第7話 勇者へのスパルタな試練

「ただいま〜」


「──おお、レイセ。帰って来たか」


 エスポワ王国の新たな家へ帰宅した僕を待っていたのは、レイカママの声ではなく男の声だった。

 城の時と違って鎧を脱ぎ、家着の白い布の服を着てる短髪黒髪の男性。

 170cmぐらいで自分の父親ながら、目立った特徴が特に無い。


 彼がこの世界で僕の父親にあたる、ナナシ・クローゼだ。


「レイセちゃんが帰る少し前から帰って来たのよ〜」


 奥からエプロンを着けるレイカママが登場。

 これから夕飯なので料理中らしい。


「2人ともよく来てくれた、これから家族3人この家で暮らせる事を嬉しく思うよ」


 ナナシ父さんは僕とレイカママを見て嬉しそうに笑っていた。

 考えてみればコダイダ村が滅ぼされて、彼の心からの明るい台詞というのを聞いていなかったね。


 滅びのルートを回避した事で一番救われたのは、妻や息子と無事に暮らせるようになった彼なのかも。


「今日は引っ越し祝いで、ビーフシチュー作ったから沢山食べてね〜♪」


 レイカママが運んで来たビーフシチューの皿。

 そこから食欲を唆る匂いが鼻に伝わり、僕のお腹は「ぐ〜」っと音が大きく鳴れば食事を欲しがってしまう。


「レイカのビーフシチューは久しぶりだなぁ、じゃあ食べようか」


「うん、いただきまーす」


 エスポワ王国に来てから初めてとなる一家団欒の食事は暖かく、シチューや付け合わせのパンがとても美味しい。

 ビーフシチューの鍋が空っぽになる頃には、僕のお腹は完全に満腹状態を迎えていた。



「あ〜、お腹いっぱい〜」


 2階にある自分の部屋のベッドに、僕はボスッとダイブして埋もれる。

 レイカママのビーフシチュー美味し過ぎ〜。


 って、何時までも浸ってる場合じゃない。

 僕には『悪党ランクル仲間化計画』という、壮大な計画を実行しなきゃいけないんだ。


「それにはまず、ルシオをやっぱり早い段階で強くしないとなぁ……」


 僕は仰向けになって勇者について考える。

 ストーリー通りなら彼は今日、冒険者ライセンスを取得して明日の初めてのクエストに備え、休んでる所だろうね。


 彼はいずれランクルとタイマン勝負を行う。

 けど現時点じゃ、どんなに頑張っても勝てるわけがない。

 レベルが違えばパワー、体格も全然違うから駄目だ。


「これがプレーヤーだったら近くでレベルを上げまくるけど、あのルシオは自分の意志を持ってるし努力はしても、そこに残って戦い続けるのかどうか……」


 原作知識を知る僕なら──そのイベントまでにレベルを上げまくって勝てるようにする。

 やっぱりこういうゲームにおいて欠かせない、レベル上げは強くなる為の一番の近道。

 ルクスリア師匠のスパルタ特訓で僕も78まで上がったし。


 ただでさえ『厄介な』タイマンイベントなので、ルシオが負けたら超グッドエンドが遠のくかもしれない。


「とりあえず初心者クラスを軽く、卒業出来るぐらいには強くなってもらわないとなぁ」


 明日のやるべき事は決まった。

 それに備えると共に、僕はふかふかのベッドでゆっくり休み、心地良い夢の世界へ旅立つ──。


 ☆


 健康的な朝を迎え、レイカママと朝のパンを食べた後に僕は家を出て、早速行動に移す。


「──いた」


 エスポワ王国の宿屋からルシオが出て来て、ロイスも一緒だ。

 このルートのルシオは王道通り、ロイスとくっつくのか……いや、まだ序盤が始まったばかりで決めつけるのは早い。


 ルシオが最終的に誰と仲良くなってエンディングを迎えるか、それも『ブレガース』ファンとしては気になるなぁ。


「じゃあルシオ、ガメスさんが言った通りジマールの森へ行きましょ!」


「あ、待って! そんな急がなくてもー!」


 っと、ロイスが駆け出したからルシオと同じく僕も追いかけないと。

 気が弱めなルシオと気の強いロイスだと、そりゃ彼女がグイグイ引っ張る感じになるよね。

 ゲームでも見てたし。


 今日の僕は陰ながら、彼らを鍛えるコーチって事で見守ることにしよう。

 立ち位置としては謎の少年魔法使いって感じか。



「懐かしいなぁ、この場所で結構レベル上げしたっけか」


 エスポワ王国から歩いて、すぐぐらいの距離。

 緑豊かな森で空気が美味しい、『ジマールの森』も僕にとって懐かしい。

 この場所はスライムにゴブリンと、弱めのモンスターが多く正則している。

