第7話 謁見シンギュラリティ

「私が13様にお願いして、ここにお目通りを願ったのは、πとは別件です」


 ぼくは神妙に頭を下げながら話し始めた。こういう相手には下から行くのが一番だ。


「――虚数空間の発生の報告と、その対策のご相談です」


 <虚数>という言葉に反応して、元老院の眉がぴくりと動くこいつら、虚数を知っているな


「先ほど、我々の仲間である−1が、不覚にも平方根を使用してしまいました――」


「なるほど。事情は読めた」


 元老院の一人がうなずいた。話が早いのは助かる素晴らしい。理解が早い


「――で、その対策と言ったな? 何か考えがあるのか?」


「はい。素数の皆様と、1様のお力をお借りできれば……世界を虚数空間から救えます」


「救う!?  ずいぶんと大きな口を叩くな。虚数は我らでも対抗できん概念だぞ?」


 僕の言い方が気に食わなかったのか、3が激昂する。


「私になら案があります。――<人間>である私になら――」


 ぼくは胸を張って答える。ここで弱気になれば終わりだ。


「ふふふ……面白い。――よかろう、シィよ。特別に1様への謁見を許す」


 2が椅子のレバーを引くと、奥のカーテンが開き、金ぴかの王室のような空間が姿を現した――


「まったく。このぼく様に用を頼むなんて、人間ってのはつくづく図々しい生き物だね」


 最初に口を開いたのは、子供のような見た目の少年――彼が 1 か。


「そう言うな。わしらも暇を持て余しておるだろう」


 筋肉の塊みたいな大男∞かな?が豪快に笑う。そして、その隣では、静かに頷く女性0だろう。……もしこの女性が∞だったら、それはそれで面白い。


「謁見、感謝します」


 ぼくは頑張っていい子モードを維持する正直、もう口角が限界だ


「1様にお願いしたいこと――それは、このプリモリウム城を<軸>として回転させていただきたいのです」


「回転?」


 1が首を傾げる。


「はい。虚数は<回転>の概念です。1様のお力で世界を90度回転させられれば、この数次空間は虚数空間に同調できるはず――です」


「はず?」


 元老院の視線が光る適当な発言は許さんぞ


「はい。……何分、試したことはないので」


「うふふ。面白いね」


 1はいたずらっぽく目をくりくりさせて、ぼくを見る。


「この城を軸にするには、固定する力が必要だけど、どうするの?」


「それは、素数の貴族の皆様で城を支えていただき、地上は平民に押さえてもらおうと考えてます」


「なるほど。それならいけるか。――いいよ、力を貸そう」


 1がうなずく。


「なんだ。楽しそうだな。わしにもやらせろ!」


 ∞が割り込んでくる。その後ろには「わたしも」という感じで0が続く。


「じゃあ、0様にはすべての中心をお願いできますか? ∞様には回転による軸の歪みを押さえるため、軸の端で世界を支えてください」


「がははは! 世界を支える? それはまさしく、わしの役目だ!」


 ∞は嬉しそうに腕をぐるぐる回している。0も心なし嬉しそう。話がうまくまとまりそうでわがままを言われないでよかった、ぼくは胸をなでおろす。


「では、私は地表の者たちに知らせてきます。回転のタイミングは――?」


「1時間後だ。それ以上は待てないよ」


 1があくびをしながら言う気が変わる前に終わらせねば


「承知しました。では1時間後、よろしくお願いいたします」


 ぼくは礼をして、13の腕を引く。


「行くぞ、13。時間がない」


「ちょっと、引っ張るな!」


 残り1時間。

 のんびりしている暇は、どこにもない。

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