こちら、魔法犯罪取締組織戦術対応部です!

@crowd12__

序章 己を殺し家族を護る


 ――〝奴ら〟は急にやって来た。

 父を、母を、兄を殺されるか、自分が実験体になるか。そう尋ねられた。

 実験体。

 魔法学校でならったことがある。

 違法に非人道的な魔法研究施設があるということ。

 魔法の増強をし、いくつもの実験施設が破壊に追い込まれた事件があるということ。

 そして。

 違法なものは家族を人質にするということ。

 きっと僕はこれから痛い目にも苦しい目にもあうのだろう。

 でも。

 兄を守れるなら。

 母を守れるのなら。

 父を守れるのなら。

 悩む必要なんてなかった。

「………わかった。 」


 それだけ言うと〝奴ら〟は満足そうに哂った。


 ■


 ――研究施設102467号


「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っっっ」


 研究室に喉の奥から捻り出したような叫び声が響いた。

 彼――七峰澪は、珍しい光の魔法の使い手だった。

 光の魔法の使い手は50人に1人という希少性から我々『第零研究区』が喉から手が出るほど欲していた存在だった。

 しかし、我々の手が割れていてどの魔法のどんな使い手も首を縦に振ることはなかった。

 そんな折、彼が光の魔法の使い手であること。

 そして、家族想いということを知った。

 即座に彼の両親がいない時間帯を狙い彼の家を訪ねた。

 彼はこくり、と喉を鳴らし、そして「………わかった。」と言った。

 ああ、どんな研究をしてやろう……!

 君はどんな苦痛の声を漏らすのかな。

 そんなことを考えわくわくとした気持ちで彼の手を引いた。

 光の魔法の使い手の良い点は暴走の危険性がないことだ。

 雷魔法の使い手のように放電したり、感電の恐れもない。

 水魔法のように永遠に水が出て全員溺死の危険性がない。

 そして、逃げることもできない。

 だから、使い勝手が良いのだ。

 くつくつと笑い声をもらし、苦しみに悶える彼は涙に潤んだ目でこちらを見た。

 ――いいね、その目。


「い゙だい゙っっ、や゙だっ」

 涙をぼろぼろ流しながら首をぶんぶんと振る様はまるで赤子のようで愛らしかった。

 ああ、そんなに手を動かしたらより傷んでしまうよ。

 電気を流して数分も経ってないのだから。

 それに、君は自分から来たのだろう?今更返せないよ。


 ■


 はぁ、はぁ、と息切れを起こしながらこちらを見上げた。

 ふむ。

 案外愛らしい顔立ちをしているのか。

 壊れたら僕の嗜好品として存分に愛でよう。

 この状態なら数ヶ月も持たないだろう。

「おいで」

「……っ、……ふ、ぅ゙っ……」

 彼はかたかたと震え、涙目でこちらを睨んだ。

「……ああ、そうか」

 動かないのか、と思いたち、ひょいっと彼を持ち上げた。

「――――っ!?!?」

 驚いたように声にならないような叫びをあげた。

 きっとしばらく同じ体勢だったから痺れているのだろう。

 そう思いとんとん、と研究物モルモットちゃんたちを収容している部屋へ向かった。

 君は小柄だから特別なお部屋。

 ふかふかのソファとベッド、そして本がたくさん詰まった本棚にお洋服。

 ――どうだい、素敵だろう?

 時間数は今日と変わりないから明日も頑張ろうね。

「……っ、ぅ゙っ……、もうやだぁ、………かえりたいっ……おかぁさん……」

 ひっく、ひっくとしゃっくりあげる彼の泣き声をBGMに彼の部屋に向かった。

 明日も楽しみだね、おやすみ。


 ■



 ――収容部屋249番


 ギィ、と扉が閉まりふ、と力を抜いた。

 あの男――胡散臭いサイコパス野郎が言ってたことは嘘では無かったらしい。

 洋服と、本と、ふかふかのソファと ベッド!

 ベッドに倒れ込むと、ふわふわの感触が背中を包んだ。

 痛みでまだ指先が震えているのに、その温かさだけがやけに強く胸に染みた。

 誰か使ってたのか?と思うがそうではないらしい。

 ベッドの中に暖房器具のようなものがあった。


「ふふ、あったかい」

 自然と口角がほころんだ。

 消灯は22時と、あの男は言っていた。

 まだ3時間ほどあるから本読んだり過ごしてよう、と考え本棚へ向かった。


 ■


 青白いモニタの前で男は笑っていた。

 暗い部屋に照らされる男の顔は先程より一層怖く見えていた。

 視線の先にはモニタ――に映る澪がいた。

 男はふふ、と笑いを零した。

「楽しみだね」


 す、と男が手をあげると、いつの間にいたのか黒服の男が「はっ」と声を上げ部屋を出ていった。


 そしてしばらくした後、また戻ってきた。

 黒服は連れてきた男を放り投げた。


「い゙っ、」

 金髪の男でなにやらお調子者のような顔立ちの男だった。

 そして半裸だった。

 体には鞭で打たれたような赤いものがいくつもあった。

「さて、面倒くさいのは嫌なんだけど、君なに?どこの回し者?」

 くるくると男は拳銃を手で弄びながら金髪の男に尋ねた。

 金髪の男は喋らなかった。

 男はふぅん、と目を細め、弄んでいた手を止め、拳銃を持ち直した。

「じゃあ、5つ数えるね。それまでに言ってね。血の掃除面倒だし。」

 黒服は金髪の男の髪を掴み、上体を起こさせた。

 金髪の男の目は爛々としており、ルビーのような綺麗な赤の瞳だった。

 それが男の想定外だったらしく、口元に手を当てて男は言った。

「え〜、この状態で睨めるんだ〜〜こわぁ…やっぱ人間って意味わからない〜」


 4秒が経過しようとしていたとき金髪の男は吐き捨てた。

「妹を、返せ!死ね!」


 それは薄汚い言葉と悲痛さが滲んでいたが、男は「うん、いいよ」と言った。

 そしてぐ、と拳を握った。

 刹那、金髪の男の頭がぐしゃり、と潰れた。

 男の頬にぴしゃ、と血飛沫がかかった。

 ぐし、と袖で拭き取る男の頭部には立派な狼の耳のようなものが生えていた。

 何を隠そう、彼は獣人だった。



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