生涯、恥
J.D
生涯、恥
とても、恥の多い人生でした。
おおよそ私には、健常な人と同じようには生きられませんでした。
私は、地方の、田舎とも都会とも言えない絶妙な都市に生まれ、しかも、電車一本で日本有数の都市に行くことができるので、それほど流行りに疎い条件が揃っている筈はないのですが、何しろ私の性格上、とにかく情報に疎く鈍臭いもので、みんなが知っているようなものは、もっと遅れて知るというのが定番でした。
私が幼稚園くらいのときに、妖怪ウォッチというゲームが流行っていたのですが、何しろ私はゲーム機の一台も持っていなかったので、みんなが言うようなことはちんぷんかんぷん。必殺技を唱えられても、というか必殺技自体知っているのが仮面ライダーくらいしか分かりませんでした(同じくらいに有名だったのがポケモンでしたが、これに関しては単純に興味がありませんでした)。
また、私は特に女性に好かれもしないくせに、小さい頃から妙に好色な人間でした。初恋は、日本と某国(具体的にどこというと、個人情報に当たるので言いませんが、東洋ではありません)とのハーフの、お人形のようなとても綺麗な子だったのですが、随分しょうもない嫌がらせをしていたような記憶があります。もちろん、普通に話もしましたが、私は、どうも恋には奥手で、意識しだすと緊張して嫌がらせしか出来ない、中学生の前借りみたいなことばかりしていたのです。
小学校に上がって少しした時、何であったか、確か胃腸炎であったのか(私は、生まれつきと言えば大げさですが、胃腸が弱い体質でした)、学校に遅刻するということがあったのですが、同級生から「サボり」と言われるのが嫌で何度も吐いて、そして教室に入った瞬間にも吐くというとんでもない失態もあります。
私は、臆病な人間なのです。好きな女の子には強く出れても、男子には、少し絡まれただけで逃げ出し、夜怯えるような小物でした。
小学3年生か4年生の時も、あまりのしつこい嫌がらせに女の子を泣かすという事件を起こしました。私は、女の子を泣かすほどやるつもりはなかったのですが、先生が出てきた途端に勢いを失い、ただ顔も見ずに平謝りをしていました。愚かなものです。
そんな私ですが、小学4年生の夏頃、忘れもしません、父との勉強が始まりました。
それまでも、何度か父とは勉強していた記憶がありましたが、ここからの日々は、そんなものとは違います。
まず、毎日夜に勉強があり、中学受験に向けて邁進するようになりました。目標は、某有名私立中学。今考えれても、そんなところに行ける筈ないのです。事実、後に私はそこを断念し、代わりに中高一貫の別の中学に行きました。
やっていたことは、詳しくは覚えていませんが、ただ日々、教育がエスカレートしていったのは覚えています。
最初は、間違えたところがあれば、「馬鹿」「阿呆」などと言われていたのですが、次第に「クズ」「死ね」などの言葉に変わり、頭を叩かれたりするようになっていきました。
さらに、学校行事としてマラソン大会もあったのですが、そこでも活躍するようにと、毎週日曜日にマラソンの練習も始まりました。私としては、そこまで興味などなかったのですが、タイムが遅ければ、最悪殴られ蹴られた後にもう一周などもあり得ました。一度、父とマラソンで勝負し、勝ったらもうやめていいという対決をしたのですが、結果は私の圧勝。すると、父から、「もう一度やってほしい」と言われ、承諾してしまいました。後に、
「お前がずっとやりたいと言っていたので、俺は付き合ってやっていた」
と、何故か話が変わっていたのには驚きましたが、とにかくそこからも、地獄のような日々は続きました。
あれは、6年生の夏でしたでしょうか、私は、どうせ間違えたら怒られると、父から渡された課題を、答えを写してやったように見せかけるという愚行を行いました。後に父にバレたその夜は、とんでもない惨事になってしまいました。髪は引っ張られ、何度も殴られ、貶されました。
その後も、最早答えを見ることでしか追いつけなかった私は、何度も答えを見て、そしてそれがバレるたびに何度も怒られました。今から考えれば、私の卑怯な性格は、これが産んだのかも知れません。
マラソンの方でも、一度、ビルに連れて行くと言って髪の毛を引っ張られたことがありました。
「そんなに走るのをサボるのは、空でも飛べるからだろう」
とのことです。抵抗したら、今度は何度も殴られ、家に帰っても殴られたりしました。別の日には、父の肘が私の目にあたり、(父は自転車なのですが、練習場まではその後部座席に私が乗るという形で移動していました)悶絶したところを、痛い振りしやがってとまた殴られるということもありました。
父いわく、私はちゃらんぽらんの嘘つきホラ吹きなので、それを矯正するのが目的であったとのことです。しかし、母がいつか父に「一位になったらどうするのか」と聞いたら「順位が下がっては駄目だから続けさせる」と言われたと言っていました。結局、順位なのではと思います。
