第20話 家族でお出かけ


 俺が帰宅すると、リビングには母さんと麻衣がいた。

 麻衣はソファでくつろぎながらテレビを観ており、母さんはダイニングテーブルで、俺が作り置きしておいたハンバーグを温め直して食べている。


「お兄ぃおかえりー」

「おかえりなさい、れい。ハンバーグ頂いてるわよ。凄く美味しい」

「母さん今日はいつもより早いね」

「明日からたった三日間だけだけど休みがもらえたのよ。それでここ最近詰めこんでいた仕事が思ったよりも早めに終わってね」

「聞いてよお兄ぃ! お母さん明日私達をショッピングモールに買い物に連れて行ってくれるんだって!」

「え、ホントか!?」

「ええ。あなたたちにはいつも苦労かけてるから、たまには家族サービスしなきゃと思って」

「私、新しいワンピース買ってもらう約束しちゃった〜」

「れいも欲しい物があったら遠慮しないでいいわよ」

「それなら俺は参考書が欲しいな」

「あら、そんなものでいいの?」

「ああ。これからは勉強も頑張ろうと思ってさ。来月の中旬には中間テストも控えてるし、まずはそこで結果を出してみせるよ」

「れい······あなた本当に変わったのね。わかったわ。応援してるから頑張ってね」

「ああ」


 それからしばらくの間、久しぶりに全員揃った家族三人で団欒の一時を過ごした。


 その後、風呂に入って汗を流してから自室に戻った俺は、レインで紗耶に、改めて今日は楽しかったと告げた。


 そうして紗耶とのチャットを終えると、二時間程読書にふけってから、明日の外出に備えて早目に就寝することにした。


 翌日の朝。

 窓から白い光が射しこむ中目覚めた俺は、まず顔を洗ってから、朝食の準備を始めた。

 予報通り今日は快晴で、お出かけ日和のようだ。


 朝食ができあがったところで、母さんと麻衣が一緒にリビングに顔を見せた。


「おはよう、れい」

「お兄ぃおはよー」

「二人ともおはよう。朝食ができたから今起こしに行こうと思ってたところなんだ」

「おお、今日は和食だー」

「美味しそうね。早速いただきましょうか」


 そうして三人揃って朝食を食べた。


 食べ終わって食器を洗った後は、珈琲を飲みながら談笑して過ごし、時間になったところで、着替えなどを済ませてから、三人で家を出た。


 母さんの運転するステーションワゴンで、三十分程移動すると、郊外にあるショッピングモールに着いた。


 駐車場に車を停め、モール内に入る。


「それじゃあ私と麻衣は、服を見に行ってくるわね」

「ああ。俺はその間に、本屋に行って参考書を買ってくるよ」

「お兄ぃまた後でね」


 そこで二人と別れた俺は、モールの二階にある本屋へと向かった。


 本屋に入り、参考書のコーナーに行き、手にとった参考書の頁をパラパラと捲りながら、どれがいいかと悩んでいると、不意に横から声をかけられた。


「あれ、吾妻君じゃない?」

「ホントだ〜」

「ん······なんだ星野と水無月じゃないか」


 顔を横に向けると、そこには星野と水無月が立っていた。


 星野は黄色のカーディガンにベージュのフレアスカート、水無月は白色のロングTシャツにデニムという服装だ。


「こんなとことで会うなんて奇遇ね。あなた一人で来たの?」

「いや、今日は家族で一緒に来たんだ。母さんと麻衣は、今服を見に行ってる」

「そうなんだ〜。私達も、うちのお母さんに車で連れて来てもらったの〜」

「参考書見て難しい顔してたけど、どれを買うかで悩んでたの?」

「そうなんだよ。俺にはどれがいいかさっぱりでさ。そうだ。よければ水無月が選んでくれないか? 水無月は学年一位の秀才なんだから、どれがいいとか分かるんじゃないか?」

「そうね。私が使っている参考書はこれとこれね。有名な大学の教授が執筆していて、とても分かりやすいの」

「へえ、そうなのか。それじゃあそれにしようかな。ありがとな水無月。おかげで助かったよ」

「これくらい大したことないわよ。あなたには、ストーカーから助けてもらった恩もあるし、少しは借りをかえしていかないとね」

「もう十分だよ。ところで今日は紗耶は一緒じゃないのか?」

「紗耶ちゃんも誘ったんだけどね〜。今日はお祖父さんの法事があるからって断られちゃったの〜」

「そうなのか。それなら仕方ないな」

「そう言えば、その紗耶が、昨夜レインで吾妻君との映画デートは最高でしたって話してたわよ」

「うんうん、紗耶ちゃん嬉しそうだったね〜」

「しかもあなたの家に行って、手料理までご馳走になったそうじゃない。紗耶がお店で食べるよりも美味しかったって自慢げに語ってたわ」

「そうそう、吾妻君って料理が上手だったんだね〜。知らなかったよ〜。もしかすると私よりも上手かも〜」

「それはないって。俺はネットのレシピ通りにしかつくれないからさ。星野みたいな熟練の技にはかなわないよ」


 俺がそう謙遜したところで、ショッピングを終えたのか、母さんと麻衣が姿を見せた。


「あれ、陽菜さんと葵さんだ」

「麻衣ちゃん久しぶり〜」

「ホント久しぶりね」

「怜人と麻衣の母です。よろしくね」

「星野陽菜といいます〜」

「水無月葵です」

「お母さん凄く若くて美人さんですね〜。麻衣ちゃんのお姉さんかと思いました〜」

「あら、ありがとう。あなた達も可愛らしいわね。れいったら昨日デートに行ったばかりだっていうのに、また新しい子を掴まえるなんて、とんだプレイボーイね」

「母さんからかうのはやめてくれよ。二人はただの仲が良いクラスメイトだよ」

「ふふ、冗談よ。これからもれいと仲良くしてあげてね」

「「はい」」

「それで、私達はこれからレストランで食事する予定なんだけど、よければあなた達も一緒にどう?」

「いえ、誘ってもらえるのは嬉しいんですけど、私達もこの後約束がありますんで」

「そう。それは残念ね。また機会があればそうしましょう」


 そうして二人とはそこで別れ、薦められた参考書を買った後、俺達三人はレストランに行き、昼食を摂った。


 食事の後は、モールのGWイベントとして、クラシックのミニコンサートが開催されていたので、そこで心地良い音楽に包まれながら過ごし、夕方になってから帰宅した。



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