封印
今回の集団戦のルールは、審判であるしアベルが戦闘続行不能と判定したものから脱落していくという単純なものである。もちろん降参宣言をしても脱落となる。禁止されているのは殺傷力の高い魔法の使用のみ。捕縛や地形形成などの魔法は使用可であり、攻撃魔法も軽いものであれば許可されている。リキ達のチームは誠を倒すことを最初から諦めていた。彼らは大侵攻時での大立ち回りは直で見ていたのだ。だからこそわかっている、自分たちでは誠を倒すことはできない。倒そうとするならば、殺す気でやらなければなない。そのため、誠を捕縛する方向で作戦を立てていた。問題はどうやって自分たちの陣地に引き入れるか、自分たちの陣地に引き込み、数秒だけ誠の動きを止めることができれば、三人による同時詠唱魔法により強力な拘束魔法を彼に打ち込むことができる。そのための策を考えていた。だが誠は真正面から来たのだ。自らこちらに飛び込んできた。
「止めろ!」
リキが叫ぶと三人のエルフの兵士が誠とぶつかる。同時に後衛の魔法使いが詠唱を始めた。三人のエルフからそれぞれに振り下ろされた剣を誠は三方向からほぼ同時に誠を襲う。誠は三つの剣線を捉えていた。一つを盾で、もう一つは手で受け止めた。最後の一つは、振り上げた足で思いっきり踏みつけた。ドンという音と共に木剣の切っ先が地面に埋まる。剣を持っていた兵士は前につんのめる形でバランスを崩した。盾で受け止めていた剣を弾き飛ばし、手に持った剣を引っ張った。引っ張られた兵士は誠の方へ引き込まれていく。誠の手が引き寄せられた兵士の頭に伸びる。
「セイ!」
その手を木槍が阻む。剣の後ろに控えていた槍兵のエルフの一人が仲間を守るために前に出てきた。他の兵士も誠を徐々に取り囲むように動いていた。誠は気づけば剣と槍をもってエルフの兵士たちに囲まれている。誠の視線が一瞬後衛のエルフたちを見た。
『なんかの魔法か。三人も準備してるとなれば当たればただでは済まなそうだ。最初に突っ込むんじゃなかったなぁ』
誠は頭の中で反省する。
『当たらなければ良し!当たっても耐えればいい!』
しかし、反省は一瞬だった。誠は囲んでいる兵士の一人へと走り込んでいく。迫られた兵士は剣を横なぎに振る。その研鑽が見える美しい剣閃は、誠の盾に吸い込まれ拮抗することなく兵士ごと吹き飛ばした。
「まず一人……ん?」
吹き飛ばされた兵士は、見事な体さばきで着地した。上げた顔を見ると、剣が顔に当たったのか鼻から血を流している。フンっと力み血を飛ばすとこちらに向かってきている。思わず見とれていた誠に、背中から攻撃が飛んでくる。とっさに上体をかがめて避ける。多数の猛攻をよけ、盾で受け、手でいなす。まるでアクション映画のような戦闘が続く。リキは後衛の詠唱が終わったことを確認すると、誠に向かって走り出す。
「全員散開!」
リキの号令で残員が離れていく。兵士の影から走り込んでいたリキに誠は気づけなかった。気づいたときには、目前にリキが来ていた。誠は自分の首元に伸びてきた剣を反射的に掴む。しかし、リキは誠がつかむと同時に剣を手放した。驚いた誠はリキが取り出した札が背に貼られることを避けられなかった。
「なん……!」
突如誠の体が重くなる。誠は倒れそうになるのをすんでのところで踏みとどまる。
「やれ!」
リキの声が響く。同時に後衛の三人は誠を指さし魔法を発動させた。誠の真下に魔法陣が展開される。誠の前に三体の人型が現れる。それはそれぞれ火、水、砂で出来ていた。
「これが精霊か!」
初めて見る精霊に、誠は状況にそぐわぬ笑みを浮かべる。
「「「三精結束封印トリアル・ド・アメル」」」
魔法使い三人の声が重なると、水の人型が誠に微笑む。その姿が球状変わり誠の体を包んでいく他の火と砂の人型も同じように変化していく。みるみる飲み込まれて行き、誠は燃え盛る土山に閉じ込められた。リキが厳しい表情のまま封印された誠を見る。兵士たちはガッツポーズをとっている。勝利を確信していた。しかし、思わず兵士の一人が言ってしまった。
「やったか!?」
その言葉に反応したのは、観戦していた徹だった。
「あ、言っちゃったな」
「え?なに?」
隣にいたルナリアが訊ねようとしたとき轟音が鳴り響いた。
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