第8話
飛来! 3分間の筋肉爆弾
『契約確認。金貨1枚、受領しましたァァッ!!』
スマホから暑苦しい声が響いた、その直後だった。
「――上だ! なんか来るぞ!」
倒れていたワイガーが空を指差して叫ぶ。
俺とルナ、そしてオークジェネラルまでもが、つられて空を見上げた。
雲ひとつない青空の彼方に、キラリと光る星が見えた。
その光点は瞬く間に大きくなり、真っ赤に燃え上がりながら落下してくる。
「え、隕石!?」
ルナが悲鳴を上げる。
違う。あれは隕石じゃない。
よく見れば、マントをなびかせ、両腕をクロスさせながら大気圏を突破してくる『人』だ!
「と、止まれぇぇ! ここには俺たちがいるんだぞ!」
俺の叫びも虚しく、その光る塊は俺たちの目の前――オークジェネラルの直上へと着弾した。
ズガァァァァァァァァンッ!!!!!
大地が揺れるなんてもんじゃない。世界がひっくり返るような衝撃。
そして、盛大な爆風が巻き起こる。
「ぐわぁぁぁぁぁっ!?」
「きゃぁぁぁぁぁっ!」
「ブモォォォォォッ!?」
敵であるジェネラルはもちろん、依頼主である俺たちまで、枯れ葉のように吹き飛ばされた。
土煙が舞い上がり、周囲の木々が薙ぎ倒される。
「ゲホッ、ゲホッ……! あ、あいつ……敵も味方も関係なしかよ……!」
俺は煤(すす)だらけになりながら、爆心地を睨(にら)んだ。
もうもうと立ち込める土煙の中、謎のスポットライト(光源不明)が差し込む。
「フンッ!!」
筋肉が空気を弾く音と共に、煙が晴れた。
そこに立っていたのは、テカテカにオイルを塗った筋肉の塊。
赤いマントに、プロレスラーのような覆面パンツ一丁の巨漢。
「呼んだか少年! 正義のヒーローは、遅れてやってくる!!」
彼がポージングを決めると、その背後で謎の爆発(特効)がドカァンと起きた。
「無駄な爆発やめろ! 森が燃えるだろうが!」
「ガハハ! 演出だ演出! 細かいことは気にするな!」
彼――超人ガイマックスは、白い歯をキラーンと光らせた。
「さて、今日のリングはここか……!」
ガイマックスが右足を踏み鳴らす。
すると、信じられないことが起きた。
ゴゴゴゴゴ……!
地面から四本の鉄柱がせり上がり、瞬く間にロープが張られる。
ただの森だった場所が、一瞬にして本格的な『プロレスリング』へと書き換えられたのだ。
「ブ、ブモッ……!?」
中央に取り残されたオークジェネラルが、状況が理解できずにキョロキョロしている。
だが、すでに彼はリングの中だ。
「さぁ、始めようか!」
いつの間にか、リングサイドにはゴングが設置されていた。
そして、その横には――
「レディース・エーン・ジェントルメン!!」
マイクを持った、黒と白のストライプシャツに蝶ネクタイ姿の少女が立っていた。
ユアだ。
いつの間に着替えたんだ!? ていうかその衣装代も俺の借金か!?
ユアは俺のツッコミなど意に介さず、高らかにコールする。
「本日のメインイベント! 無制限一本勝負を行います!」
彼女はビシッと、赤コーナー(ガイマックス側)を指差した。
「赤コーナァァァァ!! 身長2メートル10センチ、体重145キロォォ!
宇宙(そら)から来た筋肉の伝道師! ガァァァァイ・マァァァァックス!!!」
「ウオオオオオオッ!! マッスゥゥゥル!!」
ガイマックスが胸筋をピクピクさせながら咆哮し、トップロープに登ってポーズを決める。
観客(俺、ワイガー、ルナ)は呆然としているが、彼はノリノリだ。
「対するぅぅ、青コーナァァァァ!!」
ユアが冷ややかな目でジェネラルを指差す。
「森の暴走豚野郎! さっきバフかかって調子乗ってるけど、しょせんは豚肉ゥ!
オォォォォク・ジェネラァァァル!!」
「ガ、ガウウウッ!!(馬鹿にするな的な叫び)」
ジェネラルも空気を読んだのか、大剣を叩きつけて吠え返した。
「レディー……」
ユアの手からゴング用の木槌が出現する。
「ファイッ!!」
カァァァァンッ!!
運命のゴングが、高らかに鳴り響いた。
「行くぞ豚野郎! 俺の筋肉(あじ)見せてやる!」
「ブモォォォ!!」
ジェネラルが猛然と突進する。
超加速した巨体と大剣の斬撃。
だが、ガイマックスは逃げない。
「筋肉(マッスル)・ガード!!」
ガギィィィン!!
鋼鉄の大剣を、ガイマックスは大胸筋だけで受け止めた。
「なっ……!?」
俺は目を剥いた。
物理法則とか、斬撃耐性とか、そういう次元じゃない。
これが、1回1万円の『超人』の力か……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます