『俺達のグレートなキャンプ186 お疲れ気味の管理人さんに意識高い系の和風弁当を作ろう』
海山純平
第186話 お疲れ気味の管理人さんに意識高い系の和風弁当を作ろう
俺達のグレートなキャンプ186 お疲れ気味の管理人さんに意識高い系の和風弁当を作ろう
「よっしゃああああああ!今回のキャンプも最高にグレートだぜええええ!」
石川が両腕を天高く突き上げ、初夏の青空に向かって雄叫びを上げた。その勢いで頭上の木の枝が揺れ、驚いた小鳥が数羽飛び立っていく。石川の目は少年のように輝き、口元は耳まで裂けんばかりのスマイルだ。
「おお!今回はどんなグレートなキャンプなんだ!?」
千葉が目を輝かせながら、キャンプ道具を積んだ車のトランクから荷物を降ろす手を止めた。彼の表情は期待に満ち溢れ、すでに頬が紅潮している。石川の企画を心待ちにしている様子が全身から滲み出ていた。
一方、富山はクーラーボックスを抱えたまま、眉間に深い皺を寄せて固まっていた。
「……また何か変なこと考えてんでしょ」
富山の声は疲れと諦めが入り混じっており、肩が明らかに下がっている。彼女の瞳には「またか」という感情が如実に表れていた。
三人が到着したのは、山間の静かなキャンプ場「緑風キャンプリゾート」。豊かな緑に囲まれ、小川のせせらぎが心地よく響く。平日の午後とあって、まだチェックインしているキャンパーも少なく、のどかな雰囲気が漂っていた。
受付小屋に向かう途中、石川は管理棟の前で立ち止まった。
「見ろよ、あれ!」
石川が指差した先には、管理棟の窓から見える管理人の姿があった。五十代くらいの男性で、デスクに突っ伏すように座り、両手で頭を抱えている。その肩は明らかに疲労困憊といった様子で、窓越しにも重苦しい空気が伝わってくる。デスクの上には書類が山積みで、パソコンの画面も複数開きっぱなしだ。
「あの管理人さん、めっちゃお疲れモードじゃん……!」
千葉が心配そうに眉を八の字にした。
「そうなのよ。この時期、どこのキャンプ場も繁忙期前の準備で大変なの。設備点検、予約管理、草刈り、全部やらなきゃいけないし……」
富山が腕組みをしながら、同情的な目で管理棟を見つめる。彼女自身、何度もキャンプ場を訪れる中で、管理人の大変さを目の当たりにしてきたのだ。
すると石川の目がキラリと光った。それは何か閃いた時の、あの危険な輝きだった。
「よっしゃああああ!決めた!今回のグレートなキャンプは——」
石川が勢いよく拳を握りしめ、全身でポーズを決める。
「『お疲れ気味の管理人さんに意識高い系の和風弁当を作ろう』だああああああ!」
「えええええええええ!?」
富山と千葉の声が見事にハモった。富山は額を手で押さえ、千葉は目を丸くしている。
「い、意識高い系って何よ!和風弁当って何よ!っていうか何でそんなピンポイントなの!?」
富山が両手をブンブン振りながらツッコむ。その動きは完全にパニックモードだ。
「いいか富山!意識高い系ってのはな、SNS映えして、オーガニックで、ヘルシーで、なおかつ『これ食べてる俺センスいい』って思わせる料理のことだ!」
石川が人差し指を立てて、まるで講義をするように説明する。その表情は真剣そのもので、本人は完全に本気だ。
「それを和風で作るってこと!?」
千葉の目がさらに輝きを増した。好奇心旺盛な彼にとって、新しい挑戦はどんなものでも魅力的に映るのだ。
「そうだ!五穀米のおにぎりに、オーガニック野菜の炊き合わせ、発酵食品たっぷりの副菜、そして……」
石川が指を一本ずつ折りながら、まるで高級料理店のシェフのように語り始める。
「ちょ、ちょっと待って!私たち、そんな材料持ってきてないでしょ!?」
富山が慌てて車の方を振り返る。トランクには普段通りのキャンプ飯用の食材しか積んでいない。
