全身全霊をもって
俯いている誠の髪を、ぽたぽたと水が滴り落ちる。再度魔法の水球により拘束される。しかし結果は同じだった。
パァン
鋭い音ちとともに水球が破裂する。ずぶ濡れになりながら、合掌する姿にリキは脱出のからくりに気づいた。
「馬鹿な……あり得ない……」
絶句するリキに他の隊員たちが困惑する。
「彼は水中で拍手している……その音の振動で水を制御する魔力を乱し脱出しているのか……可能なのかそんな事が……」
自分で言っていて理解できない。しかし、水球に囚われた誠が脱出するまでの行程を観察するとそれしか考えられなかった。目の前で合掌の状態で固まっている誠を化け物でも見るような目で見る。その誠が突如声を張り上げた。
「こんなものではない!こんなものではないだろう!」
周囲の空気を震わせ肌にビリビリと響く声に周囲は固まった。
「確かにあなた達の連携は見事だった。己の力量をわきまえ、己が役割に徹し、お互いにカバーしあい、大技を当てるために建てた緻密な策、それをまとめ上げたリキ殿の技量。そのすべてが素晴らしい!」
リキたちは、急に始まった褒め殺しに何が起こっているのか分からず唖然としている。
「しかし、こんなものじゃないだろう!あなた達の真の実力はこんなものじゃないだろう!」
誠の拳に力が入る。
「大侵攻の際、あなた達は何を感じた!自分たちの力及ばず里を捨てなければならなくなったあの時、あなた達はなにを感じたんだ!」
リキの脳裏に先の大侵攻の光景がよみがえる。リアベルが里を捨てると決めた時、突如現れた誠と徹によ
り、あれほど苦戦した魔獣の群れが掃討された時、四つ腕のミノタウロスとの激闘を見た時、もちろん里を救ってくれたことに感謝はある。激闘を見て胸に熱いものが湧いたことだって偽りではない。しかし、それと相反する感情を抱いていた。
「自分たちで守り切れなかった失意や後悔は、こんなものじゃないだろう!ポッとでの奴に救われた屈辱
はこんなものじゃないだろう!」
誠の言葉にその場にいた兵士全員が顔をしかめ、俯いた。
「次こそは、自分達のみで切り抜けるための演習だろう!」
リキは拳を強く握り締める。
「ここまで戦って分かった。あなた達の真価は!こんなものでは断じてない!」
言い切る誠の言葉が胸を打つ。リキは顔を上げ、誠を見る。誠と目が合った。真っすぐな目だどこまでも澄んでいる目。その奥には、断固とした闘志が燃えている。リキは思わず笑顔になってしまった。英雄が、あの化け物のような戦いをする者が、自分たちを認めてくれている。そして、まるで子供のように期待してくれている。それがうれしく思ってしまった。同時に恥ずかしくもあった。誠意には誠意で返すべきだ。
「誠殿!申し訳なかった!」
頭を下げたリキは誠に対し、戦闘態勢に入る。
「全員、ここからは各々の判断で動け!我々の全身全霊で!英雄殿を叩き潰す!」
そういうと、誠へと走り込み、拳を叩き込む。誠はそれを受け止める。
「全身全霊で行かせていただく!」
リキが笑顔で宣言すると、誠も同様に笑顔になる。
「こちらも全身全霊で返させていただく!」
両者の目に燃えるような闘志が宿る。
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