ネットが赤く染まった夏 - バッファオーバーフローの悪夢

SFCA

プロローグ:赤い警告

蒸し暑い7月の午後。

大手Webホスティング会社「CyberSpace(サイバースペース)」の監視ルームで、アラート音が鳴り響いた。


「なんだ? どのサーバーだ?」

システム管理者の洋子(ようこ)が画面を覗き込む。

1台、2台ではない。

10台、50台、100台……。

画面上のサーバーアイコンが、次々と「正常(緑)」から「異常(赤)」へと変わっていく。


「感染拡大、止まりません! 毎分数百台のペースで増えています!」

部下の悲鳴が聞こえる。

洋子は震える手で、感染したWebサイトの一つにアクセスした。

そこには、いつもの企業のトップページではなく、黒い背景に赤い文字で、不気味なメッセージが表示されていた。


『HELLO! Welcome to http://www.worm.com! Hacked By Chinese!』


それは、インターネットがまだ牧歌的だった時代を終わらせる、宣戦布告だった。

後に「Code Red(コード・レッド)」と呼ばれることになるそのワームは、物理的な接触なしに、ただネットワークに繋がっているだけでサーバーを乗っ取る「自己増殖型」の怪物だった。

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