「大丈夫だ!近くの道の駅で調達する!キャンプってのは臨機応変が命だぜ!」
石川がサムズアップを決める。その笑顔は自信に満ち溢れていた。
「で、でも管理人さん、受け取ってくれるかな……?」
千葉が不安そうに管理棟を見る。確かに、突然やってきたキャンパーから手作り弁当を渡されるというのは、常識的に考えて怪しい。
「それはその時考える!とにかく行動だ!まずはチェックインして、それから買い出しだあああ!」
石川が荷物を肩に担ぎ、勢いよく管理棟へ向かって走り出した。
「あああ、もう!また始まった……!」
富山が深いため息をつきながら、重い足取りで後を追う。千葉は逆に小走りで石川を追いかけていった。
管理棟のドアを開けると、カランカランとベルが鳴った。
「いらっしゃいませ……」
カウンターから聞こえてきた声は、予想以上に疲れ切っていた。顔を上げた管理人の目には隈ができており、頬もこけている。五十代半ばくらいの男性で、名札には「田中」と書かれていた。
「あの、今日から二泊でお願いします!」
石川が元気よく予約票を差し出す。その明るさとのコントラストで、管理人の疲労がより際立って見えた。
「はい……サイトは……」
田中管理人がパソコンを操作しながら、ゆっくりとした動きで手続きを進める。その指の動きすら疲労で重そうだ。
チェックインを済ませ、サイトに向かいながら、富山が小声で囁いた。
「見た?あの疲れよう……。確かにお弁当くらい作ってあげたい気持ちになるわ……」
富山の表情が少し柔らかくなった。心配性な彼女にとって、困っている人を放っておけないのは性分なのだ。
「だろ?俺の企画、たまには良いこともあるだろ?」
石川が得意げに胸を張る。
「『たまには』って自分で言うな!」
富山がすかさずツッコんだ。
サイトに荷物を降ろし、テントを素早く設営。三人とも何度も経験しているため、作業は手慣れたものだ。石川と千葉がメインポールを立て、富山がペグを打ち込む。わずか二十分ほどでベースキャンプが完成した。
「よっしゃ!じゃあ早速買い出しに行くぞ!」
石川がポンポンと手を叩いて立ち上がる。
「ちょっと待って、具体的に何作るの?計画くらい立てようよ」
富山がメモ帳とペンを取り出した。彼女の几帳面な性格が出ている。
「うーん……まず主食は五穀米のおにぎりだな!それから……」
石川が腕組みをして考え込む。千葉も真剣な表情で一緒に考え始めた。
「あ!スーパーフード入れよう!キヌアとか!」
千葉が手を叩いて提案する。
「おお、いいね!それから発酵食品!味噌漬けとか糠漬けとか!」
「野菜はオーガニックで!彩りも意識して!」
「タンパク質は……豆腐ハンバーグとか?」
「いや、ここは鯖の味噌煮だろ!DHA・EPAだぜ!」
二人が興奮気味にアイデアを出し合う。その様子を見て、富山が深々とため息をついた。
「……わかった、わかったわよ。じゃあリスト作るから、ちゃんと予算も考えなさいよ」
富山がペンを走らせ始める。その表情は呆れつつも、どこか楽しそうだ。
三十分後、車は近くの道の駅「山里の恵み」に到着していた。平日の午後、駐車場にはそこそこの車が停まっている。
「よっしゃあ!意識高い系食材を探すぞおおお!」
石川が車から飛び出し、道の駅の入り口へ突進する。
店内は地元の新鮮野菜や加工品が所狭しと並んでいた。「朝採り」「無農薬」「地元産」といったポップが目を引く。
「おお!これだよこれ!オーガニック野菜コーナー!」
石川が野菜売り場で目を輝かせた。無農薬の人参、有機栽培の小松菜、自然栽培のトマト……まさに意識高い系食材の宝庫だ。
「わあ、すごい!色が濃い!」
千葉が人参を手に取り、感動している。確かに、スーパーで売っているものより色艶が良い。
「これとこれと……あ、富山、五穀米ある?」
