王都訪問編 第35話 貴族の道は―王立学院?

 僕の決意を聞いたマライアさんは馬鹿にすることなく、顎に手を当てて思案していた。


「ルシア、貴族になるということは、ウォーカー男爵家を復興させるということか?」


 我が男爵家は今回の事件で取り潰しになったと聞いている。


「いえ、家の復興は考えていません。僕は僕として貴族になりたいんです」


 ぼっち生活十年を送った男爵家には未練も愛着もないよね。家族もほぼ空気だったし。


「ルシア、分かっていると思うが、なりたいと言って簡単になれるようなものじゃないぞ」


(まあ、ルシアなら雨降らしの実績もあるし、叔母様の一言で何とかなるだろうが)


「はい」


 特に僕は囚人の身だ。そんな身分から成り上がることは不可能かもしれない。


「分かっているならいい。貴族の爵位を陛下から賜る場合、戦で武勲を立てた者や、経済危機を救った者。貴族の大半が納得できる実績が最低でも必要だ」


「はい」


「そして、もう一つ方法がある。王立学院で実績を作り、学院長の推薦をもらう方法だ」


 えっ、学院? そのアイディアは全くなかっただけに驚きの声を出してしまった。


「で、でも囚人の身分ですよ」


「まあ、そこは何とかする」


 そう言ってマライアさんが立ち上がった。


(叔母様の力は借りるとして、父上にも助力を乞うか)





 王都の貴族街に近しい場所にグランシル国立学院はあった。


「な、なんか格式高そうな感じですね」


 宮殿を思わせる三階建ての白亜の建物を見上げる僕。窓枠一つとっても繊細な彫り物がされており、その豪華な佇まいに蹴落とされてしまう。


 僕は屋上で風になびく王国の旗を見つめて、その威厳にゴクリと生唾を飲んだ。


 そして格式に押されながらも、校庭を行き交う学院生たちが着ている制服を見て心が躍った。


 青と白を基調とした、いかにも異世界チックな学生服がカッコよすぎる。女子生徒がミニスカートに黒のニーハイなのもポイントが高い。


「は、入っちゃって大丈夫なんですか」


「ああ、この学院は結構フリーで入れるぞ」


「不用心じゃありませんか?」


「アレを見ろ」


 マライアさんが門の両脇に立っているポールを指差した。細い柱の先に丸い球体が付いている。


「何ですかアレは?」


「一言で言うなら防犯球だな。悪意ある人間が入って来ると赤く光り、そこの守衛所から警備員が飛んでくるんだ」


「そ、それって僕、やばくないですか!?」


 囚人さん、1名、ご案内〜とか洒落にならない。


 この世界の防犯魔法がどういう仕組みかは分からないけど、人の思考を読み取るとかちょっと怖い。


「ルシアは大丈夫だ。悪いことは考えていないだろ?」


(しかし……警備の強化か? 黒服の数がいつもより多いな?)


「はい、まぁ、そうですけど……」


 僕は朝の太陽に反射してキラっと輝く銀色の球体。まるで僕を見ているようで、それを不安気に見上げながら校舎の中へと入っていった。





「ルシア、少し時間がかかりそうだから、学院内を見学していてくれ」

 

 マライアさんは学院の先生に知り合いがいるらしくて、これからその先生との打ち合わせをするとのことだ。


「僕、一人でですか?」


 多分、僕の入学とかの話だろうから仕方がないけど、一人で学院見学とか不法侵入者とかで捕まったりしないだろうか?


「案内人を付けるから、その人の案内で校舎を回ってくれ」


 ホッと一安心。分かりましたと告げると、マライアさんは校舎の奥に行ってしまう。


 僕は廊下を行き交う学院生を見ながら案内人を待った。


「こんな所にいちゃ駄目じゃない」


 ショートカットの女子生徒が急に僕の腕を掴んだと思ったら廊下を走り出した。


 え、え、何?


 慌てふためいた僕だけど、女子生徒の腕にある赤い腕章に案内係と書かれてあるのに気がついた。


 この人がマライアさんの言っていた案内人だな。僕は納得して案内人の女子生徒と一緒に廊下を走った。途中、張り紙に『廊下を走るな』と書いてあったが、まあ、スルーだ。


 女子生徒が急に止まり、教室の扉をガラガラガラと開けた。


「間に合ったみたいね」


 そう言った案内人の女子生徒の後ろから教室内を見ると、僕と同じくらいの私服の子供三十人ぐらいが席に座っていた。


「ほら、君も後ろの席に座って」


 促されて僕は戸惑いながらも教室の後ろの席に着席した。


 ん〜〜〜、これってアレだな。体験入学ってやつだ。


 教壇にいた先生風の男性が――。


「今からテスト用紙を配ります。テストの時間は一時間。簡単な問題から難しい問題まであります。諦めずに最後まで頑張って下さい」


 そう言ってテスト用紙を配る。僕の机にもテスト用紙が置かれた。ペンとインクも用意されている。


 これって模擬テスト? 前世の高校生時代に大学のオープンキャンパスで模擬テストをした記憶がある。


 なるほど。さすがは一流の王立学院だ。入学システムが前世並みに進んでいることに感心した。


「テストを始めて下さい」


 先生の掛け声と共に僕はペンを取る。せっかくの模擬テストだ。楽しもう。


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