第22話
世界樹の杖と爆速収穫
「精霊よ……大地に眠る命の種に、目覚めの時を!」
ルナが祈るように杖を掲げると、先端の宝石から眩い緑色の閃光が奔流となって畑に降り注いだ。
それは優しい光なんて生易しいものではなかった。
まるで、生命力の爆弾が炸裂したかのようだった。
ドクンッ!!
大地が脈打つ音が聞こえた。
「うおっ!? なんだ!?」
ワイガーが飛び退く。
次の瞬間、耕したばかりの黒土から、無数の緑の芽が一斉に弾け飛ぶように顔を出した。
バリバリバリバリッ!!
凄まじい成長音。
芽は見る間に茎となり、葉を広げ、ツルを伸ばす。
トマトの苗が数秒で人の背丈を超え、キュウリのツルが蛇のように支柱(ワイガーが刺した棒)に絡みつく。
メロンやスイカが、風船を膨らませるような速度で巨大化していく。
「す、すげぇ……! なんだこれ!? 早送りなんてもんじゃねぇぞ!」
俺は目を剥いて立ち尽くすしかなかった。
農業(アグリカルチャー)? いや、これはもはや『植物兵器』の侵略だ。
ものの1分もしないうちに、ただの荒れ地だった場所は、鬱蒼とした緑のジャングルへと変貌していた。
たわわに実った真っ赤なトマト。
丸々と太ったナス。
そして、甘い香りを放つメロンやスイカ。
「はぁ、はぁ……。ど、どうですか恭介さま! やりました!」
ルナが肩で息をしながら、キラキラした目で振り返る。
杖からは煙が出ている。出力全開すぎだろ。
「あ、ああ……。やったな、ルナ。完璧だ……いや、完璧すぎる」
俺は震える手で、目の前にぶら下がっているトマトをもぎ取った。
ずっしりと重い。皮は張りがあり、宝石のように艶やかだ。魔力を吸って育ったせいか、内側からほのかに発光しているようにも見える。
ガブリ。
俺はそのままかじりついた。
「ッ!!」
口の中に、濃厚な甘味と酸味が爆発した。
なんだこれ。俺の知っているトマトじゃない。フルーツだ。高級デパートで桐箱に入って売られている最高級品より美味い!
「うまい! これは売れるぞ! いや、売れるどころじゃない!」
俺の脳内で、金貨のチャリンという音が連打される。
この味、この品質。
食文化の未発達なこの世界で売り出せば、革命が起きる。貴族たちが列をなして買い求める姿が目に浮かぶようだ。
「腹減ったぁぁぁ!! 食っていいか!? これ食っていいんだな!?」
ワイガーが涎(よだれ)を垂らしてメロンに飛びかかろうとする。
「待て馬鹿虎! それは商品だ!」
俺は慌ててワイガーの襟首を掴んで止める。
「いいか、これは俺たちの借金を返すための『金脈』なんだ! 食うのは売り物にならない規格外品だけだ!」
「なんだとぉ!? 目の前に飯があるのに『待て』だと!? 拷問か!」
「我慢しろ! これを売って金にすれば、肉が食えるんだぞ! 霜降りの牛が!」
「牛……牛か……! よし、我慢する!」
ワイガーが単純で助かった。
俺はすぐに指示を出した。
「総員、収穫作業開始だ! 傷つけるなよ! 一つ一つが金貨だと思え!」
「おう!」
「はいっ!」
俺たちは無我夢中で収穫した。
トマト、キュウリ、ナス、メロン。
カゴがいっぱいになり、荷車(これも廃墟にあったボロを修理した)に山積みになっていく。
「ふふっ、これ全部売れたら……借金なんて一瞬で……」
俺は荷車を見上げ、ニヤニヤが止まらなかった。
計算してみる。
この品質なら、トマト1個で銀貨1枚(1000円)はいけるか?
メロンなら金貨1枚(1万円)でも安いかもしれない。
ここにあるだけで、ざっと金貨300枚分はある。
「勝った……。俺の経営手腕と、ルナの魔法があれば、ナグモ領の復興は約束されたも同然だ!」
「恭介ー。顔が下品になってるよー」
木陰でメロン(売り物)を勝手に切って食べているユアが、呆れたように声をかけてくる。
「うるさい。これはビジネスマンの顔だ」
「ま、頑張んなよ。売れ残ったら利息の足しにしてあげるから」
「売れ残りなんて出るわけないだろ! 完売だ完売!」
俺は鼻息荒く宣言した。
荷車に山盛りの『宝の山』を積み込み、俺たちはベルンの街へ向けて出発した。
ワイガーが荷車を引き、ルナが魔法で道を整え、俺が指揮を執る。
完璧な布陣だ。
街の市場で、伝説を作る。
――この時はまだ、俺は知らなかった。
商売には『需要と供給』という絶対のルールがあることを。
そして、金の匂いを嗅ぎつける『天敵』が待ち構えていることを。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます