第12話
遭遇! 天空の覇者
北の岩山地帯。
草木一本生えない荒涼とした岩肌を、俺たちは汗だくになりながら登っていた。
「あ、暑い……。なんだこの気温は」
標高が高いはずなのに、まるでサウナの中にいるようだ。
岩肌からは陽炎(かげろう)が立ち上り、靴の底が溶け出しそうなほど熱い。
「匂うな……。硫黄と、焦げ付いた脂の匂いだ」
先頭を行くワイガーの表情から、先ほどまでの遠足気分は消え失せていた。
彼の虎耳が、警戒するようにピクピクと動いている。
ルナも無言で杖を握りしめ、俺の背中に隠れるように歩いている。
「おい、キョウスケ。……引き返すなら今だぞ」
「は? 何を弱気なこと言ってるんだ。ここまで来て」
「俺の勘が警報を鳴らしてやがる。こいつは、『狩り』じゃねぇ。『自殺』だ」
野生の勘を持つワイガーが、珍しく怯えている?
俺が何か言い返そうとした、その時だった。
ドンッ……!
心臓が早鐘を打ったような振動。
いや、違う。これは足音だ。
岩山の頂上付近、巨大な洞窟の入り口から、紅蓮の鱗に覆われた『災厄』が姿を現した。
「グルルルルルル…………」
喉の奥でマグマが煮えたぎるような重低音。
全長は優に20メートルを超えている。翼を広げれば空を覆い尽くすほどの巨体。
レッドドラゴン。
ファンタジーの頂点に君臨する、最強の種族。
「で、でか……ッ!?」
俺は息を呑んだ。
事前に聞いていた情報と違う。ギルドの資料には『体長10メートル程度』と書いてあったはずだ。
目の前にいるのは、その倍はある。完全に『ヌシ』クラスの個体だ!
「ブ、ブレスが来ます!! 伏せて!!」
ルナの悲鳴と共に、ドラゴンの顎(あご)が開かれた。
口腔内に、太陽のような光が収束していく。
「――ッ!!」
俺たちは反射的に岩陰に飛び込んだ。
ゴォォォォォォォォォォッ!!!!!
世界が赤一色に染まった。
灼熱の奔流が俺たちの頭上を通り過ぎていく。
岩が溶け、空気が燃える音が鼓膜を劈(つんざ)く。
「熱っ! あつぅぅぅ!!」
岩陰にいても、皮膚がジリジリと焼けるようだ。
ブレスが止んだ後、恐る恐る顔を出すと、そこには地獄が広がっていた。
ついさっきまで俺たちが立っていた場所が、ドロドロに溶岩化している。
「嘘だろ……。あんなの、どうやって倒せってんだよ!」
ワイガーが斧を構える手が震えている。
無理だ。物理攻撃が届く前に消し炭にされる。
ルナも腰を抜かして動けない。
唯一、ユアだけが日傘(召喚品)を差して涼しい顔をしているが、戦闘力はゼロだ。
「ギャオオオオオオオオッ!!」
ドラゴンが咆哮し、次のブレスをチャージし始めた。
今度は、俺たちが隠れている岩ごと吹き飛ばすつもりだ。
絶体絶命。
だが――俺の口元は、引きつりながらも笑みの形を作っていた。
「は、ははっ……! 焦るな、みんな!」
「キョウスケ!? 頭おかしくなったか!?」
「違う! 俺たちには『切り札』があるだろ!!」
俺は震える手でスマホを取り出した。
そうだ。この圧倒的な暴力に対抗できるのは、より理不尽な暴力だけだ。
俺は迷わず『No.1』をタップする。
「来いッ! 金ならある! 手付金の10枚から1枚払ってやる!!」
タップした瞬間、手元の金貨袋から1枚が消失した。
ピロン♪
『決済が完了しました』
その通知音は、勝利へのファンファーレだ。
「見ろ! 空を!」
俺が指差した先。
赤く染まった空を引き裂いて、一筋の流星が飛来する。
それはドラゴンのブレスよりも速く、隕石よりも重く、そして何より――暑苦しく。
「ぬんッ!!」
ズガァァァァァァァンッ!!!!!
ドラゴンの鼻先に、筋肉の塊が着弾した。
爆風がドラゴンの巨体をたじろがせる。
「グオッ!?」
土煙の中から現れたのは、マントを翻し、テカテカのボディに太陽光を反射させる、あの男。
「呼んだか少年! 正義の鉄拳、ここに見参!!」
超人ガイマックス。
俺たちの最強の助っ人が、仁王立ちしていた。
「ガ、ガイマックスゥゥゥ!!」
俺は涙を流して叫んだ。
「頼む! あいつを倒してくれ! 金貨1000枚かかってるんだ!!」
「任せろ! 爬虫類(とかげ)だろうが何だろうが、俺のプロレス技の前には無力!!」
ガイマックスがバッとポーズを決める。
勝った。
これであのドラゴンも、ただの経験値と金貨に変わる。
俺の借金返済計画は、完璧に遂行されるはずだ――!
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