第9話 勇者の仲間ではなくチンピラの仲間として手を貸す

 僕はランクル達が溜まり場にしている路地裏にやってきた。

 そこに予想通り彼らの姿はあって、まさに決闘に向けての準備をしようとしている所。


 正々堂々じゃなく卑怯をする為の準備だけど。


「この毒を剣に仕込めば僅かに掠っても効果を発揮してくれる。これでクソ生意気な新入りに思い知らせられるぜ!」


「流石兄貴! 闘いはもう既に始まってるって事っすね!」


「すげぇぜ兄貴ぃ!」


 ランクルは小瓶を掲げて勝利宣言、それに腰巾着の2人はかれを持ち上げるような言葉を並べていく。

 もう反則する気満々で、自ら破滅の道を歩く彼を止めるの者は存在しなかった。


 このルートを回避するには、僕が出るしかない。



「おい、ちょっと待てよランクルさんよぉ〜!」


「あん? 何だチビガキ。俺に何か用でもあんのか?」


 睨みを効かせて来るランクルに、僕は久しぶりとなる悪ガキモードへ戻る。

 元々レイセは悪ガキだったみたいだし、それになりきっての演技だ。

 彼等に対しては、こっちで行く方が接しやすいだろうし。


「いやね、あのなよっとした野郎をブチのめすショーが見れるってもんだから、あんたを応援しようと思って挨拶に来たんだよぉ」


「ほう──そいつは良い心掛けだ。応援は感謝しといてやるから、あっち行ってなチビ。邪魔だからよ」


 ランクルは応援してもらって、満更でもなさそう。

 けどこれから武器に毒を塗る作業があるから見られたくないのか、僕を追い払おうとしていた。



「勝つならそんな弱い毒より良い方法あるぜ旦那ぁ」


「はぁ?」


 その毒を使わせまいと僕はもっと良い方法がある事を告げる。

 僕の言葉を聞いたランクルは、こちらを訝しげに見てきた。

「こいつ何言ってんだ?」って言いたそう。


「俺があんたにこっそり強化魔法かけりゃ、そっちの方が毒よりバレやしないって」


「なんだと……? 強化魔法って、そんな事をお前出来んのかよ?」


「出来ない事を旦那に行ってもしょうがねぇだろ?」


 ランクルは信じられないみたいだけど、僕は本当にその魔法が使える。

 ルクスリア師匠の元で一通りの魔法は7年の修行で覚えたからね。


 僕が更に話そうとすると──。


「おいチビガキ! てめぇ適当な事言ってランクルの兄貴に取り入ろうってんじゃねぇだろうな!?」


「ふざけた事を言うと叩き出すぞクソガキが!」


 ランクル以上に僕の魔法を信用していない、腰巾着の2人が揃って厳つい顔で僕を睨んでくる。


 けど僕は慌てない、こいつら魔王軍と比べたら強さ子犬みたいな可愛いもんだし。

 強くなると気が大きくなったり、ゆとりが生まれてくるもんだなぁ。


「腰巾着には聞いてねぇんだよ。俺の魔法は毒なんかよりも確実だ。あのルシオってなよなよしてムカつく野郎を確実に叩き潰すなら毒を塗った事がバレて、ギルドマスターから厳しい処分のリスク背負うよりバレずに殺る方が良いだろ?」


 毒を塗ったら、そういった結末になるネタバレも多少話しつつ、僕は自分の魔法でやった方が良いとアピール。


「腰巾着だと!? 生意気なクソガキが!」


「この場できっついお仕置きをしてやろうかぁ!?」


 僕の言葉は腰巾着2人の怒りを買ったみたいで、今にも僕へ掴みかからんと近づく。


「待ちな」


 そこにランクルの声がすると、腰巾着2人の動きが止まって2人とも振り返る。


「ガキ、本当に強化魔法出来るんだろうな?」


 僕の話に興味が湧いてきたのか、良い食いつきだ。

 ランクルは腰巾着2人を押し退けて僕の前に立つ。


「俺は初心者のくせに女をはべらす野郎を一泡吹かせたいんだよ。ランクルの旦那も思い知らせてやりたいんだよな?」


 悪党に僕もなりきって小悪党が策を企むような悪い顔で、ランクルに協力しようとする。


「1回やってみろよ。てめぇの強化魔法がどんなもんか受けてやらぁ」


 一度試す気になったようで魔法をかけてみろと、僕に強化を使うよう見下ろしながら言う。


 それじゃあ受けてもらおうじゃん。


「じゃあ行くぞ旦那ー(パワープラス)」


 僕は念じながら杖の先端をランクルに向けると、彼は赤い光に包まれた。


 補助魔法『パワープラス』は対象者の物理攻撃を上げる効果を持つ。

 体の内側から闘争心を高め、一時的に筋力を高める──というのがゲームの魔法で説明文にあったもの。


「うおおお!?」


 パワープラスによって自分の力が漲っていくのを感じたか、ランクルは驚きの声を上げる。


「あ、兄貴!?」


 腰巾着2人がランクルの叫びを聞くと、心配になったみたいで声を掛けた。



「……漲る、力が! 俺の中で力が漲っていくぞぉぉ!」


 パワープラスによって飛躍的に増した自分の力。

 それを感じ取ったランクルは自分の力を見せつけるように、大型の剣が入った鞘を左手に持つと右手で抜き取る。


 ランクルは大剣を両手で持つ。


「オラァァァ────!!」


 バガァァァンッ


 力の限り叩き潰す感じで、剣を振り下ろすと地面を砕いてみせた。


「く……くく、凄ぇパワーじゃねぇか! こいつは良い! これであの野郎を潰せる!」


 お気に召したようで、ランクルは狂気を感じさせる笑みを浮かべる。

 対象者をバーサーカーにするとか、そんな効果は無いけど興奮状態にしちゃったかな?


