第13話
筋肉は重力とお友達
「ブモォォォォォォ!!」
「フンッ!!」
レッドドラゴンと超人ガイマックス。
怪獣映画さながらの巨大な二体が、荒野で睨み合う。
空気がビリビリと震え、俺たちは息をするのも忘れてその光景に見入っていた。
「いけぇぇガイマックス! そのトカゲ野郎にパイルドライバーをかましてやれ!」
俺の声援を受け、ガイマックスが不敵に笑う。
「ガハハ! 任せろ少年! まずは挨拶がわりのラリアットだ!」
ガイマックスが地面を蹴った。
その巨体が砲弾のように加速する。速い。あの筋肉量で、ドラゴンに肉薄するスピードだ。
だが。
レッドドラゴンは、そこらのオークとは違った。
数百年を生きた古竜(エンシェント・ドラゴン)級の知能を持っていたのだ。
「グルルッ……!」
ドラゴンはガイマックスの異様なプレッシャーを察知し、瞬時に判断した。
『コイツとは地上で戦ってはいけない』と。
バサァァァァァッ!!
ドラゴンの巨大な翼が羽ばたき、強烈な風圧が巻き起こる。
次の瞬間、ドラゴンの巨体は軽々と宙に浮き上がり、遥か上空へと舞い上がった。
「ぬっ!?」
ガイマックスのラリアットが空を切る。
ドラゴンは安全圏である上空50メートル付近でホバリングし、嘲笑うかのように俺たちを見下ろした。
「ギョオオオオオオッ!!」
そして、口元に再び赤熱した光を溜め始める。
空中からのブレス爆撃だ。
「や、やばい! 空から撃ってくるぞ!」
俺は慌ててガイマックスに向かって叫んだ。
「おいガイマックス! 飛んで追え! 叩き落としてくれ!」
宇宙から飛来した彼なら、空を飛ぶことくらい造作もないはずだ。
さぁ、空へ飛び立ち、あのドラゴンを撃墜してくれ!
しかし。
ガイマックスは地上で、ビシッとサイドチェストのポーズを決めたまま動かない。
「おい! 何してる! 早く飛ばないと焼かれるぞ!」
「少年よ」
ガイマックスは、真っ白な歯を光らせて言った。
「無理だ」
「は?」
「俺は飛べない」
「…………はあぁぁぁぁぁぁ!?」
俺の絶叫が荒野に響く。
「と、飛べない!? だってあんた、さっき宇宙から降ってきたじゃないか!」
「あれは自由落下(フリーフォール)だ。重力に身を任せただけだ」
「じゃあ、帰る時のあの三輪車は!?」
「あれは気合いだ」
「なら今も気合いで飛んでくれよ!!」
俺の悲痛な叫びに、ガイマックスはフッと笑い、名言風に言い放った。
「筋肉(マッスル)は、重力とお友達なのさ」
「やかましいわ!!!」
ドヤ顔すんな! 重力に魂を縛られてんじゃねぇよ!
そうこうしている間に、上空のドラゴンが口を大きく開けた。
チャージ完了。極大ブレスが来る。
「ま、まずいです恭介さま! 逃げないと!」
「退避ぃぃぃ! 岩陰へ走れぇぇぇ!!」
俺たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。
ゴオオオオオオオオッ!!!!!
上空から降り注ぐ炎の雨。
地面が爆発し、岩が溶ける。
ガイマックスはというと、「ぬんっ! ぬんっ!」と自慢の大胸筋で炎を弾いているが、ドラゴンには指一本届いていない。ただの頑丈な的(まと)だ。
「くそっ、これじゃ一方的に殴られるだけだ! どうする!? どうすればいい!?」
岩陰で頭を抱える俺。
その時、無情にもあの音が聞こえてきた。
ピピピピピ……。
ガイマックスの胸元についたタイマー(いつの間に?)が鳴る。
「おっと、3分か」
ガイマックスがポーズを解き、懐から三輪車を取り出した。
「すまんな少年。契約時間は終了だ。カップラーメンが伸びちまうからな」
「ま、待て! 何もしてないだろ! 金返せ! せめてあのトカゲの気を引いてくれ!」
「無理だ。麺のコシは待ってくれない。……アディオス!!」
キコキコキコキコ……!
彼は猛烈な勢いでペダルを漕ぎ、またしても物理法則を無視して空の彼方へ――いや、今回は飛べない設定だからか、地平線の彼方へと爆走して消えていった。
「…………」
現場に残されたのは。
黒焦げの大地。
上空で殺る気満々のレッドドラゴン。
そして、絶望した俺たちだけ。
「……ねぇ恭介」
煤だらけの日傘を差したユアが、淡々と言った。
「これ、詰んでない?」
「…………走れぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
俺たちは、人生で一番の速さで駆け出した。
背後から迫る熱波と、ドラゴンの咆哮。
金貨1000枚の夢は、文字通り灰となって消え失せたのだった。
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