第14話 モブが光り輝く時
大会が無事に開催されて各舞台で戦いは始まる。
このコロッセオでは複数のステージがあって、いくつかのグループで分けての予選が行われていく。
派手なMCが開会宣言をしたのは、決勝等の戦いが行われる中央舞台。
四方八方から観客に見られる、その場所が選手達の目指す所という訳だ。
「心配無いとは思うけど──見ておこうかな」
僕は予選が行われている舞台へと見に行ってみる。
中央舞台と比べれば、こじんまりとした会場。
それでも観客は多く彼らの前で多くの試合が繰り広げられていた。
ルシオやロイスの出番はまだか、それとも終わったのかな?
僕が2人を探している時──。
「おいおい、貧弱そうなガキじゃねぇの〜」
近くの舞台を見ると、そこにはガラの悪そうな剣士と対峙する、ルシオの姿を確認。
相手の剣士は……まぁ見るからに、やられ役のモブっぽい男だね。
「試合開始!」
「シャァァァ!!」
蛇のような雄叫びを上げながら、剣士の男はルシオに真っ向から斬りかかる。
相手の男の方が体格は良く、持っている剣も大剣で正面から押せると判断したみたい。
ヒュッ
「シャァ!?」
ルシオは斬りかかる相手の剣を素早く躱すと共に、自分の左足を相手に引っかけて転倒させる。
ドダァンッ
剣士はステージから転がり落ちて、そのまま起き上がる事は無かった。
「シャァァァ〜……」とか言ってた気はするけど。
「勝者70番!」
審判がルシオの勝利を知らせると、観客からは勇者への歓声が聞こえてくる。
やっぱり大柄な選手を小柄な選手が倒すっていうのは、世界共通で盛り上がるものかもね。
「ルシオ、やったねー!」
「相手が転んで場外に落ちてくれて、ラッキーだったよ」
僕が駆け寄り勝利を祝福すると、ルシオは微笑みながら謙遜していた。
実に彼らしいけど、あれは勇者の力だから。
圧倒的な力の差があったからこそ、剣を振るう事なく勝ってるんだ。
「ロイスは一緒じゃないの?」
「うん、彼女とは別会場になっちゃったから」
辺りを見回せばロイスらしき姿は見えない。
『ブレガース』の方でも会場は別々だったし、僕の居る今回も一緒という訳か。
けどまぁ大丈夫だよね。
此処でのクリアレベルを遥かに超える程強くなったし。
「どっちかっていうと、今日を迎えるまでの特訓が何より大変だったよ」
大変さを物語るようにルシオは溜息をついていた。
うん、それ僕のせいだから全部。
君に大将軍に勝ってもらおうとスパルタでやった事だ。
「本当に何かおかしいし、ギルドとも連絡を取って原因を究明してもらってるけど何が起こってるのか……」
「──多分、魔物達が活性化するような奴が出現したんだと思うよ。分かんないけど例えば大昔の魔王が目覚めたとか」
「……あるかもしれない。村にいる時から魔物の襲撃とかよく聞いてきたし」
僕はこの不可解な現象は魔王のせいだと彼に罪を着せておく。
その魔王はもうとっくに僕が魔王軍共々滅ぼして、ゴーレムが跡形もなく吹っ飛ばしたから、この世界にいないからね。
「となると、やはり魔物に関係した大きな力を持つ、魔王か何か……」
僕のせいだとは微塵も疑っていない様子。
というか僕のやってる事こそ勇者に討伐されるぐらい悪い。
今みたいに罪を着せてモンスター召喚でルシオ達を襲わせたし、それ以前で言えば決闘で僕は強化魔法で介入しちゃったり、メフィスト帝国では魔王に化けて城の兵士達に怪我を負わせて、皇帝達の心を破壊したから。
とりあえず黙っておこう。
「あ、呼ばれたから行くよ」
「うん、予選突破してねー」
ルシオに出番が再び来たみたいで僕は彼に手を振って見送る。