「あるわよ。こっちに雑穀コーナーがある。キヌアも売ってるわ」
富山が効率的に商品を選んでいく。彼女の買い物スキルの高さが光る。
「発酵食品は……お、糠漬けセットだ!これいいじゃん!」
千葉が手作り糠漬けのパックを発見した。
「味噌も良いやつにしよう!無添加の!」
石川が調味料コーナーで高級味噌を手に取る。
そうして三人がカゴいっぱいに食材を詰め込んでいると、隣の棚から声が聞こえてきた。
「あら、あなたたち、随分とこだわりの食材選びね」
振り返ると、六十代くらいの上品な女性が微笑んでいた。カゴには同じように有機野菜が入っている。
「あ、はい!これから和風弁当作るんです!意識高い系の!」
千葉が無邪気に答える。
「まあ、素敵ね。最近の若い方は健康意識が高くて感心するわ。お料理上手なのね」
女性が優しく微笑む。
「いやー、それほどでも!」
石川が照れくさそうに頭を掻く。富山は「調子乗らないでよ」という顔をしている。
レジで会計を済ませると、合計金額は予想以上になっていた。
「……八千円」
富山が白目を向いた。
「オーガニックってやっぱ高いんだな……!」
石川も少し青ざめている。
「で、でも管理人さんの笑顔のためだ!行こう!」
千葉が前向きにフォローする。その明るさに、二人も「まあ、いいか」という表情になった。
キャンプサイトに戻り、三人は早速調理を開始した。タープの下に折りたたみテーブルを広げ、食材を並べる。
「よし!まずは五穀米を炊くぞ!」
石川がメスティンに米と雑穀をセット。キヌアも混ぜ込む。水加減を慎重に調整し、固形燃料で炊飯開始だ。
「私は野菜を下ごしらえするわ」
富山がまな板を取り出し、人参、蓮根、椎茸を丁寧に切り始める。その包丁さばきは手慣れたもので、均等な厚さに切られていく。
「じゃあ俺は鯖を処理する!」
千葉が新鮮な鯖の切り身を取り出した。これを味噌煮にする予定だ。
三人が黙々と作業を進めていると、隣のサイトからおじさんキャンパーが顔を出した。
「おお、なんか本格的な料理してんな!」
四十代くらいの男性で、一人キャンプのようだ。手にはビールを持っている。
「ええ、意識高い系和風弁当作ってるんです!」
千葉が明るく答える。
「意識高い系?なんだそりゃ、面白そうだな!」
おじさんが興味津々で近づいてくる。
「管理人さんが疲れてたから、元気になってもらおうと思って!」
石川が五穀米を炊きながら説明する。
「へえ!いい若者だなあ!確かに田中さん、最近めちゃくちゃ忙しそうだもんな」
おじさんが感心したように頷く。どうやら常連客のようだ。
「俺、暇だし、何か手伝おうか?」
「マジっすか!?」
千葉の目が輝いた。
こうして、突如として調理メンバーが一人増えた。おじさんはキャンプ飯のベテランらしく、手際よく豆腐ハンバーグの種を作り始めた。
「豆腐はしっかり水切りしないとな。意識高い系なら木綿より絹ごし使いたいとこだが、崩れやすいからな……」
おじさんが的確なアドバイスをくれる。
「すげえ!勉強になります!」
石川が感動している。
さらに三十分後、反対隣のサイトから若いカップルも覗きに来た。
「すみません、何作ってるんですか?すごく良い匂いがして……」
二十代前半くらいの女性が遠慮がちに声をかけてきた。
「意識高い系和風弁当です!」
もはや千葉の決め台詞になっている。
「えー!インスタ映えしそう!写真撮っていいですか!?」
女性が目を輝かせた。横にいる彼氏も興味津々だ。
「どうぞどうぞ!あ、もしよかったら味見してみます?」
富山が炊き合わせの野菜を小皿に盛って差し出した。彼女も徐々にノッてきているようだ。
「いただきます……わあ!優しい味!出汁が効いてる!」
女性が感動している。
「これ、何の出汁ですか?」
彼氏が真剣に聞いてくる。
「昆布と椎茸の合わせ出汁よ。化学調味料は使ってないの」
