第17話 陽菜のお弁当


 傷心の星野を慰めながら家まで送って行った翌日、星野は休み時間になると、俺と水無月の席に来て話しをするようになった。

 仲良し三人組で話し合って、天城とは、あいつが本当に反省するまで付き合いをやめることにしたらしい。


 天城は自分の席から、憎らしげに俺のことを睨んだりしているけれど、何か言ってくるということはなかった。

 イメチェンしたとは言え、以前の不良だった時のイメージが色濃く残っていて、ビビっているのかもしれない。


 そうして昼休みになり、待望の時間が訪れた。


 そう、今日俺は星野の手作り弁当が食べられるのだ!

 そのため午前中はそわそわして授業に身が入らなかった。

 だって星野の弁当は、『オモクロ』のゲームをしていた時から、一度はたべてみたいと思っていたからな。

 その願いが、今から叶うわけだ。

 これでテンションをあげずにいられようか。


「はい、これ吾妻君の分のお弁当」

「おおっ! ありがとな!」

「陽菜の手作り弁当なんて普通は食べられないんだからね。ちゃんと味わって食べなさいよ」


 事情を知っている水無月にからかわれながら、俺は二段になっている弁当の蓋を開けた。


 リクエストしていた唐揚げと卵焼きに、豚肉のアスパラ巻き、カボチャと里芋の煮物、ポテトサラダ、ブロッコリー、プチトマトと、色どりも鮮やかだ。

 もう一方の容器には、こちらも目に嬉しい三色そぼろ丼が詰められている。


「それじゃあまずは唐揚げから」


 いただきますをしてから、早速唐揚げを口に運ぶ。

 柔らかく揚げられた鶏肉は、噛むとジュワっと肉汁が溢れてくる。

 そのジューシーな唐揚げをおかずに、三色そぼろ丼を掻き込む。


「凄ぇ美味いよ星野!」


 俺は感激に震えながら称賛した。


「お口に合ったようで何よりだよ〜」

「こんな美味い弁当をタダで食べられるなんて、やっぱり悪い気がするな。星野、俺に何かして欲しいことはないか? できる範囲でなら叶えてやるぞ」

「私は美味しいって言ってもらえるだけで十分だよ〜。でもそうだな〜。吾妻君がそれじゃあ納得できないって言うなら、また髪を切らせてもらえるとうれしいかな〜」

「それならこっちからお願いしたいくらいだよ。俺のイメチェンが成功したのは星野の力が大きいんだからな」

「えへへ、そうかな〜。何か照れるね〜」

「陽菜のカットの腕は確かだって分かったことだし、私も今度切ってもらおうかしら」


 そんな風に三人で楽しく昼食を摂った。


 午後の授業も終わり、放課後になると、皆それぞれ、明日から待望のGWということで、友達同士で集まって、どう過ごそうかと楽しげに予定を立てたりしている。

 その様子を横目に、俺は教室を出て図書室へと向かった。


 図書室に入ると、今日は紗耶が受付けの担当らしく、カウンターの前に座り、文庫本を開いて読書に耽っていた。


「紗耶、今いいか?」

「ん? ああ、怜人先輩でしたか。ええ、大丈夫ですよ」

「明後日の映画デートのことで一応確認しておこうとおもってな。駅前の噴水広場に朝十時で問題なかったか?」

「ええ、その場所と時間で良いですよ」

「そっか。じゃあそういうことで」

「はい、分かりました」


 俺は紗耶と別れて図書室を後にした。


 学校を出た俺は、そのまま自宅には帰らずに、繁華街に立ち寄った。

 紗耶への誕生日プレゼントを買うためだ。


 そこで俺は、星野と水無月に薦められた通り、ちょっとお高めのハンドクリームを買った。


 プレゼントを買うことが出来て満足した俺は、帰宅すると、自室で箪笥の中から、持っている服を適当に引っ張り出した。

 俺が転生する前の怜人は、遊び人らしくオシャレには気を使っていたようで、結構な量の服を持っていて、見た感じどれもカジュアルで俺の好みにも合っていた。

 ただ俺はファッションに疎いため、センスの良い着こなしというのがわからず、ネットの力を借りることにした。


 そして色々と迷った末に、トップスには白色のバンドカラーシャツの上に紺色のテーラードジャケットを羽織り、ボトムスには黒色のスキニーパンツにローファーというスタイルに落ち着いた。


 無難に纏めたつもりなので、これならダサ過ぎてドン引きされるようなことはないだろう。


 明後日の映画デートに着ていく服も決まったことで安心した俺は、試行錯誤の末にようやく中盤まで書き上げたという紗耶の新作恋愛小説を読んでみることにした。



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