破滅願望

 

第1話

 彼女は僕を自分の家に呼び出すと、自信満々の顔でこう言い放った。


「私は人を操る能力を身に付けたんだ!」


「漫画でも読みすぎたの?」と僕は呆れたようにそう返した。


「違う違う。本当に使えるようになったの。……じゃあ、行くね」


 彼女はそう言うと、僕の目をじっと見つめた。そして、低い声で僕にこう命令した。


「今から私の命令に従いなさい」


 その言葉を聞いた瞬間、僕の体に雷に打たれたような衝撃が走った。そして、体が金縛りに遭ったように動かなくなった。彼女は自分のコートのポケットから拳銃を取り出すと僕の目の前に置き、こう命令した。


「これで私を撃ちなさい」


 自分の意思とは関係なく、僕は拳銃を手に取ると撃鉄を起こし、彼女の左肩を撃ち抜いた。彼女の白いコートが血で赤く染まっていく。けれど、彼女はまるで痛みなんか感じていないように僕に向かって笑顔でこう言った。


「すごいでしょ?」


「……」


 僕は彼女の命令したことしか出来ないので喋ることが出来ない。このことに気づいた彼女は、パチンと両手を叩いた。その瞬間、僕は自分の体を自由に動かせるようになった。


「紅茶に何か盛ったの?」


「紅茶じゃなくて、これだよ。これ」


 彼女はそう言うと、自分自身の目を指差した。


「このコンタクトレンズ、人を操ることが出来るんだ。2つで4億もしたの」


「4億!? 冗談でしょ?」


「本当だよ。私、宝くじ5億当たったんだ。それで、私の夢を叶えようと思ったの」


「夢?」


「銃で撃たれてみたかったんだ。でも自分でやったら、精神病院入れられそうだから、このコンタクトレンズ使って原田くんにやらせたの」


 そう言い終わると、彼女は左肩を押さえた。よく見ると顔が青白いし、口元が若干痛みに歪んでいる。そして、大丈夫か?と思うほど血が床に滴っていた。


「大丈夫? 撃たれても全然反応しないから、痛覚遮断する薬でも飲んでるのかと思ったんだけど……」


「たった1億でそんな薬買えるわけないじゃん。さっきのはただの私の演技だよ。だって自分で撃ってって命令しておきながら痛がったらクソダサいじゃん。……でも正直、やって良かったと思ってる」


「どうしてそう断言出来るの?」


「撃たれるまで、欲求不満で頭の中に靄がかかった感じだったんだよね。撃たれたら、それがぱーっと晴れた感じがするから。原田くんも自分の欲望に忠実に生きた方が良いよ」


 彼女はそう言うと立ち上がり、救急箱の置かれている棚に向かってゆっくりと歩き出した。そして、血まみれの手で救急箱を開けた。それから、彼女は止血をするためにコートと服を脱ぎ、傷口が露わになった。その瞬間、僕は感情が抑えられなくなり、彼女の傷口を強く噛んだ。彼女は僕の行動に驚いたようだったが、すぐに満足げな笑みを浮かべてこう言った。


「どう? すっきりしたでしょ?」

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破滅願望   @hanashiro_himeka

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