富山が得意げに説明する。
こうして、いつの間にか石川たちのサイトは小さな料理教室のようになっていた。おじさんは豆腐ハンバーグを、カップルは糠漬けの盛り付けを手伝い、石川・千葉・富山はそれぞれの担当料理に集中する。
「五穀米、炊けた!」
石川がメスティンの蓋を開けると、ふっくらと炊き上がった五穀米から湯気が立ち上った。キヌアのプチプチ感が加わり、見た目も華やか。
「おにぎり作るぞ!」
千葉がラップを広げ、塩を軽く振る。五穀米を丁寧に握り、形を整えていく。
「おお、上手いな!」
おじさんが感心している。
「千葉、料理の腕上がったな!」
石川も褒める。
「石川がいろんなキャンプ飯作るから、自然と覚えたんだよ!」
千葉が嬉しそうに笑う。
富山の炊き合わせも完成。人参、蓮根、椎茸、絹さやが美しく盛り付けられている。色のバランスも完璧だ。
「鯖の味噌煮もできた!」
千葉が鍋から鯖を取り出す。ふっくらとした身に味噌がよく絡んでいる。
「豆腐ハンバーグも焼き上がり!」
おじさんが達成感のある表情でフライパンから取り出した。表面はこんがり、中はふんわり。
「糠漬けと味噌漬けも盛りましたー!」
カップルの女性が小皿に色とりどりの漬物を並べる。
「よっしゃああああ!全部できたああああ!」
石川が両手を挙げて叫んだ。
テーブルの上には、色鮮やかな料理が並んでいる。五穀米のおにぎり、煮物、鯖の味噌煮、豆腐ハンバーグ、各種漬物、そして仕上げに梅干しと胡麻。
「お弁当箱に詰めよう!」
富山が用意していた三段重ね弁当箱を取り出した。なんとこれも道の駅で見つけた竹製の高級品だ。
「おお、やるな富山!」
石川が感心する。
慎重に、そして芸術的に、料理を弁当箱に詰めていく。彩りを考え、高さを調整し、隙間なく美しく。まるでプロの料理人のような手つきだ。
「できたあああああああ!」
完成した弁当を見て、全員が歓声を上げた。
三段重ねの弁当箱には、まるで料亭の懐石料理のような美しさで料理が詰められている。五穀米のおにぎりは光沢があり、野菜の炊き合わせは彩り豊か。鯖の照りが食欲をそそり、豆腐ハンバーグはふっくら。漬物の赤、緑、黄色が目を楽しませる。
「これは……意識高い系というか、もはや芸術品だな」
おじさんが感嘆の声を漏らす。
「インスタにアップしていいですか!?」
カップルの女性が既にスマホを構えている。
「どうぞどうぞ!」
石川が承諾し、女性はいろんな角度から写真を撮りまくった。
「さあ、管理人さんに届けに行くぞ!」
石川が慎重に弁当箱を持ち上げる。
「ちょ、ちょっと待って!本当に受け取ってもらえるかな……?」
富山が急に不安になってきた。冷静になると、やはり突然手作り弁当を渡すというのは怪しい行動だ。
「大丈夫!この美しさを見れば、愛情がこもってることがわかる!」
千葉が前向きにフォローする。
「そうだよ!気持ちが大事!行こう!」
石川が先頭に立って歩き出した。富山と千葉がその後に続く。なぜかおじさんとカップルもついてきた。
「俺も手伝ったし、結果見たいわ」
「私たちも気になります!」
こうして、総勢六人の大名行列のような集団が管理棟へ向かった。
夕方の管理棟。窓から差し込む西日が、相変わらず書類と格闘する田中管理人を照らしている。
「すみませーん!」
石川が元気よくドアを開けた。カランカランとベルが鳴る。
「はい……」
疲れた声が返ってくる。顔を上げた田中管理人は、六人もの集団を見て目を丸くした。
「あ、あの、何か問題でも……?」
警戒するような表情だ。確かに、大人数で押しかけられたら何事かと思うだろう。
「いえいえ!あの……これ!」
石川が三段重ねの弁当箱を差し出した。
「……え?」
田中管理人が困惑している。
「管理人さん、お疲れのようでしたので!意識高い系の和風弁当作りました!」
