異世界王室殺人事件「全員が容疑者」

楠本恵士

第1話・国王が死んだ

 とある、西洋風のVR異世界〈ドコの世界〉──その日、城は大騒ぎになった。

「大変だ! 国王さまが死んでいる!」


 庭師がバラ園のガゼボ西洋東屋で、仰向けになって死亡している国王を発見した。

 庭師からの報告を受けて、城の者たちがガゼボに集まって国王の死を確認する。


 執事が言った。

「国王さま……なんという無残なお姿に」


 料理長の男が言った。

「誰が国王さまを……国王さまが好物の夕食のカモ料理が、ムダになってしまった」

 王妃や第一王女や第一王子は、無言で父親である国王の死体を見ている。


 城の医師が言った。

「とにかく、国王の死体をこんな場所に放置しては、おけないので城の中に運んでは?」


 近衛兵隊長が言った。

「兵士たちに命じて、城から怪し者が出ていかないようにしましょう」


 その時──末っ子の王女が言った。

「ちょうど、この城に昨夜、立ち寄った旅の探偵がわたくしの横の部屋に滞在してもらっていますから……現場を見てもらいましょう」

 末っ子王女の意外な言葉に、集まっている者たちは怪訝な表情をした。

 特に探偵が城に滞在しているコトを知らされていなかった、メイド長が不機嫌そうな顔をする。

「城に探偵が滞在?」


 王妃が言った。

「部外者に国王の、殺された死体を見せるのですか?」


 とりあえず、集まった全員は渋々、末っ子王女の言葉に従って城に滞在している探偵に、現場を見てもらうコトにした。


 ガゼボにやって来た東洋から来た女性探偵──『地獄坂 夢亜じごくざか むあ』は、死んだ国王の周辺を虫眼鏡で観察してから言った。

「なるほど……これは、非常に複雑な事件です」


 その時──城にいる数人の庶民の雑用人が、厚い熊の毛皮で作られた担架を持って現れた。

 そのうちの一人が国王の死体を見て言った。

「あんれ、本当に王さま死んでいる」

「小屋から熊皮の担架出しておいて、良かっただ」

 夢亜が担架を持って現れた雑用人に訊ねる。

「その熊皮の担架は?」

「これは、王室で死者が出た時に死体を乗せて運ぶための特別な担架だぁ……執事さんに昨夜、言われて用意しておいただぁ、虫干しするために」


「執事に言われて? ふむっ」

 腕組をして考えていた、夢亜が集まっている者たちに国王の死が確認されてからの動向と。

 この現場で各自が発した言葉を聞いて、頭の中で整理しながら。

 各自に質問を開始した。

「まず、第一発見者は庭師のあなたですね」

「はい、いつもよりも少し遅い時間に庭の仕事をはじめようと、この場所の前を通った時に、国王さまが死んでいるのを発見して……慌てて、メイド長さんに報告しました」

「なぜ、メイド長に? 仕事が遅れた理由は?」


 庭師が末っ子王女を見て言った。

「末っ子の王女さまが、隣の部屋に飾る黄色いバラの花が欲しいと言われたので……離れた場所に咲いている黄色いバラを取りに行っていて」


 夢亜が言った。

「確かに、あたしの部屋に花瓶に入れた黄色いバラの花を持ってきたのは、末っ子王女さまでした……メイド長さんに最初に知らせた理由は?」


 庭師が答える。

「慌てて、城内に報告に行ったら最初に出会ったのがメイド長さんだったので」


 今度はメイド長が言った。

「確かに、わたしが最初に庭師からの報告を受けて、執事さんに伝えました」

 夢亜が言った。

「あなたは、わたしが城に滞在していると知って、驚かれたようですね……この中で、わたしが城に滞在しているコトを知っていたのは?」


 第一王子と第一王女が挙手をする。

「チラッとだけ、夜の城で後ろ姿を、お見受けしました……ただ、それだけです」

「あたくしも、城の通路を曲がるお姿をチラッっとだけ」

「確かにトイレにいく時に部屋を一度だけ出ました、その時……なぜ、城の兵士に伝えなかったのですか? わたしが城にいた不審者かも知れないのに?」

「見間違いかと思いましたので」


 夢亜が言った。

「この国に入ってから、いろいろと国王に関する良くない噂を、行く先々で聞きました……死者を前に、失礼ですけれど……国王は多くの人から、恨まれたり憎まれたりしていたみたいですね。民衆は重税で苦しめられていましたから、全員が国王を恨んでいた……つまり、国民全員に国王を殺害する動機があったと言ってもいい」


 夢亜の発言に言葉を挟む城の医師。

「お言葉ですが……その発言は、まるで国王の死因が殺害されたような発言です……死因は城の中に移動させて、医者である、わたしが確認します」


「確認する必要はありません、これは殺人事件です……国王の背中を見ればわかります」

 夢亜は雑用人たちに頼んで、仰向けに倒れている国王の体をうつ伏せに変えた。

 国王の背中には、ナイフが深々と刺さっていた。

 医師を除く、驚く一同に夢亜が言った。

「国王の背中が微かに浮いていたので、刃物が刺さっているとわかりました……あまり血は出ていないようです、仰向けのまま熊皮の担架に乗せていれば、刺さったナイフの存在はわからなかったかも知れません」


 夢亜が医師に言った。

「あなたには、国王の死因究明をするフリをして殺害の証拠を隠すこともできた」

「言いがかりだ! わたしが国王さまを殺したと……動機は? 第一殺害するなら、わざわざ目立つナイフなど使わないで薬を飲ませる、施錠が壊れた薬棚は誰でも薬物を持ち出せる……はっ、ち、違うわたしは国王を殺してはいない」

「慌てないでください……まだ、あなたが犯人だと決まったわけではないです……ここにいる全員が容疑者です、探偵のわたしも含めて」

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