第二章:メモリをさらう亡霊

涼の予感は的中した。

空調業者の PC がフィッシングメールによって乗っ取られ、そこから正規の ID とパスワードを使って ShopMart のネットワークに侵入されていたのだ。

一度内部に入れば、攻撃者は「ラテラルムーブメント(横展開)」を行い、空調システムから決済システムへと足場を広げていった。


「でも、POS レジの通信は暗号化されてるわ。どうやってデータを盗んだの?」

玲奈が問う。

「そこが奴らの狙い目だ」

涼は、マルウェア『BlackPOS(ブラックポス)』の解析画面を見せた。

「通信路が暗号化されていても、データが『平文(ひらぶん)』になる瞬間が必ずある。それは、メモリ(RAM)上で処理される一瞬だ」


レジの端末がカードを読み取り、決済サーバーに送るためにデータを処理するその瞬間、データは暗号化されていない状態でメモリに展開される。

このマルウェアは、メモリの中身を常に監視し(RAM スクレイピング)、カード情報のパターン(16 桁の数字など)が見つかると、それをコピーして外部に送信していたのだ。

「暗号化される前の『生』のデータを、メモリから直接かっさらっていく。まるで調理中のキッチンに忍び込んで、皿に盛られる前の料理を盗み食いするようなもんだ」


「そんな……。防ぎようがないじゃない」

「いや、対策はある。だが今は、止血が先だ」

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