千葉が明るく説明する。
「い、意識高い系?」
田中管理人がますます困惑する。
「五穀米のおにぎりに、オーガニック野菜の炊き合わせ、鯖の味噌煮、豆腐ハンバーグ、発酵食品たっぷりの漬物!全部手作りです!」
富山が料理の説明をする。彼女も乗ってきた以上、ちゃんと説明したいのだ。
「え、でも……」
田中管理人が戸惑っている。その表情には、嬉しさと困惑が入り混じっている。
「田中さん、受け取ってあげてよ。この人たち、マジで二時間かけて作ったんだから」
おじさんが助け舟を出した。
「写真も撮らせてもらいました!めっちゃ綺麗なんです!」
カップルの女性がスマホの画面を見せる。
田中管理人が弁当箱を受け取り、蓋を開けた。
「……!」
その瞬間、田中管理人の目が大きく見開かれた。整然と並ぶ色とりどりの料理。丁寧に握られたおにぎり。艶やかな鯖の味噌煮。
「これは……すごい……」
田中管理人の声が震えている。
「疲れてるみたいだったから、栄養バランス考えて作ったんです!五穀米でミネラル補給、発酵食品で腸内環境改善、鯖でDHA・EPA、野菜でビタミン!」
石川が熱く語る。
「意識高い系って、つまり健康的ってことです!」
千葉が補足する。
すると、田中管理人の目に涙が浮かんできた。
「……ありがとう。本当に……ありがとう」
その声は感動で詰まっている。
「最近、繁忙期の準備で休む暇もなくて……朝からコンビニ弁当ばっかりで……家族も心配してたんだ……」
田中管理人が弁当箱を見つめながら、震える声で語る。
「こんなに丁寧に作ってもらえるなんて……嬉しいです……本当に……」
涙が一筋、田中管理人の頬を伝った。
「うわああああん!管理人さーん!」
感動しやすい千葉が先に泣き出した。
「もう……千葉、泣きすぎよ……」
富山も目頭を押さえている。彼女も実は感動している。
「よかったああああ!喜んでもらえてえええ!」
石川も涙声だ。
おじさんとカップルも、もらい泣きしている。管理棟は感動の渦に包まれた。
「早速いただきます……」
田中管理人が手を合わせ、おにぎりを一口食べた。
「……美味しい。すごく優しい味だ……」
田中管理人が目を閉じて噛みしめている。
「鯖の味噌煮も……ふっくらしてて……」
「炊き合わせも……出汁が染みてて……」
一品ずつ丁寧に食べていく田中管理人。その表情は、疲れが少しずつ取れていくように穏やかになっていった。
「こんなに幸せな気持ちで食事するの、久しぶりだ……ありがとう、本当にありがとう」
田中管理人が深々と頭を下げた。
「いえいえ!こちらこそ、いつも素敵なキャンプ場を提供してくれてありがとうございます!」
石川が慌てて手を振る。
「そうです!このキャンプ場、最高ですから!」
千葉も笑顔で応える。
「施設も綺麗だし、自然も豊かだし……管理人さんの努力のおかげですよね」
富山がしみじみと言う。
田中管理人がまた涙ぐんだ。
「みんな……本当にいい人たちだ……」
しばらくして、管理棟の外に出た六人。夕日がキャンプ場を茜色に染めている。
「やったあああああ!大成功だああああ!」
石川が拳を突き上げた。
「うん!管理人さん、すごく喜んでくれたね!」
千葉も満面の笑みだ。
「まあ……結果オーライね」
富山も珍しく素直に喜んでいる。
「お前ら、いい若者だな。俺も元気もらったよ」
おじさんが石川の肩を叩いた。
「私たちも感動しました!今日のこと、一生忘れません!」
カップルも目を赤くしながら笑っている。
「よっしゃ!じゃあ俺たちのサイトで打ち上げだ!飯はまだたくさんあるぞ!」
石川が先頭に立って歩き出す。
「おお、いいのか!?」
「もちろんです!みんなで作ったんですから!」
こうして六人は、石川たちのサイトへ向かった。