 初心者の冒険者にとっては丁度良い腕試しの場所だ。


 此処で粘って10ぐらい上げたのは良い思い出、たまにグッドスライムって赤色のスライムが強めで、経験値多かったっけなぁ。


「ルシオ、モンスター!」


「下がっててロイス、僕がやるから!」


「何言ってんのよ!? あたしだって冒険者なんだから戦うに決まってるじゃない!」


 きたきた、ルシオの初めての実戦でロイスと一緒に戦うシーンか!

 台詞にゴブリン2体と『ブレガース』のゲーム通りだ。


 彼らの初めてのクエストは、その『グッドスライム討伐』。

 これを倒せばミッションクリア、という内容でゴブリンはその前座になる。


「カァァ!」


 ヒュンッ ヒュンッ


 1体のゴブリンがブンブンと剣を振って来ると、ロイスはそれを右へ軽やかに躱す。


「炎! 斬!」


 ゴォォォッ ズシャァッ


「ゲァァ〜〜!」


 ロイスが片手剣を炎魔法で燃え上がらせ、その剣でゴブリンに袈裟斬りをお見舞い。

 炎の剣で斬られたモンスターは悲鳴と共に力尽きて倒れる。


 初手で得意の『魔法剣』を出すって、すぐガス欠なるけど大丈夫かな?

 グッドスライム戦で魔力尽きて使えない、とならないでほしい事を願う。


「たぁぁっ!」


 高めの声で叫びながら、ルシオが自警団のおじいさん仕込みの剣でゴブリンの剣を掻い潜って、横へ一閃。


 ズバッ


「カハァッ!」


 僕が初めて倒した時より安定した立ち回りで、ルシオは自らの剣でゴブリンを倒す事に成功する。

 思ったより効率良く動いてたなぁ、計算なのか無意識なのかは分からないけど。


「よし、良い感じ! この調子で行きましょ!」


「──あ、待って!」


 ゴブリンを一撃で倒して調子に乗ったか、ロイスは先へ進んでルシオも慌てて追いかけた。

 とりあえず初めてのゴブリン戦はノーダメージで乗り越えたみたいで、上々って所か。


 おっと、僕も見失ったら不味いから追いかけないと……別にストーカーとかじゃないから!



「たっ! てやっ!」


「せいっ! やっ!」


 キャラが戦う姿を見るだけでなく、戦闘ボイスを生で見ながら聞けるのは凄い贅沢、と思ってる場合じゃない。

 普通に見入ってたよ今……!


 ルシオとロイスの2人は、多くのスライムを相手に無双する。

 まぁ最弱モンスターだから初期の2人でも充分行けるし、なんだったらこの間に1レベル上がって、強くなってるはずだからね。


「よしよし、攻撃も上手く躱してる──そこ危ないって……!」


 まだ見ていて、じれったい所はあるけど順調に行ってるかな。

 後はグッドスライムが何時出るのか──。


「あっ! 赤いスライム!」


 っと、噂をすれば来たか!

 スライムよりも大きく赤い個体。


 確実にあれはグッドスライム、思ったより早く出たんだ今回は。


 ビシュッ


 赤いスライムは出会い頭に、自分の体の一部であるグミを飛ばして攻撃する。


「わっ!?」


 これがルシオの方に飛ぶと彼は咄嗟に反応して左へ避けた。

 初見だと大体のプレーヤーが当たっちゃうのに、よく避けられたなぁ。

 他の人がルシオ操作してるとしたら相当上手いよ。


「素早く近づいて攻撃よ! 炎! 斬!」


 ゴォォォッ ザンッ


 さっきと同じように炎を灯すと、ロイスはグッドスライムに炎の剣を思いっきり振り下ろし、斬りつける。


「っ……!?」


 ロイスの中で手応えが今一つだったのか、戸惑ったような顔を見せた。

 その証拠に斬りつけられたはずのグッドスライムは、倒れずロイスへ向いて突進していく。


「せぇいやぁぁ!」


 ズシャァァァッ


 彼女へ攻撃が及ぶ寸前、ルシオがグッドスライムへ向かって跳躍すると──気合いの掛け声と共に剣を煌めいたように見える。

 彼の渾身の一振りは、グッドスライムの体を消滅させていく。


「やった……勝った……!」


「ルシオ、やったね! ありがとう!」


 グッドスライムの討伐に成功したルシオが、小さく左腕で拳を握り締める。

 そこにロイスが駆け寄って助けてくれたお礼を伝えていた。


 さっきのルシオ、あれは『クリティカル』が発動したみたいだ。

 発動するのは幸運が関係してると言われ、それが運良く出たみたい。

 まさか此処でクリティカルボイスを聞けるなんて、良い場面に遭遇させてもらったね。


 レベルはどれくらいかな?


