王都訪問編 第36話 入試模擬テストは難問だった

 僕は僕の不甲斐なさに落胆していた。


 模擬テストの内容は、国語に算数、総合的な一般教養科目(社会や歴史、芸術など)だった。


 国語は簡単な読解問題で、多少単語の書き取りでつまずいたが――。


「まあ、こんなもんか」


 算数は足し算、引き算の簡単な問題だったが、ローマ数字を書き込むのに手間取った。だって149って答えの数字がCXLIX(149)って書かないといけない。


「ローマ数字、面倒くさすぎ!」


 そして一般教養の問題を見て、崖から突き落とされた気分だ。


【タナビア湖は何領にありますか】、知りません。


【グランシル王国初代国王の名前を書いて下さい】、エロティカ伯爵って書いたら駄目だよね。


「あかん、これはあかんヤツだ……」


 てな感じでほとんど分からなかった。


 はぁ〜、貴族への道は前途多難だな。


 肩を落とし、項垂れていると――。


「はい、それまで」


 先生の終了の声でテストは終わった。


 点数は悪いかもしれないけど、僕の課題が浮き彫りになったのは良かった点だ。


 胸の前で拳をググっと握りしめる。


 一般教養、頑張らねば!





 先生の案内で教室にいた全員が屋外にあるグラウンドにきた。


 グラウンドと言っても前世の学校によくある白線の引かれたトラック競技用ではなく、だだっ広い広場で、いうなれば剣や魔法の練習場のような感じだ。


「何この人だかり?」


 グラウンドには、さっきの教室では見かけなかった子供たちが沢山、ざっと見て百人くらいはいた。違う教室でも模擬テストは行われていたのだろう。


 グラウンドにある壇上に体格の良い体育会系先生が上がった。


「続いて実技試験を行う。武技系の試験を希望する者はこの場で待機、魔法系の試験を希望する者は第二グラウンドに移動だ」


 オープンキャンパス(仮)は実技の模試もあるのか! なんかワクワクしてきた。僕は魔法だな。剣は握ったこともないからね。


 先ほどの学科模試で一般教養が壊滅的に駄目だったから、魔法試験で挽回しよう。同年代の子供の魔法も気になるし、楽しくなりそうだ。





 魔法試験の第二グラウンドに来た子供は二十人もいなかった。そしてその子供たちのほとんどは身なりが良くて、貴族の子息だと思われた。


「人数、だいぶ少ないな」


 そう思っていると近くの会話が聞こえた。


「情けないな。魔法適正者がこれだけとは」


「よいではないですか。人数も少なければナルタス様の価値が高まります」


「フフフ、そうだな。僕様の価値が高まるのは良いことだ」


 なるほど、解説ありがとう。

 

 魔法適正者か。


 僕はたまたま大精霊エストリアから魔法陣を授かったから魔法が使えるけど、普通は魔法適正を確認するみたいだ。


 昔、テレスが言っていた。魔力があっても魔法は使えない。――つまり、魔法適性がなければ駄目ということか。


「一番右端の者から前に出て魔法を使って下さい。あちらの五個の的のうち、三個に当たれば合格です」


 今度の試験官の先生は緑色の長い髪、比較的若く、可愛い先生だった。先生の言う『的』は立っているこの場所から十メートルぐらい離れた場所に立っていて、黒い丸が三重に描かれていた。


 先生に言われ、右端の男の子が「はい」と言って前に出ると、名前を名乗ったあとに魔法を放った。


 火属性の魔法のようだが弱々しい火力で、何とか的に届くとパンっと弾けて消えてしまった。


「やった! 当たった!」


 男の子は喜んでいるけど、あんなんでいいの?