「あいつこんなパワーあったのか!? とか疑り深いバカも出て来そうだけど、旦那が密かに特訓してたとか言い張っときゃバレやしねぇから」


「ははは! そんな事も考えてるとは気が利くじゃねぇかチビガキ! 終わったら俺の子分にしてやっても良いぞ!」


 すっかり気に入ったみたいだ。

 とりあえず思い通りに踊ってくれれば、それで良い。


「ただ、時間は限られてるからよ旦那。俺は観客の中に紛れて、そっから強化魔法を改めて仕掛ける」


「ああ? このまま行けねぇのかよ!」


 気が昂っているのか、ランクルはすぐにでも決闘に向かい、そのままの勢いでルシオを叩き込めしたがってる。


「多分決闘が始まる頃には切れちまう。まぁでも……強化魔法なくても旦那ならあんな奴倒せるよな? 体格差違い過ぎるし」


「フン、違いねぇが念には念をって奴だ。万に一つもあの小僧を勝たせやしねぇよ!」


 だから毒を塗ったり裏で姑息に走っていたのか。

 こればっかりは生の声じゃないと知り得ない事で、慎重というか初心者の冒険者対策に手間をかけるんだなと、逆に感心してしまう。


 仕込む毒もタダじゃなさそうなのに。


「おおし、じゃあ作戦通り働けよチビガキ!」


「裏切ったら潰してやるから覚悟しやがれ!」


「てめぇの面覚えたからな!?」


 時間が来たみたいでランクルは中央広場の方へ急ぎ、腰巾着達も一緒に走る。

 心配しなくても、ちゃんと働くって。


 僕もランクルに続いて中央広場へ余裕を持って向かう。



「やっちまえランクルー!」


「ルシオー! ヤツの鼻っ柱をへし折ってやれー!」


 エスポワ王国の中心、中央広場は巨大な騎士の銅像があって、この王国のシンボルとなっている。

 そこに多くの人々が集い、声援を送る光景は決闘の注目度を表す。


「これより、ルシオとランクルの1対1の決闘を行う! 勝った者がジュディス・アルバート様の依頼を受ける事が許される!」


「「ウォォォ────!!」


 今回の決闘を取り仕切るガメス。

 何度かやった事があるのか堂々としたMCっぷりを見せる。


「それでは本日の主役となる勇敢な戦士達よ、前へ!」


 ガメスに促されると決闘を戦う2人が前進み出て、姿を現す。

 改めて見れば大人と子供、そう思わせるぐらいの体格差だ。


「潰される覚悟は出来たか小僧?」


 体格も実力も自分より下と思っているランクルは、ルシオを見下ろしながらニヤニヤと笑う。

 そのルシオは何も言わず、キッと目の前に立つ自分より大きな相手を見上げるのみ。


 原作だとランクルは毒を大剣に仕込んで、開始と同時にルシオが毒の剣を掠めたから、イベント戦は痺れ毒の影響を受けての戦い。

 おかげで移動スピードが下がって、大振りなランクルの剣を避けるのが大変だったんだよね。


「けど今回はそれがない、まぁ途中で力を貸す事にはなるけど」


 毒の代わりに僕の強化魔法でルシオをピンチに追い込む。

 彼自身の為にもね。



「両者準備は良いか?」


「はい」


「早く始めろ!」


 ガメスの問いにルシオ、ランクルがそれぞれ返事をする。


「では──始めぇ!!」


「うぉぉぉ!!」


 開始の声と同時にランクルがルシオに突進。そのまま力任せに上から押し潰さんと、両手で持った大剣を振り下ろす。


「っ!」


 ルシオはバックステップで後ろへ回避。

 それを追いかけてランクルは更に剣を振るう。


 原作通りの大振りな攻撃、彼の攻撃力はルシオを超えるけど、それも当たらないと意味が無い。


「っせい!」


「うぉっ!?」


 ルシオはランクルの斬撃を避けた後、彼の懐に飛び込んで素早い突きを繰り出す。

 ランクルは伸びてくる切っ先を咄嗟に大剣でガードして、攻撃を弾き返すも想定外の攻撃に驚かされる。


「んのやろっ!!」


 ブォンッ


 大剣で横へ一閃するランクルだけど、ルシオはその前に後方へ飛び退いて離脱。

 毒の痺れが無いから素早さは落ちていない。

 ルシオは自分よりパワーが上の相手に、機敏な動きで攻撃を避けていく。


「このクソガキ! ちょこまか動き回りやがってぇ!!」


 思い通りに攻撃が出来なくてイライラしてきたのか、ランクルは無茶苦茶に大剣を振り回す。

 この時、ルシオは無理に近づかずランクルの振り疲れを待つ。


 ゲームでやりたい理想的なヒット&アウェイ戦法だ。


