第1話 『声』
「チリリリリ……チリリリリ……」
アラームの甲高い電子音が、静かな部屋に響き渡る。
窓からは柔らかな朝日が差し込んでいた。
しかし、ベッドで丸くなっている少年は、まるでその音がこの世のものではないように微動だにしない。
母「アーシェン!! もう七時半よ!」
勢いよくドアが開き、母の怒った声が飛び込んできた。
次の瞬間、掛け布団が容赦なく引き剥がされる。
ア「うわぁぁ! 寒いって! やめ──って、七時半!?
もっと早く起こしてよ!」
母「あんたねぇ……お父さんみたいなレゾナントになりたいんでしょ?
まずは生活習慣を整えなさいよ」
ア「勉強はちゃんとしてるってば!」
寝癖のついた髪をわしゃわしゃとかきながら、アーシェンは慌てて制服に袖を通す。
机の上には付箋だらけの“エーテル史”の教科書。
一方で、数学の宿題プリントは昨夜のまま白紙で放置されていた。
母は苦笑しつつ、アーシェンの寝癖を整えながら言う。
母「アーシェン……エーテル史以外もしっかりやらなきゃダメよ。
じゃないと、お父さんみたいに──」
ア「わかってるよ……」
その言葉を遮るようにアーシェンが答える。
気まずそうに笑いながらも、その表情には憧れがにじんでいた。
父はアンリアルコアの適合者であり、歴史学者でもある。
毎日研究漬けだが、世界の理に迫るその姿は、アーシェンにとって眩しい理想そのものだ。
ア「父さん、今日も朝から研究?」
母「ええ。昨日も遅くまで戻らなかったから……また古代記録の調査でもしてるのかもね」
ア「そっか」
食パンを咥えたまま靴を履き、アーシェンは玄関を飛び出した。
◆
通学路には透明な柱が等間隔に並び、
街の中心にそびえる巨大な“エーテル柱”が朝日を受けて淡い光を放っている。
ア「今日もきれいだな……」
アーシェンは見惚れながら歩く。
この世界ではエーテルは空気のように当たり前に存在している。
しかし、それと共鳴し、力として扱えるのはレゾナントだけ。
だからこそアーシェンは憧れた。
父のように、世界の真理に触れられる存在に。
そのとき──
?「アー……シェン……」
風ひとつない朝。
周囲には誰もいないはずだった。
なのに、耳元で誰かが囁いた。
ア「……え?」
立ち止まった瞬間、視界に白いノイズが走る。
世界全体が一瞬だけ揺れたように感じた。
?「見つけた……アー、シェン……」
ア「誰だ!? どこにいる!」
胸の奥がざわつく。
冷たく、重い何かが心に落ちてくる。
確かに声は聞こえたのに、姿も気配も存在しない。
ただ──「呼ばれている」感覚だけが、鮮明に残った。
ア「気のせい……じゃないよな?」
アーシェンは肩越しに何度も振り返りながら、小走りで学校へ向かった。
このときはまだ知らなかった。
この“声”が今後の自分の人生を導くこと。
そして──
この“声”がアーシェンの運命を大きく変えることになるのだと。
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