夜の散歩道

@omuro1

第1話

年末になれば、また同じ顔ぶれが集まるのだろう。


けれど、僕は行かない。

あいつは行くのだろうか。


みんなが集まれば、決まって昔話ばかりが蒸し返される。

時間だけがぐるぐると回り続ける、惰性の渦。

その輪の中に、僕はいつからか馴染めなくなっていた。


あいつも、あの湿ったあたたかさが苦手だと言っていた。

「みんなは、あの頃が一番楽しかったんだろうな」

缶コーヒーの苦さに紛れるように呟いた、あいつの横顔を僕はまだ覚えている。


みんなは普通に働き、結婚して、子どもを育てている。


僕は、転職を繰り返した。

一所懸命に生きてきたつもりだったが、積み上がったものよりも、取りこぼしたものの方が多かった。

その事実を肯定も否定もできないまま、気づけばここに立っていた。


年末のざわめきの外側で、僕はひとり夜空を見上げる。

月の白さが肺を満たし、心が透き通っていく。


明かりのない散歩道。

誰の記憶にも残らない、僕だけの足音。

それだけが、冬のアスファルトを、確かに叩いていた。

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