第9話
必殺! 異世界雪崩式DDT
リング中央。
オークジェネラルは、剣が通じないと悟るや否や、獣の太い腕を広げてガイマックスに突っ込んだ。
全身全霊のタックルだ。ダンプカーのような衝撃が、筋肉の城塞を襲う。
「ブモォォォォ!!」
「効かぬぅ!!」
ドゴォォォォン!!
ガイマックスは一歩も引かなかった。
いや、引くどころか、その胸板でジェネラルの突進を完全に弾き返したのだ。
「そんな貧弱な当たりで、この大胸筋が揺らぐと思ったか! これでも食らいな!」
パァァァァァンッ!!
乾いた破裂音が森に木霊(こだま)した。
ガイマックスの丸太のような腕が、ジェネラルの横面を張り飛ばしたのだ。
強烈な張り手。ジェネラルの巨体がよろめく。
「ブ、ブモッ……!」
ジェネラルも負けじと腕を振り回すが、ガイマックスはそれを全て張り手で迎撃する。
バチン! バチン! バチン!
「おーっと! 出ました張り手の応酬だあああ!!」
リングサイドのユアが、どこから取り出したのか分からないマイクで絶叫する。
「熱い! 熱いです! そして絵面(えづら)が猛烈に暑苦しいぃぃぃ!!」
「へっへっへ……気合いが入ってきやがったぜ!」
ガイマックスはニヤリと笑うと、よろめいたジェネラルの腕を取り、体を反転させた。
「そぉらよっと!!」
裏投げだ。
150キロを超えるジェネラルの巨体が、宙を舞ってマットに叩きつけられる。
ズドォォン!!
「グゥ……ブモッ……!」
追い詰められたジェネラル。
その視界の端に、リングの下から何かが「生えて」いるのが見えた。
パイプ椅子だ。なぜこんな森にあるのかは誰にも分からない。プロレスの神様の差し入れだ。
ジェネラルは迷わずそれを掴んだ。
「ブモォォォォ!!(死ねぇぇぇ!)」
凶器攻撃。銀色のパイプ椅子が、ガイマックスの脳天めがけて振り下ろされる。
「あーっと!! 凶器です! 反則だああああ!!」
ユアが抗議するが、ガイマックスは動じない。
ガシィッ!!
振り下ろされたパイプ椅子を、なんと片手で受け止めたのだ。
「な、なにぃ!?」
「プロレスに凶器は付き物だが……芸がねぇな!」
ガイマックスは椅子ごとジェネラルを掴み上げると、そのままコーナーポストへとぶん投げた。
ガッシャァァン!!
ジェネラルがコーナーに激突し、ぐったりと崩れ落ちる。
「行くぜ!!」
ガイマックスがコーナーポストによじ登る。
そして、ふらつくジェネラルの頭を脇に抱え込み、トップロープの上に立った。
「フィニッシュだ! 雪崩式DDTだぁぁぁぁ!!」
ガイマックスが空へ飛ぶ。
ジェネラルの脳天を抱えたまま、重力と体重、そして回転力を加えた必殺の一撃。
ズッドォォォォォォォォォン!!!!!
リングが、いや、森の大地そのものが陥没した。
ジェネラルの頭部がマットにめり込み、白目を剥いて痙攣している。
完璧に入った。もはやピクリとも動かない。
ガイマックスはすかさず体固め(ホール)に入る。
ユアがマットを叩く。
「ワーン!!」
「ツー!!」
「スリー!!」
カンカンカンカンカン!!!
高らかなゴングの音が、勝利を告げた。
と同時に、ガイマックスがバッと跳ね起きた。
「おおっと! 時間だ!」
彼はポージングもそこそこに、焦った様子で空を見上げた。
「カップラーメンが伸びちまう! 麺のコシは俺の筋肉のコシと同じくらい重要だからな!」
彼は懐から何かを取り出し、地面に放った。
ポンッ。
現れたのは、真っ赤なボディの――子供用の三輪車だった。
「じゃあな少年! 金があったらまた呼んでくれ! アディオス!!」
キコキコキコキコ……!!
ガイマックスは巨体を小さく丸めて三輪車にまたがると、目にも止まらぬ猛スピードでペダルを漕ぎ、物理法則を無視して空へと駆け上がっていった。
キラリと光る星になり、やがて消える。
後に残されたのは、崩壊した地面と、伸びているジェネラル。
そして、静寂。
「…………何なんだ、あいつは……」
全身包帯姿(ルナの応急処置)のワイガーが、ポカンと口を開けて呟いた。
「わ、私以上に変な人です……」
ルナもドン引きしている。お前が言うな、と言いたいところだが、今回ばかりは同意せざるを得ない。
俺は疲労困憊の体で、その場にへたり込んだ。
「ま、まぁ……一応、勝利したんだ。よしとしようぜ……」
勝った。
借金は増えたが、命は助かった。
俺たちの冒険は、まだ始まったばかりなのだから。
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