そしてステージの上に再び立ってから、僅か数秒ぐらいで相手の戦士を峰打ち。
相手は気絶して起き上がる気配が無い。
予選は絶対突破してくると、確信すれば僕はルシオへの声援を聞きながら予選会場を後にする。
「じゃ、僕の方はあっちに集中かな?」
思い浮かぶのはガレオと金牙団。
彼ら同士は表立って仲良くしていない。
そんな事になっていたら王国騎士団とかが見逃さないはずだ。
ゲームでも彼らの行いを王国側が気づく事なくルシオ達に牙を剥いたり、苦しめていたから。
とりあえず彼らに重い腰を上げてもらう必要がある。
「金牙団は確かコロッセオの裏手にある地下を根城にしてるっけ」
大胆にもコロッセオの裏で堂々と賭博をする辺り、灯台下暗しを見てる感じ。
場所を知る僕は場所に向かう。
「ようこそ、お楽しみください」
多くの人で賑わう表から裏へ回っていくと、人の数が一気に少なくなって裏手に向かうのは滅多にいない。
やがて裏手の出入り口に立つ、悪そうな黒服の男が客に挨拶しているのが見えた。
見張りが立っていて限られた客だけ入れるシステムみたいだ。
とりあえず行くにしても、僕みたいな子供みたいに小柄な姿じゃ駄目だから──。
「マジーア」
シュウゥゥゥッ
僕は自分に幻惑魔法をかけると、周囲からの見た目を変えていく。
今の僕は黒いシルクハット、黒い貴族服を着て、ステッキを持つ貴族紳士だ。
「──失礼、友人に紹介されて此処だと伺ったのだが」
僕は紳士になりきって見張りの男へ話しかける。
「……合言葉は?」
初めて見る男なせいか黒服の目つきは警戒心を強く表していた。
「ゴールドファング」
これが合言葉、金牙団の金牙をカタカナに並べて言う。
「失礼しました、ようこそ。お楽しみください」
合言葉を聞いて僕への警戒心が解けたらしく、黒服は横にずれた。
僕は遠慮なく彼を通り過ぎると、中の賭博場に足を踏み入れる。
「ウォォォ!! ブッ殺せノルドー!」
「ハーベ! てめぇには有り金全部突っ込んでんだ!死んでも勝てぇぇぇ!!」
地下への階段を下りていき、ドアを開けて中へ踏み込んだ瞬間、欲に走る人々の叫び声みたいなものが耳に響き渡った。
此処が金牙団の方で運営してる賭博場か……。
所々に水晶玉があって、あれが現実世界で言うモニター代わりなんだろうね。
水晶玉には、それぞれの予選の試合が流れている。
そこに賭けている人達が必死で応援、みたいな勝ちを願う声が嫌でも聞こえてきた。
自分の儲けや損が絡むと人間はこうなるんだって、そう思ってしまい重い気持ちにさせられる。
「とりあえず僕も何か賭けた方が良いか」
ただ賭博場でウロウロしていても、近くにいる金牙団の一味に怪しまれる可能性が高い。
なので、僕は賭けの受付をやっているカウンターに向かう。
主にそこで大金のやり取りがあったから、受付はそこのはずだ。
「ゴリーに金貨1枚で」
ルシオやロイスが勝つ事は分かってるけど、それを当てて勝って注目されるより、わざと負けてカモに成り下がる。
金貨1枚の損失は大きいけど、必要経費って事にしておこう。
──この組織を滅ぼす為のね。
「ゴリー何してくれてんだてめぇぇぇ!!」
「てめぇの筋肉は見せかけかこの野郎!!」
僕の賭けたゴリーは見事なKO負け。
彼は大きな斧をブンブン振り回すパワータイプだったけど、そのパワーが当たらないまま敗退していた。
とりあえず此処で、するべき事を済ませようか。
ガレオと金牙団が繋がってる証拠を掴むなら、写真を撮ったり録音するのが手っ取り早い。
ただ、こんな異世界にスマホとかパソコンは存在しないから、その2つは出来ないよね。
とりあえず裏コロッセオの光景を『記録』しておく必要がある。
「(サイムービー・ロック)」
パッ ウォォォンッ
僕は魔法を念じて唱えると、それが透明な水晶玉と化して、目の前の光景を記憶していく。
サイムービーは目の前に見える物を魔力で作られた水晶玉に記憶させる、いわゆる特殊魔法。
『ブレガース』の世界において城の宮廷魔術師クラスが、こういうのを覚えてると言われている。
僕はルクスリア師匠の所にあった本で見て覚えたけどね。
とりあえず、こういうのは覚えた方が良いという事で。
「とりあえず此処の証拠はこれで抑えたと……」
後は都合良くガレオと金牙団が仲良くやり取りしているシーンがあって、金の受け渡しとか撮れたら完璧なんだけどな。
僕がそう思っていた時だった。
「どうかな、彼らは?」
聞こえてきた声、振り向けばそこにはガレオの姿があって、高価そうな黒服を纏うチンピラの男と話している。
僕は密かに忍び寄って再びサイムービーの魔法を起動。
「上々ですぜ。あの初心者冒険者のガキ2人が参戦して、彼らが負けると思っていた連中が負けまくり。良い稼ぎになってくれてるんスよ」
「フフ、アルバート家の生意気な小娘のボディガードを負かせ、恥をかかせるつもりだったが思わぬ儲けを私にプレゼントしてくれたらしい」
「ただ、観客達もガキ共が実は強いとなって賭ける方があっちに寄れば、こっちに損失が起きますから心配──」
「無用だ、我がボディガードのボルツは腕利きの冒険者。同じ冒険者で経験の浅い彼らに負けるはずがない。上々の人気となった所で負かして我々の儲けとなるだろう」
「流石っスねガレオ様」
はい、録音完璧っと。
都合良くペラペラ喋ってくれて、ありがたいよ本当に。
そこは僕の幸運が異常に高いのと関係してるとか……まさかね?
とにかくこの場所でやる事はもう無いから、負けたおじさんとして肩をガックリ落としながら帰ろう。
後は伝える。
その相手は──僕のパパこと、ナナシ兵士だ。
☆
テレポートでエスポワ王国へ、あっという間に戻って来た僕は、その足で城の方へと直行する。
間近に行けば行く程、王国を象徴する立派な城がよく見えた。
メフィスト帝国の巨城と比べたら大きさは劣るけど、エスポワの城は美しく気品漂う城という感じ。
城の立派な門の前には2人の兵士が立っている。
「すみませーん」
「ん? どうかしたのかい?」
僕が兵士達に声を掛けると、2人の視線が僕に向く。
「あの、僕はレイセ・クローゼという者で父のナナシ・クローゼに会いたいのですけど……」
いきなりお偉いさんに会わせろと言っても、紹介状とか持たない僕を兵士達はまず会わせない。
なので、ぼくは自分の身内を頼る。
モブの兵士である自分の父親を──。
「ナナシ小隊長の息子さん? ああ、それなら呼んで来るから待っててくれ」
息子が相手だからというのもあってか、小隊長の兵士とあっさり会う事が出来た。
少し待つと、鎧兜を身に着ける仕事中の父さんが駆けつけてくる。
言ったら悪いけど、他の兵士達と変わらない格好で区別が付きづらい……そこはゲームと変わらないんだ。
「レイセ! 急に城まで来てどうしたんだ?」
僕の姿を見つければ驚いたような顔で、ナナシ父さんは用件を聞く。
「あの、実は……ある人から預かり物があって、それを国王ロードラーに見せろって言われて……これ」
僕自身が賭博場へ行って証拠を撮って来たとか言えば、それについて何かと言われそうだと思った。
なので僕は物語を作る事にする。
「水晶玉? 一体どんな人だったのか覚えてないのか?」