「魔法陣がいびつすぎる。あれじゃ威力が出ないよ」


 魔法陣については小さい頃に色々と試している。魔法陣が崩れていると効果が下がる。


 僕が小さな声でそう呟くと――。


「オホホホ、貴方、分かっているじゃありませんか。あのような無様な魔法陣で試験を受けようなんて、身の程を弁えて欲しいものですわ」


 隣にいた女の子が、キツイ物言いで僕に話しかけてきた。


 って、隣の女の子を見て、つい見惚れてしまった。可愛い女の子だ。そして目を見張ったのが、幾重にも巻かれた金髪縦ロール巻きの長い髪だった。


「き、綺麗な髪ですね」


 思わず出てしまった言葉がこれ。失礼な失言をしてしまったと思ったが。


「オホホホ、貴方、私の髪に見惚れとは、魔法だけじゃなく、美の本質を見抜く慧眼がおありのようですわね」


 大丈夫だったみたいで、ホッと胸を撫で下ろした。


 魔法試験はその後も続いた。最初の男の子が一見ショボい魔法に見えたが、的に届かない子供や、五発とも的に当たらない子供などがいて、十歳の子供の実力のほどが分かってきた。


「あ〜、これだから下賤な輩の魔法は見るだけで不愉快だ! 僕様の高貴でエレガントでビューティフリーな魔法を見せてやろう」


 仰々しい物言いをして前に出た赤いマントを背中に付けた派手な服の男の子。


「僕様の名はナルタス・コーズナー。貧相な君達の魔法とは違う、格の違いをお見せしよう」


 赤いマントをバッと翻す。


「風の大王シルフォーン、美しき我に従い、美しき我の剣となることを許そう――」


 風の大王を従わせる詠唱か! なんか凄い魔法が見れそうだ。


「美しき我に仇なす全てを破壊せよ」


 男の子が両手を前に突き出すと、魔法陣が現れた。詠唱、美しきが多すぎないか?


「ん~、魔法陣が歪んでるな。期待外れかな」


「オホホ、あんな魔法陣はカスですわ」


 見るからにグニャグニャな円の魔法陣。あれでは……。


「風神魔法ビューティフルストーム!」


 ぴゅぅぅ〜。


 なんだ? つむじ風か? いやそれはつむじ風に失礼だ。


 弱々しくグルグル回る風は的に当たると、何事も無かったようにパッと消えた。


 僕だけではなく、その場にいた全員が彼の魔法のショボさに絶句していた。


「フフフ、僕様の美しき大魔法に当てられ声も出ないとはな。フフフ、下民共、僕様の大魔法を崇め敬うことを許そうではないか。さあ、そして美しき僕様を仰ぎ奉れ!」


 こいつ、どんだけ頭の中がお花畑なんだ。そう思いながらも僕の目は彼を睨みつけていた。


「オホホ、貴方、怖い顔をしていますわよ」


 隣の女の子に言われハッとして我に返る。彼の姓が、マライアさんを泣かせたコーズナー伯爵次期当主を思い出し彼を睨みつけてしまっていたようだった。


「えっ、そんなこと有りませんよ、アハハ」


 取り繕う僕。


 あのナルタスってヤツも、人を下民と見下す態度からコーズナー伯爵家に縁があるのは間違いなさそうだ。


「オホホホ、貴方、私が本当の魔法をお見せ致しますわ。そのようなお顔をしないで、この私に刮目致しなさい」


 隣のオホホ女の子は、物言いは赤いマントの男の子に似ているが、纏うオーラがまるで違う。


 女の子が前に出た。


「王族の一柱、レスティーナ・ラ・グランシル参りますわ! 皆様に本当の魔法をお見せ致しましょう! オホホホホホホ」


 高笑いするオホホ女の子。しかし、彼女の姓を聞き僕は驚きを隠せない。


 王族の一柱って、あの子、王女様なの? マジか?


「刮目せよ、ファイヤーランス!」


 無駄な詠唱もなく、赤く美しい魔法陣を白く細い腕の先に展開し、顕現した炎の槍は、赤い火の粉を撒き散らしながら的を撃ち抜いた。


「……綺麗だ」


 僕は見惚れていた。


 爆風になびく金髪の縦ロール。会心の笑みを浮かべる王女様はさながら炎の女神と見紛みまがうほどの美しさだった。

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