 その時、ランクルが僕の方を一瞬見て、「早くやれこの野郎!」と言わんばかりの睨み。

 もうちょっと見たかった所だけど仕方ないか。


「(パワープラス)」


 目の前の決闘で盛り上がる人混みの中、密かに僕は杖をランクルに向けながら魔法を唱える。


「ウォォォ!!」


「!?」


 急にランクルの纏う雰囲気が変わり、ルシオは何事かと驚いているみたいだ。


「ブッ潰してやる小僧!!」


 パワープラスによって自慢の力が一段と増すと、凄みまで増したランクルは大剣で思いっきり剣をルシオへ振り下ろす。


 ドガァァァンッ


「わっ!?」


 大剣が地面を叩きつけると、その部分が壊されて間一髪で右へ跳び、攻撃を避けたルシオを大いに驚かせる。

 これには見ているギャラリーまで驚愕。


「オラァァァ!!」


 ドゴォォンッ


 ルシオが避けた先の壁を破壊したり、今のランクルの一撃の破壊力。

 破壊された数々の残骸が、その凄まじさを物語るには充分だ。


「ルシオ逃げて! あんなの食らったら本当に死んじゃう!!」


 見守っていたロイスがルシオの身を心配して、逃げろと叫ぶ。


「ウルァァァ────!!」


 そこへランクルが奇声を上げながらルシオに突っ込む。

 ルシオは左へ跳んで躱そうとすると、今度はそれを読まれてしまう。


 バギィッ


「がっ!?」


 回り込んでいたランクルが右足を振り上げて、ルシオの脇腹付近に当たり、彼の体が宙を浮く。


「ガハッ! ゲホッ! ゲホッ!」


 倒れた後にゴロゴロと地面を転がり、ルシオは巨大な騎士の銅像前で苦しそうにお腹を押さえて咳き込む。

 パワープラスだから単純にランクルの力が増してるせいで、あんな破壊的なミドルキックが可能とさせるんだ。


「ハハハ! 所詮は初心者のガキだ! 俺こそがクエストを受けるに相応しい!」


 優越感に浸りながらもランクルはトドメを刺す気なのか、ルシオにゆっくり歩み寄っていく。


「ねぇ! もう良いから決闘止めてよ! あたし達辞退するから!」


「む……!」


 ロイスがルシオの身を気遣ってか、必死にガメスへ決闘を止めるようにと詰め寄る。

 その判断にガメスが迷ってる間。


「はぁっ……はぁっ……はぁっ……!」


 お腹を押さえながらもフラフラとルシオは立ち上がった。

 辛そうな顔をしてるけど戦う意思があるのか、ランクルを真っ直ぐ見据えていた。


「何だその目は!? 気に入らねぇ──くたばれ小僧がぁぁ!!」


 ルシオの目を見たランクルが優越感の笑みから一変、怒りの顔に変わる。

 パワープラスの効果はまだ残ってて、次に一発を受ければルシオのHPが空で倒れる可能性は高い。


 ランクルが大剣を高々と振り上げ、ルシオを本気で壊そうとする。


 その時だ。



 キィィィンッ


「!?」


 突然ルシオの周囲に青白い光が発生。


 人々は何が起きたか分からないけど僕は分かる。

 あれこそがルシオの持つ特殊スキル、『勇者の力』だ。


「ウオオオ!?」


 ガギィィィンッ


 ルシオの剣とランクルの大剣、金属同士の凄まじい激突を物語る音と共に、大剣の方が宙を舞って回転する。


「んのやろぉぉぉ!!」


 丸腰になっても戦う事を止めず、パワープラスの残る拳でルシオに殴りかかった。


 ズガッ


「かはっ……!?」


 ランクルの右ストレートが伸び切る前に、ルシオが懐に入り込み、剣の柄でランクルのお腹に一撃を叩き込む。

 柄が食い込み、巨体はグラッと揺れて仰向けに倒れていった。


 あまりの事に見ていた皆が呆然。

 まさかルシオが、あそこから逆転勝ちをするとは誰も思っていなかったっぽい。


 勇者の力はルシオが追い詰められた時、彼の力を飛躍的に高めるスキル。

 ゲームでもこの決闘が切っ掛けとなって、スキルに目覚めていたんだ。


 なので今回は毒とは別で勇者を追い詰める。

 どっちにしても、やってる事が狡いのは置いとくとして。


「パワープラスを凌駕する程は凄いけどね」


 正直、予想以上のスキルの力に僕も驚く。

 ゲームじゃなくて生で見たせいかな?


 とりあえず第一段階、『勇者の力覚醒』は終わった。

 さぁ、悪役の追放ざまぁを阻止して仲間に引き込もうか!

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