第19話
廃墟の館と開拓精神(フロンティア・スピリット)
「……さて。叫んでいても家は直らないな」
俺は絶叫の余韻が残る中、深呼吸をして現実を受け入れた。
目の前にあるのは、幽霊屋敷と呼ぶにふさわしいボロ館。
だが、書類上は今日からここが俺の家であり、俺の城だ。
「とりあえず、中を確認するぞ。寝る場所くらいは確保しないとな」
「おう! 任せろ! 扉なんざ俺がこじ開けてやる!」
ワイガーが錆びついて半開きになった鉄門に手をかける。
メキメキメキッ……バキィッ!!
「あ」
鉄門が蝶番(ちょうつがい)ごと外れて倒れた。
「……ま、まぁ、通りやすくはなったな」
俺たちは埃っぽい庭(ジャングル)を抜け、玄関ホールへと足を踏み入れた。
中は薄暗く、カビと腐った木の匂いが充満していた。
天井には巨大な蜘蛛の巣がカーテンのように垂れ下がり、床板は所々腐って穴が開いている。
「ひぃぃ……お化け……絶対お化け出ますよぉ……」
ルナが俺の背中にしがみついて震えている。
さっきまでの「男爵さま!」というテンションはどこへ行った。
「お化けより、床が抜けて落下死する方が怖いぞ。足元に気をつけろ」
俺たちは慎重に屋敷内を探索した。
1階は広いホールと、厨房らしきスペース、そして食堂。
2階にはいくつかの個室があるが、どの部屋も家具は朽ち果て、窓ガラスは割れている。
「こりゃあ、掃除だけで1年はかかりそうだな」
俺はため息をついた。
しかし、文句を言っていても始まらない。
今日はもう日が暮れる。野宿よりはマシな寝床を作らねば。
「よし、みんな! 引っ越し作業開始だ! まずは1階のホールを拠点にするぞ!」
「おう!」
「は、はい!」
俺の号令で、ナグモ男爵家(仮)の初仕事が始まった。
「ワイガー! お前はその筋肉で邪魔な瓦礫や腐った家具を外へ運び出してくれ!」
「任せろ! こんなタンス、小指一本だぜ!」
ワイガーは巨大な本棚を軽々と持ち上げ、窓から庭へと放り投げる。頼もしい解体業者だ。
「ルナ! 君は魔法で掃除だ! 風魔法で埃を吹き飛ばしてくれ! ……あ、くれぐれも屋敷ごと吹き飛ばすなよ!?」
「わ、分かりました! そよ風ですね、そよ風……!」
ルナが杖を振る。
「『ウィンド・ブレス(風の息吹)』!」
ヒュオオオオオッ!!
……思ったより強風だった。
室内の埃が一気に舞い上がり、ついでに天井のシャンデリア(錆びた鉄塊)が落ちてきた。
「危なっ!?」
俺は間一髪で回避する。
「す、すみませぇぇぇん!!」
「いい! 結果的に綺麗になったからヨシッ! 次、水魔法で床を拭き掃除だ!」
俺たちは泥だらけになりながら、必死に働いた。
床を磨き、窓枠に板を打ち付けて風を防ぎ、ワイガーが狩ってきた魔獣の毛皮を敷く。
数時間後。
完全に日が落ちる頃には、ホールの一角になんとか「人が住めそうなスペース」が出来上がっていた。
「ふぅ……。なんとかなったか」
俺は雑巾代わりのボロ布で顔を拭った。
疲労困憊だ。だが、不思議と達成感があった。
自分の手で住処を作る。これぞ開拓精神(フロンティア・スピリット)だ。
「キョウスケ様、腹減ったぞ……」
ワイガーが腹をさすりながらへたり込む。
ルナもぐったりとして壁にもたれている。
「そうだな。……引っ越し祝いといこうか」
俺はユアを見た。
彼女は掃除には一切参加せず、電波の入りやすい窓際で優雅に椅子(自前の)に座っていた。
「ユア、食材を取り寄せてくれ。今日は奮発していいぞ」
「んー? いいけど、高いよ?」
「分かってる。どうせ借金だ。毒を食らわば皿までだ!」
こうして、俺たちは廃墟の館で、新たな生活の第一歩を踏み出したのだった。
外ではフクロウが鳴き、隙間風がピューピューと吹いているが、ここには仲間と、これから始まる「男爵としての野望」がある。
(……ま、まずは屋根の修理代を稼がないとな)
俺は天井の隙間から見える星空を見上げ、明日の労働(重労働)に思いを馳せた。
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