歓待

 長机に着き、木製のジョッキ片手に勢いよく煽る徹。その横で、山のように積まれた様々な料理を片っ端から食らう誠。




「エルフの里の酒ってかなり上品な味がするな!香りもフルーティーだ!」


「料理は香辛料が使われてるのか、何とも癖になるな」




徹はジョッキにさらに酒を注ぎ、誠は肉にかぶりつく。




「ひはひ、ひふぁいふぁな」


「何言ってるか、わかんないわよ誠」




口をパンパンにしながらルナリアに話しかける誠に、グラス片手に怪訝な顔しながら答える。ゴクンという大きな音と共に、口の中の物を胃に送った誠は改めてルナリアに話しかける。




「意外だったなって」


「何が?」


「エルフって肉食うんだなって」


「酒もな!」




徹が誠の肩を組んで話に入ってくる。




「あんたたちのエルフのイメージどうなってんのよ。エルフだって肉は食べるしお酒も飲むわよ」




呆れたように、お酒を口に含む。




「ドワーフと仲悪かったりしないのか?」


「人間嫌いだったりとかは?」


「ドワーフと?仲悪いも何もこの国にはいないから関わりが薄いのよね。人間嫌いは、昔【エルフ狩り】があったからまだ人によっては思うところある人はいるかもね。でも、もう何百年前の話よ?もう当事者はほとんどいない今の世代はほとんど反感なんて持ってないわね」


「「ほー」」


「何?がっかりした?」




二人が気のない返事をする様子に、ルナリアは怪訝な顔になる。




「いや、この世界にはこの世界での種族のあり方があるんだなと、しみじみ感じてな」


「俺たちの知識の枠組みにこの世界の人々を当てはめるのは宜しくないと痛感したところだ」




二人は視線を落とし、自分の持っている料理と酒を見る。自分たちの知るエルフという種族と目の前にある、この世界のエルフという種族。確かにそのギャップに落胆を感じた。二人はその落胆を感じたことそのものを良しとしなかった。勝手に期待し、その通りで無かったから落胆する。それが相手にとってどれほど理不尽なのか二人は知っていた。その理不尽を誰よりも嫌っていた二人だからこそ、そんな感情を持ってしまった自分たちに自己嫌悪に陥る。




「しょうがないんじゃない?自分の持ってる知識と現実がかみ合わなくなるくらい。そりゃあそれでがっかりされても困るけどさ。あんたたちはちゃんとそれも受け入れてくれるじゃない。大事なのはそこでしょ」




ルナリアは、誠の皿から料理を一つ取っていく。




「自分の知識とかみ合わない現実を受け入れて認めるって、言うより簡単じゃない。でもあんたたちはちゃんと受け入れてくれる」




そういって、ルナリアは料理を口に運ぶ。そして、誠たちの後ろを指さした。そこには、昼間遊んだ子供たち、手伝っていた屋台のエルフ達、ともに戦った兵士たちが二人に殺到した。




「辛気臭い顔してどうした!酒が足りねぇんじゃねぇのか!」




徹のジョッキに酒が豪快に注がれる。




「そんな暗い顔してちゃもったいないよ!ほら!これもお食べ!」




誠の皿には食欲をそそる匂いの料理が追加された。




「おじちゃんたち元気出して!」




無垢な瞳が二人に注がれる。




「ただ里を救った英雄様だからといって、私たちはここまで他人を受け入れないわ。あなた達が私たちを受け入れようとしてくれるから、みんなあなた達を歓待してるのよ」




もみくちゃにされてる二人にルナリアがほほ笑む。徹たち暖かい気持ちに包まれ、思わず笑顔になった。




「おねぇちゃーん!みんなー!じかんだよー!」




遠くからリリアが呼ぶ声がした。




「そんな難しいこと考えてないで、この宴を楽しみなさいよ。英雄様」




そういって席を立ったルナリアはリリアの方へ歩いて行く。子供たちや若い女性陣もそれに続く。残った男性陣に誠は尋ねた。




「なんの時間なんだ?」


「ん?あぁ、これから女性衆と子供たちは舞うんだ」


「舞?」


「あぁ、まぁ見とけすごいぞ」


「「楽しみだ」」




誠と徹は男衆と飲み食いしながら、その時を待つ。




 しばらくして、森の中に笛の音が響く。先ほどまで騒がしくしていた皆が静かになった。笛の音がメロディーを奏で始めると、今度は弦楽器の音色が聞こえてくる。音楽が聞こえる方を見ると、ルナリア達がヴァイオリンや笛のようなものを弾いている。その音楽と共に子供たちが、天へと燃え盛る焚火を囲み舞いが始まる。特徴的な模様の刺繍された民族衣装を身にまとい、楽しそうに笑顔で舞う姿は無垢を体現していた。先ほどまで騒いでいた皆が微笑ましくその舞を見る。次第に大きくなる音楽に呼応するように、子供たちの衣装に刻まれた模様が光りだす。そしてそれに共鳴して、周りの木々が優しく光り始めた。会場が夜中にも関わらず、明かりに包まれた。誠たちが驚いていると、地面から大小さまざまな光の玉がシャボン玉のように空へと上がっていく。実に神秘的で幻想的な光景に徹も誠も言葉を失った。




「なぁ徹」


「なんだ」


「来てよかったな異世界」


「あぁ」


「俺を呼んでくれてありがとうな」


「こちらこそ、来てくれてありがとな」




しみじみとつぶやく二人は、目の前の光景をただただ眺める。演奏が終わるまで続いた舞をかみしめるように眺め続けた。

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