EP 2
キャストと衣装合わせ
作戦が決まれば、次は準備だ。
今回の詐欺計画――もとい『高度な金融取引』には、相手を信用させるための完璧な変装と演技が必要不可欠となる。
「はい、衣装届いたよー」
ユアが何もない空間からハンガーラックを取り出した。
ずらりと並んだ高級そうな衣装。もちろん、これも借金(レンタル料込み)だ。
「まずは恭介。あんたは『金に糸目をつけない道楽貴族のバカ息子』役ね」
「バカ息子ってのが引っかかるが……」
渡されたのは、目が痛くなるほど派手な刺繍が入った紫色のスーツと、ジャラジャラとした金(メッキ)のネックレス。
袖を通してみると、鏡の中には見事なまでの「成金野郎」が立っていた。
「うわぁ、胡散臭い……」
「ぴったりやな兄ちゃん。知性はゼロ、金は無限にありそうな顔しとるわ」
ニャングルが太鼓判を押す。褒め言葉として受け取っておこう。
「次はワイガー。あんたは『無口で凶悪な護衛』役」
「おう! 任せろ!」
ワイガーが着せられたのは、特注サイズの黒いタキシードとサングラスだ。
195センチの巨体にパツパツのスーツ。筋肉が生地を悲鳴を上げさせている。
「……どうだ?」
ワイガーがサングラス越しに睨む。
怖い。完全に裏社会の用心棒だ。これで無言で後ろに立たれたら、誰でも縮み上がるだろう。
「完璧だ。ワイガー、お前は絶対喋るなよ。『あ?』とか『ん』だけでいい」
「ん」
よし、合格。
「で、あたしは『有能なメイド』」
ユアはクラシカルなロングスカートのメイド服を纏(まと)っていた。
普段の制服姿とは一変、清楚で控えめな立ち振る舞い。スマホさえ持っていなければ、どこに出しても恥ずかしくない完璧な奉公人だ。
さすが、金のためなら猫も被る女。
「そして最後。今回の作戦の要(かなめ)、サクラ役のルナちゃん」
「は、はいっ!」
ルナがカーテンの奥から出てきた。
深紅のドレスに身を包み、髪を結い上げたその姿は、息を呑むほど美しかった。
高貴なオーラと、エルフ特有の神秘性。どこからどう見ても、大富豪の令嬢だ。
「すごいぞルナ! 完璧だ! これならゴズもイチコロだ!」
「そ、そうですか? えへへ……」
ルナが照れて頬をかく。
見た目は100点満点だ。あとは演技力さえあれば――。
「じゃあルナ、リハーサルだ。俺が王冠を出した後に、店に入ってきて『あら、素敵な王冠ね。私が買いましょうか?』と言ってくれ」
「わ、分かりました! ……えっと、えっと」
ルナが深呼吸をする。
そして、カッと目を見開き、ロボットのような動きで口を開いた。
「あ、アらぁ〜? す、すテきな、オうかン、ですコとぉ〜(棒読み)」
「…………」
部屋に静寂が流れた。
酷い。あまりにも酷い。
学芸会の木の役の方がまだ感情がこもっているレベルだ。
「ルナ……目が泳いでるぞ。あと汗がすごい」
「む、無理ですぅぅぅ! 私、嘘なんてつけません〜! 心臓が破裂しそうですぅ!」
ルナが泣き崩れる。
そうだった。彼女は嘘がつけない性格のドジっ子エルフだった。
これではゴズを騙すどころか、「私は詐欺師です」と看板を背負って歩くようなものだ。
「アカンな……。これじゃ作戦倒れや」
ニャングルが頭を抱える。
恭介(バカ息子)とワイガー(護衛)でゴリ押ししてもいいが、それだとゴズが「買い叩こう」として時間をかける可能性がある。
3分という制限時間内に契約を成立させるには、ルナという「競合相手(ライバル)」を出現させ、ゴズを焦らせる必要があるのだ。
「どうする? 配役変えるか?」
「いや、この高貴な見た目はルナにしか出せない……」
俺が悩んでいると、ユアがポテチを齧りながら言った。
「じゃあさ、喋らせなきゃいいんじゃない?」
「え?」
「ルナは扇子で口元を隠して、『高笑い』だけしてればいいのよ。具体的な金額とか交渉は、あたし(メイド)が『お嬢様がこう仰っています』って代弁するから」
「なるほど! 腹話術作戦か!」
それならいけるかもしれない。
俺はルナの両肩を掴んだ。
「いいかルナ。君のセリフは一つだけだ。『オホホホホ!』。これだけだ。これならいけるか?」
「お、おほほ……? わ、笑うだけなら、なんとか……」
「よし! それでいこう!」
不安要素は残るが、もう後戻りはできない。
レンタル料(金貨5枚)は既に発生しているのだ。
「作戦決行は明日! 目標、悪徳質屋『ゴブリン・ローン』! 3分間で金を奪い取るぞ!」
「おう!」
「おー」
「が、頑張りますぅ……オホホ……」
ナグモ男爵家による一世一代の大芝居。
幕が上がるまで、あとわずか。
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