「ええと、フードを着てて顔とかよく見えなかったけど……男の人で年取ってるって感じだったかな? 背は低めで、ちょっと意地悪そうな感じの……」
僕が作った架空物語は僕がたまたまエスポワの町を散歩していた時、怪しげなフードの男が現れる。
彼は僕に「この水晶玉をエスポワ国王ロードラーに渡してほしい」と告げて、託すと瞬く間に姿を消す──。
「うむ……分かった、報告に向かうから一緒に来なさい。今の話が本当なら再び詳しく話してもらう必要があるからね」
ナナシ父さんは僕の話を信じてくれたのか、一緒に来るようにと僕を城の中へ連れてってくれる。
小隊長の父が居てくれて良かった、そうじゃなきゃ城に入るのは更に大変になる所だったかもね。
綺麗に掃除の行き届いた廊下を父と歩き、魔王城の時とは全然違うなと思い出す。
あっちは暗くて禍々しいし敵との戦いで荒れ放題だったから。
ゲームで馴染みあるエスポワ城内のリアルな映像を目で楽しむ間に、僕は父の案内で王の間へとやってきた。
「3番隊小隊長、ナナシ・クローゼ到着しました!」
父さんが大きな扉の向こう側に居るであろう、偉い人物達へ入る事を伝えると重厚感ある扉は、ゆっくりと開かれていく。
僕は父さんに待ってなさいと言われ、先に王の間へと入っていった。
「我が王へ不審な贈り物をしたと、報告を聞いたが本当か?」
扉越しで、話し声が聞こえてくる。
この声は大臣のフッツーだな。
何か悪巧みをしている訳でもなく特にRPGをやってて、よく見かけるタイプの頭が寂しい、おじさん大臣だ。
「はっ! 私の一人息子がこの町を散策していた時、その贈り物を持った怪しい男が息子に押し付けて、ロードラー国王に渡せという内容でした」
「ふむ……では、そなたの息子から直接聞いてみようか」
「ははっ! レイセ、国王様がお呼びだ! すぐ入って来なさい!」
ナナシ父さんから呼ばれて僕は大扉が開かれると、煌びやかな内装が目に飛び込みながらも父さんの隣で跪く。
「初めまして、レイセ・クローゼです」
僕は目の前に見える玉座へ腰掛ける男を一瞬見た。
黒髪の上に王冠を乗せ、黒髭を口元に蓄え、赤いマントに王族の服を纏う人物。
彼こそがこの国の王『ロードラー・エスポワ』だ。
「よくぞ来た、我が城を守る兵の息子よ」
ロードラーは僕の顔を見る。
威風堂々という雰囲気が似合い、かなりの目力を持つ。
「──して、レイセとやら。そなたは怪しげな男が持つと言われる水晶玉を持っているのか?」
「はい、此処に」
国王から言われると僕は水晶玉を取り出す。
これで全て整ったから後は『見せる』だけだ。
「(アクト──)」
僕は水晶玉の映像が開始される、その合図の魔法を念じた。
「こ、これは!?」
その時、王の間は騒然となる。
今スピリトの町で開催中の年に1回の大武闘大会で、悪徳貴族のガレオが金牙団と違法の賭博場をやっている。
僕がさっき撮影した所をエスポワ王国の国王へ、ノーカットでお届け。
「こいつ、ガレオじゃないか!? 伯爵の身分でなんたる事を!」
「一緒に居るのは裏であらゆる悪事を働くと言われる、極悪盗賊団と名高い金牙団か!」
「コロッセオを利用していたというのか、こいつら!」
その場にいる者達はガレオと金牙団のやった事に怒り心頭。
「王よ、これは……!」
「うむ──大至急、マージ家へ強制調査の命を下す!」
ロードラーとフッツーの目が合うと国王は兵士達に命令して、物々しい雰囲気へ一気に変わっていった。
これで彼らの崩壊が始まる。
持つべきは頼れる小隊長のパパってね。
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