その頃、学校ではというと、私は、少し変わった、しかし穏やかな男の子をいじめていました。殴ったこともあったと思います。何度も罵倒し、からかい、泣いて怒っているのを面白がるという、最低なことをしていました。言い訳がましくいうと、ストレス発散なのですが、やっていることは言い逃れの仕様がない人間のクズです。結局、その子とは仲直りし、今ではLINEにて下らないやりとりをする仲ではあるのですが、その罪は一生消えないものです。
また、その子が転校(その子の父はいわゆる転勤族でした)してからというもの、友達のいなくなった私は、よく分からない奇行に走るようになりました。
その当時、お楽しみ回という、クラスで行うお遊びの日があったのですが、女子がかっこよく、そして可愛く踊っているのを見て何を思ったか、エグザイルのチューチュートレインをみんなの前で踊るという、今考えても正気の沙汰ではないことをするようになりました。さらに、お楽しみ回でも、一人でDa PumpのUSAを披露するという奇行っぷり。恥フルコースです。
ちなみにダンスの技術はありません。なのに何故かボーカルまで務めました。大忙しです。何度も言いますが、一人でです。
そんな調子の私でしたが、いよいよ中学に入学しました。
中学に入っても、ずっと(というか、これを書いている今日も、明日も)父との勉強は続きました。
あまり内容は変わっていません。家は、私にとって最も居心地の悪い空間でした。
母とは、仲がよかったのですが、小学校の時に、私が父のことで警察に行きたいと言ったときに「どうせなにもしてくれないし、もし父が首になれば家族全員が困るから我慢しとき」と言われたことが引っかかり続けていました。
中学に入っても、奇行はしばらく続きます。割愛しますが。
しかし、途中から、そんな奇行をしなくてもみんなの輪に入れるようになっていきました。
私は、みんなに、かまってもらいたかったのです。みんなと一緒に、いたかっただけなのです。
しかし、今度は人の陰口を言うようになりました。嘘をついて、言い逃れして、悪口を言って楽しむ、結局、私はそんな卑怯な人間でした。私は、仲良くしてくれていた友達を、ただ少し構ってくれなかったという理由でこき下ろしました。小物のやることです。そのくせ、面と向かっては言えないというところも含めて。
私は、少し人に文句を言われただけで、何日も何日も考え、夜になる度びくびく震えていました。
しかし味方がいるとなった瞬間に強くなり、しかしそれでも本人には直接なにも言えない、大変可哀想な小動物です。醜い小動物です。
私はどんどんと、醜い人間になっていったのです。日に日に成績は下がり、無気力で不真面目で、かまってもらうために人の気分も害する、そんな人間になっていったのです。
そんな私ですが、高校一年生のときにまた恋をしました。その子はとてもかわいらしく、まさに一目惚れでした。
しかし、わかってはいたことですが、私と彼女とでは、雲泥の差がありました。しかも、その子は、学校の中では知らない人はいないというほど有名な先輩の妹さんでした(といっても、私の学校自体小さいというのもありますが)。話しかけるまでもなく、私は、彼女との立っている場所の差を思い知らされました。
そこで、なんとかアプローチをするというのが男性というものですが、おおよそ男性もどき、人擬きの卑怯で臆病な私は、彼女を好きだという気持ちを、道化の冗談にして、笑い話にしてなかったことにしようとしたのです。具体的なことは言いませんが、元々友達には馬鹿な変態で通っていた私でしたので、それをいい事に色々なことを言っていました。そうでもしないと、悲しくてやっていられなかったのです。
しかし、どこから漏れたのか、そのことが彼女に知られたとのことでした。私は即座にその道化をやめ、友達には、その子の兄である先輩との話題を作りたかったと言い訳しました(実際、そういう理由もあったですが)。とことんしょうもない人間です。
今、彼女は私のことなど忘れているでしょう。いや仮に覚えていても眼中にないでしょう。
哀しい人間です。何も、得られない人生なのです。くだらないことばかりして、落ちこぼれに落ちこぼれ、周りからは見下され憐れまれ、おおよそ対等とは思われない、そんな人間です。
もし、また生まれ変われるのなら、次はもっとましな人生を送りたいものです。
私は、友達と兄弟がいます。彼らのことは、手放しで好きだといえます。もし、何かで私がいなくなっても、彼らの幸せだけは、なくならないでほしいと、そう願っています。
生涯、恥 J.D @kuraeharunoto
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