敷が個人の屋敷…、とかすれた声で呟いている。
月の部屋には蒼龍と月の姿しかない。数日離れてしまうから、と小雷たちが気を利かせたらしい。
「じゃ、じゃあ、…数日は帰って来れないんですね…」
「まあ、な」
「…………」
しゅん、と見るからに落ち込んだ月に蒼龍の胸はきゅん、とときめいた。
自分がいなくなるだけでそんな顔してくれるなんて。
「大丈夫だ。すぐに戻ってくる」
「はい…」
「俺も寂しい」
「…はい」
月の頬に触れて微笑みかけると、月は素直に頷いた。
「待っています、から…」
「…ああ」
いじらしい言葉に蒼龍は笑みを浮かべつつ、内心ひどく荒ぶっていた。
あああああああもう月可愛い離れたくない置いて行きたくないなああ!!!と叫びつつ、口と顔には出さない。でもちょっと顔がにやけそうでやばい。
「……明日、早いんですか?」
「ああ。
だから今日のうちに支度をして…」
「そうですか…………」
また更に落ち込んだ月に、蒼龍はドキッとした。
今の反応はまさか。
「月?」
「……………」
「……もっと、一緒にいたい?」
ドキドキしながら尋ねると、月は頬を赤らめて頷く。
「…数日会えなくなる、から……抱いて…もらえないのかな…って」
「…っ」
「む、無理なら、いいですから!」
言ってから恥ずかしくなったのか月は手をぶんぶん振って誤魔化す。
顔はひどく真っ赤だ。
「無理じゃない」
「え?」
「大丈夫だ。
まだ時間はあるし…それに、その」
蒼龍は甘く微笑んで月の頬に触れる。
「俺も離れている間も寂しくないように、月をちゃんと覚えておきたい…。
…抱いていいか?」
「……っ…………ん」
蒼龍の言葉に月は耳まで赤くなって、泣きそうになりながらこくん、と頷いた。
「可愛い。
月…」
蒼龍は愛おしげに囁くと、桜色の唇にそっとキスをした。
細い身体を寝台の上に押し倒す。
「蒼龍…」
おずおずと伸ばされた手が蒼龍の首に回る。
蒼龍は嬉しそうに顔をほころばせ、啄むように月の額に口づけた。
「ぁ…っん…」
「…っ」
びくん、と身体を跳ねさせた月の白い太股を掴んで大きく開かせる。
達したばかりの華奢な身体は小刻みに震えていて、赤く上気していた。
月の瞳から溢れた涙が頬を伝っていく。
「…月、だいじょうぶ…?」
既に何度も抱いたから、月は辛いかもしれない。
でも足りなかった。全然。
数日でも離れることが堪えられない。
もうなくせないほどに、溺れてしまったと思い知る。
「……あ、蒼、龍……」
月が泣きながら震えた手を伸ばしてくる。
蒼龍がその手を掴むと、月の口元がかすかに綻んだ。
「………だいじょ、ぶ…だから」
「ぇ…?」
「…もっ、と…」
甘くかすれた声に、ずくんと腰に痺れが走る。
「…もっと…、ちょうだい…」
「…っ」
身体が一気に熱くなった気がした。
堪えきれず、顔を近づけて月の唇を奪う。
「…ん…っ」
細い手を掴み、シーツに縫い止めて何度も柔らかな唇を味わう。
離すと、腰を掴んで一気に奥まで突き立てた。
「ひゃ、やあっ」
「今のは、月が悪い…っ」
「あ、あ、んああっ」
何度も奥まで突き上げられ、月は泣きながら身悶えた。
「ごめん。
まだ離せない。
…一杯あげるから、月を一杯ちょうだい」
熱でかすれた声で告げると、蒼龍は愛おしげに月の足に口づけた。
何度抱いたかは正直、あまり覚えていない。
離れることが寂しいのか月はいつになく素直で甘えてくれて、そんな態度にあおられて蒼龍も箍が外れてしまった。
寝台に横たわったまま、まだかすかに震える月の髪を撫でると、濡れた瞳が蒼龍を見た。
「…大丈夫か?
