ダイヤモンド編 第67話 マライアさんに会いたいからじゃ駄目ですか

「陛下。陛下はこれをご存じでしょうか」


 マライアさんがテーブルの上に置いたのは、形こそ整った八方体だが、表面は茶色がかっている石ころ。


「これは、硬石か……まさかッ!」


「はい、そのまさかでございます。硬石こそがダイヤモンドにございます」


 威厳に満ちていた陛下の額に汗が浮かんだ。


 そして陛下は難しい顔で思考を巡らし始めた。


 重く静寂な時間が応接間に流れる。


「……マライアよ、それを発見したのは――」


 陛下が僕を見る。


「はい。ルシアにございます」


「ワハハハハハハハハ」


 今日一番の笑い声が応接間に鳴り響いた。


「ルシアの事はロンズデール辺境伯から聞いておったが、どれだけ余を驚かせるつもりだ、ルシアよ」


 愉快そうに笑う陛下。


「レスティーナがあの小物王子と婚約など決まっておらなんだら、王家に加えたかったぞ」


 な、何を言い出すんだ陛下は。


「おお、そうだ。ベアトリスはまだ誰も決まって……痛たたた」


 何とエリザベート様が陛下の脇腹をつねり上げていた。


「陛下、ルシアにはマライアという素敵な婚約者がいるのですよ。陛下は北方の荒熊と戦慄姫を敵に回すおつもりですか」


 すると陛下の顔が見る見る青ざめていく。


「ま、マライア、今のは余の冗談だ。けっっっして、戦慄姫にだけは伝えるでないぞ」


 ……お父さんならいいんだ。お母さんは駄目なんだ。お母さん、あなたはいったい……。





 マライアさんは陛下に硬石の状況――カットや研磨の技術的な問題を説明した。


 そして、無価値な硬石を商人を使い秘密裏に集めている事、これらの事を王族派閥を含めた全ての貴族に対し秘匿しつつ進行させる困難さを語った。


「なるほどな。国益と私欲、マライアの考えは間違ってはおらん。さてどうしたものか……」


 何故か陛下は僕を見た。そしてマライアさんも、エリザベート様も僕を見た。


「ぼ、僕ですか? さすがに無理……」


 ――じゃないかも。


 アレを使えば、街道が使えない鉱山村を陸の孤島にできる。であれば職人さんたちさえ納得してくれれば……可能、なのか?


「ルシア、何か考えがあるみたいだな」


 陛下が僕を見て笑みを湛えている。


「はい。少し場所を貸しては頂けませんか」


 僕も負けじと不敵な笑みで陛下にそう答えた。





 お城の舞踏会に使う広間。今はがらんとしていて何もない。広間には僕とマライアさん、陛下にエリザベート様の四人だけ。


「陛下、ここに魔法陣を描いてもよろしいでしょうか」


「好きにして構わん」


 陛下は期待した顔で了解してくれた。僕は手前と奥に大精霊エストリアの魔法陣を使って『阿位置転移』と『吽位置転移』の魔法陣を床に描いた。


「では本邦初公開。阿吽転移魔法陣をお披露目します」


 僕は手前の『阿位置転移』に立ち、魔力を魔法陣に流しながら詠唱をする。


「『吽転移』」


 僕の体は『阿位置転位』の魔法陣から、『吽位置転移』の魔法陣へと転位した。


「マライアさ〜ん。僕が言った詠唱をその魔法陣で唱えてくださ〜い」


 離れた位置からマライアさんに声をかけた。が、マライアさん、いや陛下たちも立ち竦んでいる。


「マライアさ〜ん」


 僕がもう一度声をかけたらマライアさんは我に帰って「あ、ああ」と言って魔法陣に入った。


「たしか……」


 マライアさんが魔力を魔法陣に流す。


「『吽転移』」


 すると、マライアさんも僕がいる方の魔法陣に転移をした。


「どうですか、マライア!」


 僕は会心の笑みでマライアさんに聞いてみたが、マライアさんは呆けている。頭が真っ白、まさにそんな感じだ。


 離れた場所にいる陛下が、顎を外したかのように大きな口を開けてこちらを見ている。


 あれ?


「い、いったん戻りましょう。『阿転移』」


 僕はマライアさんを連れて元いた場所に転位をした。


「あの、皆さん、どうですか。転移魔法陣を使えば誰でも転移が……あれ? 陛下、聞いてます?」


 呆けていた陛下が我に帰ると、マライアさん、エリザベート様も我に帰った。


「ルシアよ、お前というヤツは……転移魔法陣など……」


 陛下が何故かプルプルしている。


「ルシア、いつこんなものを作った!」


 マライアさんの声が大きい。


「え、えっと、さっき?」


「「「さっきぃぃぃ!?」」」


「あ、いえ、構想はあったんです。僕が王都から鉱山村に戻った時に、僕はいつでもマライアさんに転移魔法で会えるのに、マライアさんは僕に会いにいく事ができない。ならば固定型の転移魔法陣があれば、マライアさんも好きな時に、僕に会いに来てくれるかなって」


 僕がまくしたてて喋ると、陛下とエリザベート様は唖然とした顔をし、マライアさんは顔が真っ赤になって、瞳が何故か潤んでいた。


「ワハハハハハハハハハハハハ! 恋人の為だけに世紀の大魔法陣を作ってしまうとは! ルシア、ルシアよ、お主は最高に面白いぞッ!」


「え、だって、僕もマライアさんに会いたいから。ですよね、マライアさん?」


 僕が言うとマライアさんの頭から上気が立ち上がり、マライアさんは顔を赤くして倒れてしまった。

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