ともだち、ひゃくにんできるかな

「……さっき、アタリって言ってたな。君はみたのか? ミスティルテインの店が爆破されるところを」


「あ、もちろん見てたっス。だってそれやったの、オレですから」


 あっさりと。悪びれる様子などまるでなく、オールフレンダーはさらりと自白した。


 少し考えるような仕草をすると、さらにこう付け足す。


「いや、オレがやった……なんて言ったら、協力してくれた友達に悪いっスね。がやりました」


「……なぜだ?」


 僕の問いに、オールフレンダーは小首をかしげると、


「運営からのお知らせ、まだ見てないっスか?」


 ウィンドウを出して、ある画像を表示した。

 それは掲示板のスクリーンショットだった。


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 親愛なる冒険者プレイヤーの皆様へ


 イベント【ホウライの宵風よ、永久とこしえに】をお楽しみでしょうか。

 

 今回のイベントは【ホウライの玉の枝】を探すというものですが、広大なマップのどこを調べればよいかわからない。そんな方もおられるかもしれませんね。


 そんな皆様のために、追加情報をお届けいたします!

 

 【ホウライの玉の枝】はすでに、ある方が保有しております。


 そして、その方は現在、マルドゥク村の市街地にいらっしゃいます。

 

 【アドベントゥラ・インフィニタ】運営事務局では、今後も【ホウライの玉の枝】を所持している方の所在地を定期的にお伝えする予定です。


 ですから、当アイテムを取り損ねた皆様も大丈夫。まだまだチャンスはありますよ!

 

 一方、【ホウライの玉の枝】を手にされた方につきましては……他のプレイヤーに狙われないよう、くれぐれもご安全にお過ごしください……!

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 僕らが探し求めている【ホウライの玉の枝】。

 それを持っているやつが近くにいる。


 思わぬ事実に胸が高まる。

 が、それも一瞬。

 

 目の前で真っ赤な口をパクパクさせるパペットに、すぐに現実に引き戻される。


「ってわけっス。でも誰が【ホウライの玉の枝】を持っているかは分からないから……とりあえずマルドゥク村の全プレイヤーを殺すと決めたんス。だから」


 ジャギン!

 ウサギのパペットから、鉤爪かぎづめが4本突き出した。


 オールフレンダーは姿勢を低くし、構えをとってこう告げる。


「君らも死ぬっスよ」


「え、ちょ、ちょっと待って……!僕らは【枝】、持ってないけど……??」


 そう抗議する僕に、奴は耳を貸す様子もない。


「はいはい、とりあえず死んでから弁明するっスよ~。じゃ、みんなぁ、出ておいでぇ~(裏声)」


 男がパンダのパペットの口をパクパクさせながら、声高に叫ぶ。


 次の瞬間、ボゥ、ボゥ、ボゥ、と転移ワープ魔法の作動音が連発した。


 出現するのはプレイヤーの一団。


「なんでこんな変なやつに振り回されにゃならんのだ……」

 

「しょうがねえだろ、友達料きゅうりょうもらってんだから」


 閑静かんせいだった市街は、一気に騒がしくなった。

 小声の文句がブツブツと聞こえてくる。

 あまり統率はされてなさそうだが、恐るべきはその数だ。


「逃げても無駄っスよ。オレの99人の友達が取り囲んでるっス」


 99人。

 オールフレンダーはそう言う。


 実際、その言葉に嘘はなさそうだった。

 あっちを向いても、こっちを向いても、人、人、人。

 大量の人の壁に、僕らは取り囲まれている。


「……へぇ。サービス終了直前のゲームで、よくそれだけ集めたな」


 そう言うと、オールフレンダーは得意げに胸を張る。


「友達を100人作ること。それが死んだ婆ちゃんとの約束だったっス」


 そこで感慨深げに一息つき、さらにこう続ける。


「【ホウライの玉の枝】をくれたら友達になってあげる。そう言ってくれた人がいたんス。オレはあの人を100人目の友達にするんだ。だからあのアイテムは絶対手に入れるっス!」


「……所詮は烏合の衆。僕とミネラルウォーターでなぎ倒してやるよ」


「君らに勝ち目はないっスよ……!幾重もの防御魔法に守られていた【剣商 矛盾】も、オレと友達の一斉射撃で陥落したんっス。この世界の絶対のルールはやはり、友情・努力・勝利っス!!」