すまない。無理をさせたな」
「……平気です」
月は小さく息を吐いて、また涙を一筋零した。
「…困ったな」
今日くらい、後始末も自分がしたいんだけど。
雨龍に任せるのは、やっぱりすごく嫉妬する。
でも時間が遅いから、支度をしないとまずいし。
「…月。
ちょっとごめん」
「え…?」
蒼龍は月の身体を抱き起こすと、ぎゅっと抱きしめる。
そして足の間に手を伸ばした。
「…っ…んぁ…っ!?」
「掻き出すだけでも、俺にやらせて」
「ぁ、あ…っ…ひっ…」
ぐちゅ、と中を指でかき回され、月は身体を震わせて甘い声を漏らす。
思わず蒼龍の身体にしがみついた。
「や、ぁ、ぁあっ」
「…思ったよりやばいな。
毎回こんな月を見てたのかあいつは…。
…困ったな」
今更ながら、ひどく嫉妬する。
こんなあられもない姿を、甘い声を、雨龍に見せたくない。
「ん、ん…っ、あ、あか…っ」
「月…っ」
「ひゃ、ああっ」
夢中になって彼の中を抉り、快楽を引き出すように指を動かす。
泣きながら嬌声をあげる月の身体をきつく抱きしめ、震える唇に口づけた。
中に吐き出されたものをあらかた掻き出して、月の中から指を引き抜く。
「…っ…ぁ…あ」
月は涙をぽろぽろ零しながら震えていた。
筆舌に尽くしがたいほどいやらしい姿に、こくりと喉が鳴る。
上気した肌も涙に濡れた瞳も薄く開いた唇も精液の伝った足も、なにもかも扇情的でたまらない。
「…月。
イカせてあげる」
「…っ」
勃ちあがっていた月の性器に触れ、軽く扱くとあっけなく達した。
「ぁ、ああっ」
びくっと跳ねた月の身体を抱きしめ、涙の伝う頬にキスを落とす。
出来ればこのまま離したくない。ずっと独り占めしていたい。
ああ、行きたくないな。
雨龍に彼を任せたくない。
なんでこんなに、溺れてしまったんだろう。
雨龍が部屋に行くと、蒼龍が椅子から立ち上がってこちらを見た。
「じゃあ後は頼むよ」
「…ああ」
雨龍を真っ直ぐ見据えて言った蒼龍は月を振り返り、愛おしそうに髪を撫でる。
「じゃあ、また」
「……はい」
こくりと頷いた月の手には、紺色に赤い紋様の長袍の上着が抱きしめられている。
雨龍がそれを見て眉を寄せたとき、そばを通った蒼龍が軽く雨龍の肩を掴んだ。
「…お前のことは信頼している。
だから、…裏切るなよ。俺と月を」
低い声でそれだけ言って、蒼龍は部屋を出ていった。
雨龍は閉まった戸を振り返り、小さく息を吐く。
寝台に座った月に視線を向けると、びく、とシーツにくるまった身体が震えた。
あのときから、月は自分に対し、そんな風に意識したそぶりを見せる。
蒼龍も気付いていたのかもしれない。だからあんな牽制をしたのか。
「それ、どうしました?」
「…あ、蒼龍の…」
月は手に持った上着を見て、切なげに言う。
「…だから、ここに置いておいて」
「……わかりました」
雨龍は低い声で答えると、カーディガンを近くのテーブルの上に置いて、月の身体を抱き上げた。
「…っ」
息を呑んだ月が赤い顔で雨龍を見た。
腕の中に収まる細い身体だ。情事の跡が色濃く残る姿。
そんな姿をずっと見ていると、抑えが効かなくなる。
月がそんな風に自分を意識して、切なげな顔をするから余計に。
細い身体を抱いて浴室まで行くと、そっと床に降ろした。
「あ、あの」
「はい?」
「今日は、自分で…」
月は恥ずかしそうに身体を腕で隠しながら言う。
「自分で掻き出せるわけないでしょう。
そんなふらふらなのに」
「ち、ちが…。
蒼龍が、やってくれたので…」
月がかあっと顔を真っ赤に染めて言った言葉に、雨龍の眉が寄った。
どす黒い気持ちが沸いてくる。
一度裏切って傷つけてきたくせに、今更独占する気か。
「へぇ…。
でも、まだ残ってるかも」
「…っ」
雨龍の低い声に月の身体がびく、と震える。
雨龍は構わず抱き寄せると浴槽の縁に座って、月の身体を膝に抱き上げた。
「や…っ」
奥に伸びた指に月が思わず雨龍の胸を手で押す。
「いやなんですか?
今まで散々してきたのに」
「…っ…そ、れは…」
「今更でしょう?
僕だってあなたの身体のことならわかってる。
何百回と見て来たんだ」
「……っ」
雨龍の言葉に月の顔が羞恥でますます赤らむ。瞳が潤んだ。
雨龍の瞳には暗い欲が滲んでいて、ぞくりと背筋が震える。
「雨龍…?」
「…いやなのか?」
「……わか、んな…」
よくわからない。でも、雨龍の真意がわからなくて。
『僕はあなたに触れたいんだ。
…家族じゃ堪えられない』
あれは、どういう意味?
「雨龍は、家族じゃないって…言いました」
「ええ…。
だから、触れたいんです」
「…それって…」
雨龍は潤んだ月の瞳を見つめ、一瞬躊躇った。
でもここまで来てしまえば、同じことだ。
「…っんぁ…!」
不意に奥に入り込んできた指に、月はびくりと身体を跳ねさせた。
「え、雨龍…っ…ぁ…」
「あなたはなんも考えないで、鳴いてればいい。
…なにも考えないで」
「ぁ、あ…っ」
耳元で響いた雨龍の声がやけに切なくて、でも考える余裕はなかった。
中をかき回す指が与える快楽に、思考はすぐに呑み込まれる。
必死で雨龍の身体にすがりついて、ただ鳴くしかなかった。
「気付かないで。
…もう少しだけ、…わからないままでいてください」
苦しげなその言葉の意味が、わからない。
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