美少女義姉妹達は義兄をバズらせたい〜強いくせに弱いふりをし続けるダンジョン冒険者の義兄をこっそり配信していたらしい〜
田中又雄
第1話 孤高の龍神狩
ダンジョンの出現が人類の歴史を変えてから、およそ五百年の時が経過していた。
この世界では、ダンジョンは社会の基盤になりつつあった。
迷宮の奥深くで得られる資源、魔法の遺産、そして冒険者の強さが経済や軍事力を支えていた。
ダンジョンに入れば、誰もが【ダンジョン形態】となり、魔法やスキルや特殊能力を扱えるようになる。
しかし、外界に戻れば、ただの人間に戻る――それがこの世界のルールだ。
そんな中、ダンジョン管理局の本部では、上議員たちの緊急会議が開かれていた。
首都の地下深く、厳重な結界に守られた会議室。
円卓を囲む議員たちは、皆一様に厳しい表情を浮かべていた。
局長の篠上善吉上局長は、齢七十を超えるベテランで、ダンジョン管理の権威者だ。
彼が重々しく口を開いた。
「諸君、最近の『孤高の龍神狩』の動向は、看過できないレベルに達している。Lv.Sクラスの龍神系ダンジョンを、次々と単独攻略。攻略時間は異常な短さで、その痕跡すら残さない。どの公認ギルドにも所属しておらず、もしこのまま政府側の監視下に入らないということであれば、これ以上見逃すわけにはいかないかと」
隣席の佐々木議員、三十代の鋭い目をした女性が、投影されたホログラム資料を指差した。
「確かに。龍神系のダンジョンは、炎や雷の属性魔法が複雑に絡み合うため、パーティー制が推奨されているのに……彼は一人でクリアを繰り返しております。これまでは資源や遺産は全てそのままにしてあるからと、見逃していたものの、敵対勢力に傾こうものなら損失は計り知れないかと」
もう一人の議員、壮年の男が拳を握りしめた。
「管理外の強者が野放しでは、後々の統制が難しい。そろそろ本格調査を。精鋭冒険者を数名派遣し、尾行や痕跡分析を命じるべきだ。次の標的を予測して、先回りするんだ」
そうして、決定を下した。
「同意する。作戦名は『影狩り』。彼の正体を暴き、管理下に置くことを目標とする」
議員たちは静かに散会した。
こうして、謎の冒険者『孤高の龍神狩』を追う秘密の網が、張り巡らされ始めたのだった。
◇
「ふぁあ…」
堰代樹、18歳の高校3年生は、平凡な公立高校に通うぼっち生徒だ。
この世界では、ダンジョンと現実が明確に分かれている。
ダンジョンで得た力は、外界では使えない。
どれだけダンジョンですごい人もこちら側ではただの人間だ。
もちろん、中にはどちらでも優れた人もいるが
俺の場合、ダンジョンでは無敵だが、現実では勉強は平均以下。
運動神経は鈍く、更には社交性ゼロ。
クラスメイトからは「影薄いヤツ」と陰で囁かれる存在だった。
この日も、朝のホームルームから下校まで、誰とも話すことなく過ごした。
授業中はノートを取るふりをしながら、頭の中で次のダンジョンをシミュレーションしていた。
休み時間はトイレに逃げ込み、弁当は一人で屋上で食べる。
放課後、部活の喧騒を避けて真っ直ぐ帰宅。夕陽が沈みかける住宅街を歩きながら、俺はため息をついた。
「今日も何も変わらないつまらない日常だった」
家に着き、玄関を開けると、明るい声が迎えた。
「あ、お兄ちゃんおかえりー!」
三女の堰代沙里が、リビングから飛び出してきた。
高校一年生の彼女は、活発で明るい性格。
平均的な身長に、ショートヘアがよく似合う。
アイスをくわえながら、無邪気に笑う姿は、SNSで人気の「美人三姉妹」の末っ子。
「……ただいま。」
俺は小さく返事をして、靴を脱いだ。
沙里はアイスを一口かじり、からかうように言った。
「今日も定時帰宅ですなー。学校で友達できた? 彼女は?」
「……いや、そんなのいきなりできないだろ。てか、こんな時間に家にいるなんて珍しいな」
「まぁね! 今日は配信日だから早めに帰ってきたの。私たち三姉妹のチャンネル、今日もバズらせちゃうよー! お兄ちゃんも出ない? 絶対ウケるから!」
「…三姉妹チャンネルにブサイクお兄ちゃんが出たら炎上するだけだろ」
「お兄ちゃんブサイクじゃないじゃん」
「はいはい、ありがと」
適当に流して部屋に向かった。
三姉妹との生活はもう三年が経とうとしていた。
最初は3人とも美少女揃いで性格も合わず、完全に心を閉ざしていた。
長女の花は、同じ高校三年だが女子校の偏差値トップ校に通う。
おっとりした天然タイプで、胸が大きく身長は低め。
穏やかな笑顔が印象的だが、俺があまり話したくないであろうことを察して、あまり話しかけてはこない。
空気を読んでくれる点ではありがたくはある。
次女の愛は高校二年生、ツンデレでダウナーな怖い女の子。
高身長のスレンダー体型で、最初は俺を露骨に嫌っていたが、ある事件以降少しずつ話すようになり、最近は彼女の方から声をかけてくるようになっていた。