タープの下、ランタンの明かりに照らされながら、六人は輪になって座っている。残っていた料理を分け合い、おじさんが持ってきたビールで乾杯した。
「かんぱーい!」
「意識高い系和風弁当作戦、大成功!」
「管理人さんの笑顔、最高だったな!」
笑い声が夜のキャンプ場に響く。
「でも石川、次は何作るんだ?」
千葉が目を輝かせて聞く。
「うーん……次は……」
石川が夜空を見上げて考える。
「ちょっと!まだ何か考えてんの!?」
富山が慌てて止めに入る。
「大丈夫大丈夫!次も絶対グレートだから!」
石川が親指を立てる。
「もう……」
富山が呆れながらも、その顔は笑っていた。
空には満天の星。焚き火の炎が揺れ、虫の声が心地よく響く。
「キャンプって、やっぱり最高だな」
おじさんがしみじみと言った。
「ええ、本当に」
カップルも頷く。
「どんなキャンプも一緒にやれば楽しくなる!」
千葉が得意のセリフを言う。
「奇抜でグレートなキャンプ、最高だぜ!」
石川も負けじと言う。
「……はいはい、グレートグレート」
富山がため息をつきながらも、温かい目で二人を見ている。
その夜、管理棟では田中管理人がまだ弁当を食べていた。一品一品、ゆっくりと味わいながら。スマホには家族へのメッセージが打たれている。
「今日、素敵な若者たちに手作り弁当もらった。すごく美味しくて、元気出た。明日からまた頑張れそうだよ」
田中管理人の顔には、穏やかな笑顔が浮かんでいた。疲れは残っているが、心は満たされている。
窓の外に目をやると、石川たちのサイトからは楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
「いいキャンパーたちだな……」
田中管理人は微笑み、また弁当を一口食べた。
翌朝、三人が管理棟の前を通ると、田中管理人が外で清掃作業をしていた。
「おはようございます!」
石川が声をかけると、田中管理人が振り返った。
「おはよう!昨日はありがとう!おかげでぐっすり眠れたよ!」
その表情は昨日より明らかに明るく、目の隈も薄くなっている。
「本当ですか!よかったあ!」
千葉が飛び跳ねて喜ぶ。
「あの弁当、家族にも写真送ったら、みんな感動してた。『そんな優しい人たちがいるんだね』って」
田中管理人が嬉しそうに語る。
「こちらこそ、喜んでもらえて嬉しいです」
富山も穏やかに笑う。
「また来てね。今度は俺が何か美味しいもの作るから」
「本当ですか!やったー!」
石川が子供のように喜ぶ。
別れ際、田中管理人が手を振った。その手には、昨日とは違う活力がある。
車に乗り込み、キャンプ場を後にする三人。
「今回のキャンプも最高だったな!」
「うん!管理人さん、元気になってよかった!」
「まあ……たまにはいい企画もあるわね」
富山が素直に認めた。
「おお!富山が褒めた!貴重だ!」
「調子乗らないで」
車内には笑い声が響く。
「次はどんなグレートなキャンプにする?」
千葉が期待に満ちた目で聞く。
「んー……次は『隣のサイトの子供たちに木工教室を開こう』とか?」
「それいいね!」
「ちょっと待って、私たち木工できるの!?」
「できなくても何とかなる!」
「何とかならないわよ!」
賑やかな会話が続く。車は次のキャンプ地を目指して走っていく。
後部座席から見える景色には、青空と山々が広がっている。
「俺たちのグレートなキャンプは、まだまだ続くぜえええ!」
石川の叫びが車内に響いた。
そして石川達の、奇抜で愉快で心温まる、グレートなキャンプの旅は続いていく——。
(了)
『俺達のグレートなキャンプ186 お疲れ気味の管理人さんに意識高い系の和風弁当を作ろう』 海山純平 @umiyama117
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