《怪盗視点》デスゲーム真拳

【固有スキル:ホームルーム】


【――着席。】


 

 垂れ幕の上の椅子に、男が現れた。

 仮面をかぶった、痩身そうしんの男。


 今まで隠れていたとか、超スピードでやってきたとかじゃない。


 この男、明らかに無から現れた。

 

 間違いなく――転移によるものだ。


「なにィ? あんた誰ェ?」


 ぶっきらぼうに尋ねる怪盗に、男は優雅に一礼する。


「初めまして。私、デスゲーム斉藤と申します」


 

 【革袋商会 広報部】と【怪盗】の戦争。

 

 その火蓋は、クラン外からの協力者であるこの男により切られた。


 /


「んっんー、悪趣味な名前だねェ」


「ククク……。それは私にとっては褒め言葉です」


「で、あんたは何しに来た? 営業回りじゃあないんだろう?」


当然不是ドンランブーシー(まさか)!」


 デスゲーム斉藤は指をパチンと鳴らす。

 仮面の内側が、笑った。ような気がした。


「もちろん、殺しにきたのですよ。貴方を」


 次の瞬間、機械仕掛けの動く音がした。


「ちょ……なにィ??」


 怪盗の横の長椅子が、沈む。床の下へと格納されていく。

 

 複雑な歯車の機構がむきだしになり、メタリックな機械が上がってくる。


「闇オークション統括委員会の皆さんに協力していただき、複数の処刑道具を設置させていただきました。今この瞬間から、ここは擬似的なデスゲーム会場となります!」


 回転刃をつけたアームが出てくる。

 階段席の一部が持ち上がり、下から魔砲が突き出す。

 天井から首を伸ばしたクレーンは、大きな鉄球をブンブン振り回している。


「アンタ正気……? オークション客を巻き込むじゃないかァ」


冇問題モーマンタイ。巻き添えは減らすよう努力します」


 言ったそばから、客の一人が鉄球を食らって天井まで吹っ飛んだ。


「ほら、言わんこっちゃない……」


 怪盗のあきれ声に答えたのは、


「おーい、あんちゃん。俺たちゃ、リスクは承知の上で来てんだぜ」


 客席からだった。オークション客のヒゲ面の男が腕を組んで、どこか得意げに話し出す。


「見てみなよ。みんな情けなく逃げ惑ってはいるが、会場から脱走したり、ログアウトしたりしてるやつは一人もいないだろう?」


 その周囲の客も、次々に口を開く。


「ガルトリンゲンにいるのは職人としてプレイしているやつら。みんな、怪盗に息子同然の作品を盗まれて難儀してたんや」


「だから……! オマエの吠え面を眺めるために、オークションに来たのよ!」


「てめえの処刑がみられるなら、デスペナルティーも、ちょっとだけ怖くねェ!」


 皆、遠巻きに怪盗をにらみつけながら、やいのやいのとヤジを飛ばす。

 

 それをクスリ、と苦笑する者があった。司会である。


 緑スーツに身を包んだ女は、マイクを片手に、ヤジに負けじと声を張り上げた。


「皆さーん、こっちに注目♡ 会場がデスゲームと化そうが、オークションは続行します♡」


「うおおおおお!!!!!」


 熱気が爆発したところで、デスゲーム斎藤は手元に準備した操作盤を軽やかに打鍵だけんする。


「さて、やりますか」


 鉄球が。回転刃が。


 怪盗をめがけ、一直線に飛んできた。


 それをくぼんだ眼窩がんか一瞥いちべつし――怪盗はあくびをした。


「はァ……派手なだけの攻撃だねェ」


 怪盗は飛び跳ねる。

 

 身体強化系の魔法を用いた、三段ジャンプ。高い。

 凶器は怪盗の足下スレスレを通過した。


 刹那、魔砲が迎撃。

 レーザーが、赤い筋を描いた――


 空中で身をひねらせて、そのすべてをかわした。

 

 そのままマントを広げる。


 落下の勢いを殺し、鮮やかに着地。


「なにこの攻撃。チート使うまでもないよ」


ハオ。そうこなくては!」

 

 デスゲーム斉藤が二度、手を鳴らす。

 

 怪盗の足下にプス、と開くのは無数の穴。

 次いで鉄の針がジャキン!と生える。

 

 怪盗はくるりとマントをひるがえし、群衆のなかに紛れ込んだ。


「フフフ……隠れられても冇問題モーマンタイ。おぱんつ星人様、お願いいたします」


 

【固有スキル:ホームルーム】


【――着席。】


 

 オークション客に混じっていた、サラリーマン風の地味な男。

 

