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 命のもとへ新しいプラスティネーション制作の依頼があったのは、ナイトクラブに行ってから一週間後のことだった。


「秋人さん、新しいプラスティネーションの依頼が来ました。ご遺体は明後日到着予定です。制作過程をご覧いただこうと思いますが、大丈夫ですか?」


 秋人は頷いた。


 人の遺体を見るのは怖いが、命が仕事をしているところが見たいと言い出したのは秋人自身だった。


 命のアトリエにはこれまでほとんど足を踏み入れたことがない。それどころか近づかないようにしていた。

 単純に遺体が怖かったし、命の仕事の邪魔をしたくなかったという思いもあった。


「ああ、問題ない。邪魔はしないようにする」

「ついでにプラスティネーションについての詳しい説明をしましょうか?」


 それは何度か提案されてきたことだった。しかし、秋人は自分の身に起こることだと理解していても、全く興味がなく、これまで聞いたことがなかった。今は命と出会ったころよりも様々なことへの興味関心があった。死に際に新しいことを学んで何になるという思いはなかった。


「そうだな。ついでに頼むよ」


 命のアトリエに運び込まれた遺体は、三十代の男性のものだった。個人からの依頼ではなく、教育機関からの依頼だった。


「今時こういった仕事は珍しいです。プラスティネートされた遺体を後々どう扱うかも問題になりがちですし、何よりレプリカ作成の技術も進歩しているのでそちらを使用する機関も多いです。人体プラスティネートは企業に依頼されることが多いんですけど、今回は手が空いてないらしいので僕のところに依頼が来ました」


 台の上に乗せられた遺体には毛布がかけられていた。命は目を閉じて両手を合わせた。秋人もそれに倣った。


「くも膜下出血で亡くなったそうです」


 命は毛布を軽く持ち上げて、遺体を秋人に見せた。秋人はごくりと唾を飲み込んでから遺体をしっかりと見た。


 遺体は大きな外傷もなく綺麗だった。体つきはがっしりとしていて、素人目には、生前は健康だったように見えた。


 命は毛布を遺体にかけ直した。


「この方は、全身をプラスティネーションにします」


 言葉遣いだけでも命が遺体に対して敬意を払っていることが窺えた。そのまなざしや所作からもそれは滲む。


 命への依頼が絶えない理由を、秋人はようやく知った。


 心の奥底に在る自らの理想的なプラスティネーションを作りたいという欲望を一切覗かせることなく、ただ目の前の遺族や遺体に真摯に向き合うことができるのだ。


 それらがたった一人の中で、矛盾することなく同居し続けているのは、それらが完全に断絶していることが、命の恐ろしくも魅力的なバランスだった。


「全てが芸術品になるわけじゃないんだな」

「ええ、むしろ学術研究目的のプラスティネーション標本作成がほとんどです。遺族向けに作品を作っているのは国内でも僕を含めて数名でしょう」

「この人、家族は?」

「いらっしゃらないそうです。もともと医療関係のお仕事をされていて、もし死んだら標本にしてほしいと希望していたらしく、そしてお亡くなりになったのでこうしてここへいらっしゃいました」


 命はマスクの下で微笑んだのか、目を細めた。


「この先も見学しますか? お顔が真っ青ですよ」

「……見る」


 意地を張っている自覚はあった。だが、命の前から逃げるのは嫌だった。


「無理はしないでくださいね」


 秋人は頷いたが、すでに胃が縮こまって嫌な感じがしていた。

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