第一章︰青年編

第一話『青年と冒険』

 朝日が昇りはじめ、薄い金色が森の端を染めていく。


 軋む木枠と、湿り気の残る藁の寝床の上で、青年はゆっくりと身を起こした。

くしゃりと乱れた青い髪を指でかきわけると、優しそうな青い瞳が光を受け、ゆるく瞬く。


「……よしっ」


 小さく息を整えてから、荷物をまとめる。

部屋の片隅には、細身のスティレットが静かに置かれていた。

手入れの跡が美しく残るそれは、旅をともにしてきた唯一の相棒だ。


 宿屋の階下に降りると、女将に軽く会釈をし、焼きたてのパンをひとつ頬ばる。

 外に出ると、朝の空気はひんやりとしていて、どこか音が少ない気がした。

けれどその静けさは、青年には不思議と心地よく思えた。



 森の道へと踏み出す。

木漏れ日がゆるやかに揺れ、鳥の声は少し遠くに沈んでいくようだ。

それでも青年は気に留めず、静かに歩みを進めた。


 コク──

村を出てそこそこ経つ、気弱そうな見た目の青年だ。

 ダンジョンで拾ったものを売り歩き、定住できる場所を探す旅を続けている。

一人旅にも慣れてきたつもりだったが、それでも時折、胸の奥がひゅっと冷える瞬間はあった。



 旅をしている最中、誰かが言った。


『一人は、やめた方が良いよ』


 理由を聞いても、誰もはっきりとは言わなかった。

ただ“行方不明が多い”──そんな曖昧な警告だけが耳に残っている。

それでもコクは歩く。歩ける限り、自分の足で進んでいたいと思った。


 ふと、森の横手に開けた地を見つける。

そこに、ぽっかりと黒い穴が口を開けていた。

土がすり鉢状に沈み、差し込む木漏れ日が、暗がりに細く伸びている。


 コクは目を細めた。


「……ダンジョン、かな?」


 自然と頬が緩む。

 胸の奥の小さな期待が、ひと押しするようにふくらむ。


 コクは一度だけ深呼吸し、黒い穴へ向かって歩き出した。

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