事情聴取

 その日、里は大変な騒ぎとなった。魔境の暗黒樹海から、ルナリアが帰ってきたという吉報に皆が歓迎に走るがそこで見たのは、見るからに死に体の状況の英雄達と涙を流しながら黙々と運ぶルナリアの姿だった。すでにエルフの戦士たちが、ルナリアに手を貸すために駆け寄っている。引き渡された英雄達は、里に来ていた頃の快活さは無く、ただひたすら生きるために死に抗っている。皆が運ばれていく英雄たちの無事を祈り、彼らを見送った。






 診療所では、運ばれてきた英雄の状態を見て諦めそうになる。誰がどう見ても無理だと思うそんな状況でも、一人の医師は毅然と処置を始めた。ルナリアは、その医師へと二人の状況、そして、最後に誠が言ったことを伝える。




「二人は助かる?」


「正直、分からん。だが、全力で命だけは繋いで見せる!お前たちも呆けるな!英雄の命は俺たちにかかってる、一分一秒無駄にするな!ありったけの止血剤を用意しろ!住民に献血を呼び掛けて血を集めろ!あればあるだけいい!」




医師は指示を飛ばし、二人を処置室へと運び込む。そんな医師に続いて、他の医官たちそれぞれの役割を全うするため、走っていく。処置室へ入っていく二人を見送ったルナリアは、その場にへたり込んだ。




『お願い。二人とも助かって!』




心の中で強く願う。それに呼応するように、視界が白く染まっていく。気づけばルナリアは、真っ白な無機質な空間にいた。




「ここ、どこ?」


「あ、来た来た」


「こっちだルナリア」




聞きなれた声に、涙を瞳にため振り返るとそこには、メルクリスの前に正座して座らされている二人がいた。




「この状況は……なに?」




意味不明な状況にルナリアの涙も引っ込んだ。




「あははは……」


「これは……その……ね?」




歯切れ悪く二人はルナリアから目をそらす。




「お二人とも」




ぴしゃりとメルクリスが声をかけると、徹と誠の肩が跳ねた。珍しく、二人はメルクリスを恐れているらしい。




「メルクリス様、これはいったいどういう……」




ルナリアが神を前に、膝をつきながら訊ねる。




「この二人、その場のノリでダンジョン攻略に行ったんです」


「はぁ!?」




ルナリアが二人を見る。誠たちはバツが悪そうに頬を掻く。




「いや~これにはその~」


「深い事情がですね……」




未だ言いよどむ二人の周りに、凍てつく空気が忍び寄る。




「誠?徹?」




笑顔でルナリアが二人の肩を掴む。ギリギリと骨がきしむ音がする。




「あの~ルナリアさん?」


「肩が……その……痛いんですけイデデデデデデデ!」


「説明します!迅速に説明させていただきます!」




肩が解放されたものの、未だルナリアが絶対零度の微笑みでこちらを見ている。不用意なことを言おうものなら、次は何をされるか分かったものではない。誠は、おずおずと説明を始めた。




「俺たちが樹海に戻って生活して、しばらく経ったころにあの四つ腕が現れたんだ。それから、頻繁に現れるようになって、俺たちはあいつらが来る方角がいつも一緒のことに気づいた。だから、俺と徹でその方角を調査したんだ」




顔色を窺いながら徹も説明を始める。




「それで、調査を進めてたら、前に言ってたヤバい雰囲気の場所にいてな。そこは洞窟だったんだけど……そこから四つ腕が出てきてるのを確認したんだ。アイツらの巣だと思って突っ込んだら……」


「そこがダンジョンだったと……なるほどね」




ルナリアから、凍てついた雰囲気が消え二人は許されたと思い、安堵した。




「で、続きは?」




空気が変わる。ルナリアの背から黒いオーラがにじみ出ている。




「そっからなんでしょ?確か言ってたわよね。近づけなかった場所はいくつかあるって……」


「えっと……その」




気圧される徹の肩に誠が手を置いた。振り返った徹の目に、すべてを悟った誠の見惚れんばかりの綺麗な土下座が映る。




「攻略した後、ノリでほかの場所にあったダンジョンに突貫しました!!」




誠の叫びに近い懺悔に、徹も同じように芸術的な土下座を披露する。




「「すみませんでした!!!」」


「許すかぁ!!!!」




ルナリアの拳が二人の脳天に落ちる。二人の頭が地面に勢いよくめり込んだ。

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