バイプレイヤー

晴久

第1話 来訪

『二十四時間の行政へ──もっと近くに、もっと使いやすく』



国が掲げたこの標語は、すっかり日常に馴染んだ。


僕の所属する 時行監理局じこうかんりきょくでも、この方針でのシフト勤務が導入されて久しい。


午前五時から始まる早朝シフトに合わせ、駐車場から局舎へ向けて早足で歩いている。


「もう真冬だな……」

今朝はとくに冷え込みが強く、指先をこすり合わせながら歩いた。


手のひらをかざすと認証扉が開く。

室内のあたたかさが肌に触れたとき、ようやく肩の力が少し抜けた。


先に出勤していた職員に挨拶をし、自席へ向かう。

端末の電源を入れ、立ち上がりを待つあいだ、窓の外へ目をやった。


層庭居住帯そうていきょじゅうたいが見える。

昔の団地を参考に作られた高級集合住宅で、段々に並ぶ建物の外壁が、少しずつ朝の光を受け始めていた。


あのあたりは、僕が通っていた中学校の学区だった。

そこから通っていた友達も多く、放課後の帰り道を歩く景色はいまもよく思い出せる。


その記憶の中には、あの二人もいる。


国澤 英一くにさわえいいち

原見 節子はらみせつこ


この二人は層庭居住帯そうていきょじゅうたいで隣同士に住んでいて、まるでアニメの設定のようにいつも一緒だった。

たしか、あのころから二人は付き合っていたような……そんな曖昧な記憶がある。


そして、その二人は一つ年下の 櫻井 俊健さくらいとしたけを、よく面倒を見ていた。


俊健くんが原見 節子さんの親戚らしく、二人が彼を猫っ可愛がりしている……と周りは認識していた。

美少年で、どこか現実味の薄い雰囲気を持った子だった。


そんな国澤くんと原見さんとは同じクラスだったが、僕自身は特に親しくはなかった。

ただ一度、クラス役員に選ばれ、半年ほど三人で学級運営をしたことがあった。

決めごとが多い時期だったはずなのに、英一くんが先に段取りし、原見さんと僕が同時進行で作業をして、仕事が驚くほどスムーズに進んだ。


そんな事をぼんやり思い出していると、受付端末が小さな音を立てた。

今日の訪問予定者が表示される。



——国澤 英一・原見 節子


卒業以来、顔を合わせることはなかったこの二人が、担当者に僕を指名してきたのは数日前。

アポイントは午前五時半。


画面を閉じ、端末を持って席を立つ。

来訪理由は、聞かなくてもおおよそ察することができた。


エントランスへ向かう廊下を歩きながら、

「……確か婚約したんだよな。今、おめでとうと言っていいのか迷うな」


口に出した瞬間、思ったより気が重くなった。 

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