第2話・そして、容疑者は誰もいなくなった
夢亜が国王の背中に刺さっている、ナイフを指差して言った。
「ナイフに見覚えがありませんか?」
王妃が言った。
「それは、わたくしが【執事】と【近衛兵隊長】にプレゼントした、ペンナイフです……わたくしも一本自分用の同じモノを持っています……今は倉庫の中にあって、手元にはありませんが」
「ペンナイフも先端を研げば、立派に凶器として使えます……執事さんと、近衛兵隊長さんは王妃さまから頂いたペンナイフは今どこに?」
執事が言った。
「数日前から、机のペン差しから無くなっていました」
近衛兵隊長は。
「故郷の母親に送ってしまったので、手元にはありません」
そう答えた。
夢亜が沈黙後に、小鳥のさえずりが聞こえ、考えていた夢亜が口を開く。
「つまり、致死が背中に刺さったペンナイフだとすると……誰でも国王を殺して、他人に罪をなすりつけるコトができると……あくまでも、ペンナイフが凶器の場合ですが」
夢亜は料理長に質問する。
「あなたは『国王さまが好物の夕食のカモ料理が、ムダになってしまった』と、言ったそうですね……そのカモ料理は時間と手間がかかる料理ですか?」
「はい、大変手間がかかる料理です……早い段階から調理をしないと、夕食には間に合いません」
「厨房では、もう調理に取りかかっていたので?」
「いいえ、今朝になってなぜか調理場のかまどが水浸しになっていて、調理ができませんでした」
「妙な話しですね……夕食のカモ料理を作る必要が無くなったとも、受け取れます」
「わたしを疑っているのですか? 冗談じゃない」
「あなたは、過去に国王から料理をバカにされて何度も料理を作り直させられて、恨みを抱いていた……国王の食べる料理に遅効の毒薬を混ぜるコトも料理長のあなたなら可能です……薬物の殺害を欺くために死体の背中にペンナイフを刺すコトも」
ガゼボに集まった王室の人間たちには、国王から罵倒や酷い仕打ちを受けていて、それぞれに恨みを抱き殺害を決行する動機は十分にあった。
王子や王女や王妃にも、国王から罵倒される複雑な人間関係があった。
夢亜が末っ子王女に質問する。
「ところで、城にいる人たちはこれで全員ですか?」
「いいえ、隣国から追放されて逃れてきた、子連れの聖女を名乗る女性がいます、主に礼拝堂で週に一回の拝礼を担当していますが」
「連れてきてください……その聖女からも、話しを聞きたいので」
しばらくして、幼子を連れた聖女が現れた。
聖女は、国王の死体に口元を白い手袋をした手で押さえて、震える声で言った。
「多くの方は国王さまを良く思っていない方が多いようですが……国王さまの悪口はやめてください」
末っ子王女が夢亜に耳打ちする……うなづく夢亜。
「なるほど、国王から特別な要求を、あなたはされていたようですね……男と女の関係で、あなたは敵対している隣国では優遇されていたようですね」
聖女はそれほど、怒っていない口調で言った。
「それが、なんですか……殺人事件に関係があるのですか、プライベートな問題です」
「まあまあ、そんなに怒らないで……国王が亡くなって一番得をするのは誰かと考えた時に、それはこの国の地下資源を狙っている隣国……そして、あなたはなぜかその隣国から追放されて、この国へ子供を連れてやってきて城の住人として入り込んだ……不自然だと思うのは当然でしょう。母親は自分の子供を守るためにはウソもつく」
夢亜は、それ以上……この国の中で死んだ国王を悪く言わない、聖女の過去を詮索しなかった。
青空を仰ぎ見ていた夢亜が、静かな口調で言った。
「大宇宙の謎が数ミリだけ解けました……この事件の真相がわかりました」
末っ子王女が、夢亜に訊ねる。
「お父さまを殺した犯人が、わかったのですか?」
「いいえ、犯人探しはしない方がいいでしょう……国王を殺害した犯人が、わかったところで誰も喜ばない」
「どういう意味ですか?」
「国王は、すべての国民に恨まれていと言ってもいい……もちろん、この城の内部の人間にも、暴言や辛い仕打ちを繰り返してきた……多くの人から恨まれていた国王です……もちろん、末っ子王女のあなたも父親である国王を、なんらかの形で恨んでいたのでは?」
末っ子王女は、夢亜の言葉に唇を噛み締める。
一呼吸置いて、夢亜が言った。
「では、この事件の真相をお伝えしましょう……【国王を殺した犯人を見つけても、誰も喜ばない、死んだ国王に誰も涙しない】……犯人不在の事件、それでいいじゃないですか……すべての人が幸せになるのなら」
犯人不在の事件と聞いて、ガゼボに集まっていた者たちの顔に一瞬、安堵した表情が浮かんで消えた。
異世界王室殺人事件~おわり~
異世界王室殺人事件「全員が容疑者」 楠本恵士 @67853-_-
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