第24話 ガムを噛み続けてる人って無理

もう3年以上、ガムを噛み続けている。味なんて、とっくにない。


なぜ噛み続けているのか、自分でもわからなくなった。ただ最初は、どこまでガムって噛み続けられるんだろうという好奇心だった。それが、いつの間にか意地に変わっていた。


気づけばガムは僕の日常の一部になり、授業中も、ゼミでも、絶えず顎を動かし続けていた。最初は味がなくなったらガムを追加していたのだが、ガムの量が大きくなるにつれて辞めた。


ガムの食べ方が男女の付き合い方と同じだと言われるが自分は100人以上の子と同時に付き合うような男だったらしい。


大学で「ガムマン」と陰で呼ばれているのも知っている。でも止まらなかった。

彼女ができたが、「ガムを噛み続けてる人って無理」と言われ、すぐに別れた。


ガムで人生は転落の一途だ。だが、どこかで“噛み応えのある人生”を気取っていた自分もいた。


就活を控えたある日、友人に言われた。


「面接でガムは、やばくないか?」


盲点だった。僕の中では、スーツを着ても、ネクタイを締めても、仕事中もガムを噛み続ける“社会人像”が当たり前に存在していたのだ。


悩んだ末にゼミの教授に相談した。


「ガムを……噛み続けたいんです。」


教授は少し黙った後、言った。


「禅語に『乾屎橛(かんしけつ)』という言葉がある。糞を拭いた棒のことだ。意味は“用が済んだら、さっさと捨てよ”。」


「乾屎橛(かんしけつ)……」


その言葉が胸に刺さった。僕は長年連れ添った相棒をそっとティッシュに包んだ。


久しぶりに何もない口の中は、妙にスッキリしていた。その空白が寂しくて、いつもより自分の声が大きく聞こえた。


「ありがとう、ガム」


今日の夕日は少しいつもより赤かった。

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