 革袋商会、広報部二課。【第七席】おぱんつ星人が固有スキルを発動させる。


 システムの音声とともに、怪盗は転移し、離れた椅子に強制的に着席させられる。


「では」


 デスゲーム斉藤が右手を振り上げたのを合図に、回転刃のアームが怪盗の頭上を回る。

 そして、それを囲うように、複数の鉄球が周回する。


 怪盗の退路が完全に絶たれたところに、投石機が照準を合わせた。

 

 逃れる手段は、ない。しかし次の瞬間。


「第Ⅲ類魔術【スティール】。対象:【ネジ】」


「なッ……!?」


 全ての処刑道具が、バラバラになって崩れ落ちた。

 機械類の残骸から、怪盗がひょっこりと顔を出す。


「いただいたわよォ。全部のネジを」


 怪盗が握りしめていた手を開くと、じゃらじゃらと大量のネジが地面に落ちた。


「ネジを奪うことで……この大量の処刑道具を……一瞬にして解体した?」


「【スティール】。効果は、『低確率で物を盗みとる』。職業ジョブ盗賊シーフの者にとっちゃ、基本的な魔術だねェ。でも、ぼくにかかれば、凶悪な術と化す!だって」


 怪盗は勝ち誇ったように胸を張る。


「ぼくは幸運値がMaxになるチートを使っているから! 百発百中でなんでも盗めるんだよ」


「……無茶苦茶じゃないですか」


「ああ!だからぼくは、最強だ」


「……まぁ、チートの概要は【革袋商会】様から聞いてはいたのですが。あれだけ用意した道具が、こうも短時間でおしゃかになるとは思いませんでしたよ」


 デスゲーム斉藤はそこで数秒沈黙する。

 

 そして意を決したように背筋を伸ばすと、垂れ幕から飛び降り、怪盗に向かって歩き始めた。


「私はデスゲーム運営をやってきました。多くのプレイヤーが悪あがきするさまをみてきた。そう。窮鼠猫を噛むとも言うように、人は逆境で、とんでもない力を発揮するのですよ」


「あっそ。でももう詰みじゃね? 自慢の処刑道具ももうないし」


「……極限状態での行動パターンを幾度となく観察することで、私はひとつの技術を編み出しました」


 

 その名も――


 

「弾けろ。【デスゲーム真拳】!!」


「ぐぁあああああああああ!!!!!!!!!!」


 突如繰り出された拳に、怪盗は数メートル吹っ飛ぶ。


「アタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタッ!!!!!!」


「むぐぉおおおおおお」


 壁を背に倒れた怪盗に向かって、デスゲーム斉藤は追いラッシュを浴びせる。


「真の窮地でのみ発動する【デスゲーム真拳】は! 岩をも! 穿うがつ!」


「や、やめろ! 骨折する!!」


 哀願する怪盗へ、とどめとばかりに、強烈な蹴りを食らわせた。


 怪盗は壁を突き破り、その向こうにあった係員用控え室に人型の穴を開け、棚に頭から突き刺さった。


「お邪魔します」


 デスゲーム斉藤は礼儀正しく入口で靴をぬぎ、一礼し、足音静かに控え室を歩いて、ぶっ倒れている怪盗の前に立つ。


「やはり暴力。暴力に破れぬものはない、というのがデスゲームから学んだ教訓です。……おや?」


 怪盗の様子が――おかしかった。


「手応えはあったのに――効いていない? いや、再生したのか?」


 怪盗は棚に手をつき、刺さっていた頭を抜く。


「知ってるかい? スケルトンの種族スキル【死者蘇生】。キルされたとき、低確率で復活するってやつだ」


 そしてデスゲーム斉藤の顔をじっと見て、不敵な笑みを浮かべた。


「これも【幸運値】のチートで百発百中で発動するから、ボクは実質、不死身なんだよォ!」


「貴方……無敵ですか……?」


「じゃあ今度はぼくの番だ!」


 怪盗がマントから取り出したのは、刀身から青いオーラの出ている片手剣レイピア

 

糟了ザオラ(まずい)……!」


「お返しだ、死にさらせ!!!」



 


「まあ、知っていたんですけどね」


 突然、落ち着いた声でデスゲーム斉藤は言い放つ。


「なに……!?」


「貴方の不死身も、なにもかも。ただ時間稼ぎをしたかっただけなんです」


 デスゲーム斉藤が語るなか、怪盗は片手剣で斉藤の喉元を突こうとする。

 しかし、できない。


「【革袋商会】様は戦闘時に配信をするクラン。私の役割は、その配信準備を整える時間をつくることでした。そしてそれは……」


「はい! 達成されたのです!」

 

 怪盗の片手剣は、イモムシのナイフにより止められていた。


 イモムシだけではない。

 【第二席】マコト。

 【第三席】病葉。

 【第六席】サボテンサンバ。


 広報部 二課の面々が、現着していた。

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