 場の空気は一気に緊迫する。


 だが、問題がある。

 僕は今、武器を持っていないってことだ。


「この事態だ、今だけでもアンクラーゲを返」

 

 ミネラルウォーターに訴えかけたその瞬間。

 僕の脳は思考を停止し、言葉は引っ込んだ。


 僕だけではない。


 その場の者すべてが動きを止めていた。


 この状況にとってあまりに異質な音――のんきな鼻歌が聞こえたからだ。

 


「♪線路はァ続くよ、どっこまでっもー」





 皆が振り返った先には、白の詰め襟制服の男が一人、タバコをくわえている。


「なんだこのオッサン??」

「ボイスチャット切り忘れて熱唱……??いや、恥ッず」

  

 ざわめく群衆に、その男はおどけた表情を作って両手を上げた。


「おっと、勤務時間中にタバコを吸うのは御法度ごはっとやったなァ。ちーと舞い上がってたわ、ごめんな」


 そうニンマリ笑うと、火のついたタバコを吐き捨てた。

 タバコはくるくると回転しながら、細い白煙を残して落ちていく。


 その先に待つのは……いつの間にか置かれていた、樽。

 タバコの先端が触れた瞬間、小さな火花がその板材に引火した。

 

 樽の側面には【発破用】と書かれており……次の瞬間。


 大爆発が起きた。


 轟音とともに爆風が無茶苦茶に吹きすさび、男の周囲にいたプレイヤーが四方八方に飛んでいく。周囲の家屋も巻き込み、緋色ひいろの炎が空高く舞い上がった。


 事前に炎耐性のポーションを飲んでいたらしいその男は、火炎の中でクツクツ笑い、高らかに告げる。


「ただいま、このメインストリートは【サラマンカ鉄道同盟】が買い取った……。工兵!消火作業をすみやかに行い、線路を引けェ!!路面鉄道の開設や!!!」


/


「アイアイサー!おらドケッ!作業の邪魔だ!!」


 どこからともなくヘルメット姿の作業員が飛び出し、爆風をかろうじて耐えた生き残りたちを容赦なくぶっ飛ばす。


 罵声、悲鳴、工事道具の機械音が響く雑踏の中、詰め襟制服の男は上機嫌に歌の続きを歌いながら、こちらに向かってウインクした。


「あ、あんたは!!!」


「おー、昨日ぶりよね。駅員さん」


「だから駅員呼びやめろや!乙松や言うたやろ、ええ加減覚えろや!!!」


 乙松。

 僕らを【京都ダンジョン】へと導いた【鉄道クラン】の男。


 その彼が、オールフレンダーの『友達』に混じっていた。


「キミは57番目の友達……! なにするんスか、喧嘩けんかはだめっス……」


「建設長! 線路の敷設を完了しました!」


 オールフレンダーの必死の抗議は、作業員の馬鹿でかい報告の声に掻き消される。


「よし!えー出発進行、黄色の線より内側にお下がりください、さもないと……」


 向かいの建物の裏側で、ポォウと鋭い警笛。


「暴走列車がテメエらをペチャンコにしますからア!!!!」


 曲がり角から轟音とともに飛び出したのは、黒煙を放つ巨大な蒸気機関車。


「オレは友達を傷つけるやつを許さないっス!!!」


 オールフレンダーは線路に突っ込む。

 鉤爪を構え、機関車に向かっていくも……


「へっぶ…………ッッ!!!!!!!」


 あっけなく機関車に跳ね飛ばされ、彼方の空へと飛んでいった。


蟷螂とうろうの斧。車に向かって威嚇したカマキリを見て、昔の人はこう言った。無謀だってな。鉄道にかなうもんなんて、この世にないんや」

 

 機関車は生き残りの『友達』を猛スピードで跳ね飛ばし、ボウウゥゥ! と野太い警笛を咆吼ほうこうすると。


 僕らの前で急ブレーキをかけて止まった。


 漆黒の大型獣のように唸る機関車を背中に、乙松は片膝をついて礼をする。


「恩に着るぜ、あんたら。上終中学校美術部……わしらの永遠の宿敵を、よくぞブッ倒してくれた。誓おう。全プレイヤーが敵に回ろうとも、サラマンカ鉄道同盟は永久にあんたらの味方や!」

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