EP 10
借金地獄と人生の辛味(最終決算)
廃墟の館に湯気が立ち込める。
鍋の中では、特製の寄せ鍋がグツグツと煮立っていた。具材は、先ほどまで金貨を産み出していた男たちが手に入れた、新鮮な肉と野菜だ。
「よし、煮えたぞ! みんな、食おう!」
俺は熱い鍋に箸を伸ばそうとした。
ワイガーも、ルナも、ニャングルまでもが、喜びの表情で「いただきます」の体勢に入った、その時だった。
「はい! 箸を止めて!」
冷たい声が響く。ユアだ。
「ふぇ?」
俺は間の抜けた声を上げた。
ワイガー、ルナ、ニャングルの3人が、一斉にユアを睨む。
「なんだ、邪魔すんじゃねぇ!」
「食いもんの恨みは恐ろしいで!」
「ノン、ノン、ノン」
ユアはにこやかに首を振った。
「食べる前に、会計をします。……恭介、今回の作戦、ご苦労様。最高のエンターテイメントだったわ」
ユアはスマホの画面を見せつける。
その数字を見た瞬間、俺の酔いは完全に覚めた。
「今回で、私への借金総額が金貨180枚になります」
「ひぃ……!」
180枚。日本円で180万円。
「内訳は、お友達パックの雇用料に50枚×2ヶ月で100枚。衣装代、監督代、食費代、ギャラ査定、諸々の手間賃で80枚。トイチの換算も有るから、この額ね」
「じゃ、じゃあさっきの飲み会や、鍋代に使った金は……」
俺は震える声で尋ねた。
「残った金貨も、全部寄せ鍋代に消えました」
ルナが申し訳なさそうな顔で俯(うつむ)く。
ワイガーが立ち上がった。
「そんな馬鹿な! 俺たちの命がけの報酬が、全部あの女の胃袋に!?」
「待って、ワイガー」
ユアはワイガーを制し、懐から一つの水晶玉を取り出した。
ユアの魔力(?)が注がれると、水晶玉が光を放ち、空中に映像を投影した。
「そ・れ・が。残っている金貨は、この中にいる人たちのポケットにも入ってるのよね?」
投影された映像は、路地裏でニヤニヤしながらニャングルが恭介に権利書を流し、大金を稼いでいる様子。
そして、その後のニャングルが『2300枚』の金貨を数えながら「ボロ儲けやぁ!」と叫んでいる姿だった。
「こ、これはぁぁぁ!!」
ニャングルが青ざめる。
「悪巧みの証拠映像ね。ニャングルぅ。これを、どこに売ったら高く買い取って貰えると思う?」
「は、はわわ……ぜ、全部お見通しやぁ……」
ニャングルは膝から崩れ落ちた。彼の不正がゴルド商会にバレれば、地位どころか命が危ない。
「も、もちろん! ワテのポケットマネーが一番高く……」
「フフッ。800枚。ちょうどキミの転売益に相当するわ。800万円ね。良いかな?」
「グッ……ハ、ハハーッ!」
ニャングルは泣きながら、自分の全財産に近い金貨の袋をユアに差し出した。
ユアはそれを冷たく回収し、満足げに微笑んだ。
「じゃあ、これで借金はチャラね。めでたし、めでたし」
金貨180枚の借金はニャングルの金で相殺され、ユアの手元には800枚もの大金が残った。
勝者は、ユアただ一人だ。
「さあ」
ユアは笑顔で箸を手に取り、鍋を指差した。
「決着がついたわ。皆で寄せ鍋を食べましょう?」
俺たちは無言で箸を取った。
ワイガーも、ルナも、ニャングルまでもが、生きた屍のように鍋を前に座る。
「……血の味がするぜ」
ワイガーが呟いた。
「借金の、お味……。人生の辛味ですぅ……」
ルナが力なく笑う。
ユアはワイングラス(取り寄せ品)を掲げた。
「さぁ、乾杯しましょう!」
屈辱的な乾杯の提案。
俺たちは力なく顔を見合わせた。
「「「できるか!!」」」
俺たちの絶叫が、静まり返った廃墟の館に響き渡った。
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