そして三女の沙里は、最初から意外と好意的だった。
元々コミュ力お化けな上に空気を読まないので、俺が喋りかけるなオーラをいくら出してもそれを悠々と踏み越えて話しかけてきて、今では家族で一番話すようになっていた、
俺は部屋に入り、ドアを閉めると、鍵を閉める。
そして、深呼吸した。
そのまま軽く着替えてベッドに座る。
この世界のダンジョンゲートは、通常は公認の入口からしか開けないが、俺は自由にゲートを展開し、空いているダンジョンにワープできる。
正直、何でこれができるかは、未だに不明であったが、これのおかげで正体を隠せていた。
「さて、今日も龍狩りだ」
そうして、ゲートを開き、Lv.S【大炎龍】のダンジョンへ飛び込んだ。
◇
ダンジョン内は灼熱の地獄。
溶岩が流れる洞窟、熱気が肌を焦がす。
俺のダンジョン形態は、黒いコートに覆われたスリムな体躯。
目は鋭く輝き、一気に能力が全開にさせる。
この世界の冒険者は、ダンジョンに初めて入ったタイミングで一つ「固有スキル」を与えられる。
多くの人は火や水の属性魔法、または身体強化系だが、俺のスキルは異質だ。
「魔法プログラミング」
――見ただけで魔法の構造を解析し、自由に書き換える能力。
他の冒険者にはない、世界最強クラスのスキル。
これが俺の強さの源泉だ。
何なく敵を倒すと、最深部に到達した。
そこには大炎龍が待ち構えていた。
体長100メートル近い赤い鱗の巨獣。
翼を広げ、咆哮を上げる。
洞窟全体が震え、溶岩が噴き上がる。
「グルオオオオオン!!」
流石はLv.Sといったところか。
その龍がまず放ったのは、炎のブレス。
直径20メートルの火柱が、俺を狙って飛ぶ。
冷静に視線を向け、スキルを発動させる。
ブレスは魔法陣から生成される炎の集合体――その構築を瞬時に解析。
発動条件の「目標ロック」を書き換え、ブレスを空中で不発にさせる。
炎が散り、龍が戸惑う隙に、距離を詰める。
「ふん、基本パターンか」
とある身体向上の魔法を自らにかけると、速度は超人的になる。
それも魔法プログラミングのスキルである。
自分の魔法を書き換えれば、最小限の魔力で最大限の魔法を使うことができる。
地面を蹴り、そのまま龍の腹部に跳びつく。
固有スキルで自分の身体強化魔法を最適化――消費魔力を最小限に抑え、出力最大。
爪状の武器『龍神狩りの爪』を振り下ろす。
鱗を貫き、深く切り裂く。
血が噴き出し、龍が暴れる。
「ガアアアア!」
龍の反撃は尾の薙ぎ払い。
風圧だけで岩を砕く一撃だが、動体視力の向上により予測済み。
尾の動きを解析し、軌道をずらす魔法を即興で書き換え。
尾が空を切る間に、翼に取りつく。
翼の関節部に爪を突き刺し、引き裂く。
龍がバランスを崩し、洞窟の壁に激突。
崩落する岩が龍をさらに傷つける。
それから龍が最後の力を振り絞る。
口から巨大な火球を生成――複雑な魔法陣が絡む上級魔法。
俺は目を細め、解析。
火球の「爆発条件」を書き換え、自分の周囲にバリアを張る。
火球が炸裂するが、逆に炎を吸収し、自分の攻撃に転用。
『影の鎖』を強化版で放ち、龍の四肢を縛る。鎖は魔法プログラミングで耐熱性を上げ、龍の炎を無効化させる。
「終わりだ」
俺は龍の首元に跳び、爪で喉を斬り裂く。
龍の体が崩れ、消滅した。
クリア報酬の宝箱が現れ、息を吐いた。
所要時間、十二分。
パーティーなら数時間かかるはずだが…。
「自己最速更新だな」
リアルでもダンジョンでも1人の俺はソロで潜り続け、中学時代にはLv.Aを単独クリアできるレベルになっていた。
特に龍神系のモンスターが大好きで、何度も狩った。
変に噂になるのが嫌で今まで姿を隠しながら何とか活動してきた。
今ではLv.Sをソロで制覇できるようになり、『孤高の龍神狩』の異名をつけられるようになった。
とはいえ、そろそろ自分の正体を探ろうとする人たちも増えてくるだろう。
そう思っていると、案の定、ギルドの連中が現れる気配がして、一瞬でゲートから帰還する。
「あっぶね…12分で駆けつけてくるとか…ストーカーかよ」
家に戻った俺は、汗だくの体を拭き、着替えてベッドに倒れ込んだ。
ダンジョンの興奮が残るが、現実の疲れが重い。
目を閉じようとした瞬間、ドアがノックされる。
「あっ、お兄ちゃんー?」
「ん?」
「ご飯できたよー」
「あーうん。もう少ししたらいく」
「もー、早く来なよ! 」
沙里はそう言って、去っていった。
俺は天井を眺め、ため息をつく。
さてと…これからどうするかな。
この秘密がバレたらかなり面倒なことになるのは間違いなかった。
しかし、この時、俺は知らなかった。
実はあの三姉妹が既に勘づいていることを。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。