殺し屋少女はシリアルキラーとともに。

阿月

第1話 路上の殺人

 夜20時。

 私は小金井市内の路上、多磨霊園に向かう道を歩いていた。

 視線の先には一人の女子高生。

 ショートカット。眼鏡。紺のダッフルコート。

 通学カバンを手にして、足早に歩いていた。

 私はその少女に気づかれないように距離を取っていた。


 そして、その少女は別の一人の女子高生の後をつけていた。

 尾行する女子高生をさらに尾行する女子高生。

 それが私だ。

 眼鏡に三つ編み。

 セーラー服の上からブラウンのダッフルコート。

 まあ、先を行く少女とあまり変わらない。


 だが、先頭の少女は、私たちに比べて少し派手な恰好をしていた。

 少し盛った、派手な髪色に白いファーコート。


 その少女は急に脇道へと入った。

 萩華寺と呼ばれる古刹の脇道。

 上り坂をゆっくり歩いていく。

 あたりに人の気配はない。

 マンションの窓には灯りが点っているが、この寒空に顔を出す者はいない。


 坂の中腹でファーコートの少女が振り返った。

「あんた、さっきから私の後をつけてきてるよね。何か用?」

 紺のダッフルコートの少女が立ち止まる。

 そして、コートを脱いだ。

 そして走り出す。

「な、何だよ!」

 そのまま、叫ぶファーコートの少女にぶつかっていった。

「なっ!」

 ファーコートの少女は叫び声を上げて、そのまま押し倒された。

 そして、紺のダッフルコートの少女は振り返ってコートを拾って逃げ出した。

 暗闇の方に向かって。


 あーあ。うん。

 あれじゃあ、ダメだな。


 私はファーコートの少女に駆け寄った。

「どうしたの? 大丈夫?」

「あ、あいつ……刺しやがった……」

 見ると、ファーコートからナイフの柄が出ていた。

 赤い血が染みだしてくる。

「救急車呼ぶから! 動かないで!」

 私の声にファーコートの少女が頷いた。

「あなた、高校生? 名前は?」

「南高の笹見屋茜だ……。畜生、あんなヤツ知らねえ。何もしてねえ」

 名前の確認完了。

 うん、間違いない。

 ナイフは果物ナイフ。百均で売ってる安物だ。

 まあ、これじゃ死なないな。

 でも、コートのせいで返り血はほとんどないだろう。

 大丈夫。彼女は逃げ切れる。


 では、やることは一つ。


 手袋をはめた手で笹見屋茜の口を塞いだ。

「静かに」

 ポケットから取り出した、同様に百均で買った果物ナイフをもう一度、笹見屋茜に向かって刺した。今度は腹ではない。

 胸だ。

 心臓の位置に一突き。

 笹見屋茜は、信じられない、という目で私を見て、そして一瞬で息を引き取った。


 うん。私自身は、この笹見屋という少女に恨みはない。

 せめて、即死させてやるのが慈悲というものだろう。

 でも、まあ。あんた、自業自得なんだよ。そのことだけは思い知って逝くといい。

 私は立ち上がった。


 周囲を確認して、その場を立ち去る。

 暗闇の中へと。


 そして、そこには二本のナイフを突き立てられた、少女の死体だけが残っていた。

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