 ピッ



 ルシオ・アルザス 剣士


 レベル:4 HP42/28 MP10/5 +14 +5


 攻撃力:25(20) +6


 防御力:22 (18) +6


 魔力:5 +3


 魔法攻撃力:5 +3


 魔法防御力:14 +4


 素早さ:20 +6


 器用さ:16 +5


 幸運:11 +5


 スキル 無し


 装備 ブロードソード

   ホワイトメイル



 ロイス・ケイト 魔法剣士


 レベル:4 HP35/25 MP18/4 +10 +8


 攻撃力:22(17) +6


 防御力:19(15) +5


 魔力:11 +5


 魔法攻撃力:11 +5


 魔法防御力:18 +6


 素早さ:23  +6


 器用さ:21 +7


 幸運:16 +6


 スキル 魔法剣


 装備 ショートソード

   レディアーマー



 まぁ、ゴブリン倒して多くのスライム達を倒したり、それでグッドスライムも倒したんだから、これくらいか。


「赤いスライム倒したし、クエストこれでクリアよね? じゃあ帰りましょうー♪」


「そうだね、クエストクリアしたから」


 ちょ、早い早い!

 まだレベル上げの余地が全然あるから、もう少し上げとかないと。

 そんな程度じゃランクルにフルボッコ食らうし!


 仕方ない、此処は少し強引に行くか。


「現われよ、我が声に応えし者達」


 ブゥゥンッ


 僕は彼らのレベルに合わせた、モンスター達を多く召喚して向かわせる。


「ええ!? 何これ、スライムがさっき以上にいる〜!?」


「さっきまでこんな沢山いなかったのに!?」


 2人揃って急に大量発生したスライム達に驚きを隠せない。

 僕の手で10体以上出現してるから、そりゃ驚くか。


 僕もルクスリア師匠にそれはもう、これぐらいの数を出された上、戦うのが僕だけだったから余計きつかった。

 ルシオならロイスとだし行けるよね?



「もう〜! 何体出るのよ〜!?」


 グッドスライムの早さには及ばないけど──スライムのグミ飛ばし遠距離攻撃をなんとか凌ぎ、ロイスは文句を言いながらも片っ端から剣を振るって斬る。


「わ、分かんない……! とりあえず数は減ってると思いたいけど……!」


 ルシオもグッドスライムと同じ攻撃を仕掛ける、スライムの攻撃を躱しながら倒す。ちゃんとレベルアップしてるせいか、本人も気づかない内にスムーズに倒せていた。


 いいね、それじゃあゴブリンも追加しとこうか。

 とりあえず7体、ラッキーセブンで!


「何でー!? ゴブリンまでいっぱい出て来たんだけどー!」


「どうなってるのこれー!?」


 更に追加でゴブリン達を僕が召喚すると、ルシオとロイスの驚きの悲鳴が木霊してくる。

 大丈夫、絶対死なないようにするから。


 疲れはすると思うけどね?



「はぁ……はぁ……はぁ……」


「つ、疲れたぁ……もういないよね……!?」


 戦い続けた2人は疲れて地面に座り込んでいた。

 僕の召喚したスライムとゴブリンをあれからずっと倒し続けて、空は夕焼けを迎えようとしている。


 ステータスはどうなったかな?


 ピッ



 ルシオ・アルザス 剣士


 レベル:10 HP72/10 MP20/5 +30 +10


 攻撃力:40(35) +15


 防御力:37(33) +15


 魔力:12 +7


 魔法攻撃力:12 +7


 魔法防御力:25 +11


 素早さ:32 +12


 器用さ:28 +12


 幸運:20 +9


 スキル 無し


 装備 ブロードソード

   ホワイトメイル



 ロイス・ケイト 魔法剣士


 レベル:10 HP60/12 MP33/1 +25 +15


 攻撃力:34(29) +12


 防御力:31(27) +12


 魔力:22 +11


 魔法攻撃力:22 +11


 魔法防御力:33 +15


 素早さ:40 +17


 器用さ:36 +15


 幸運:26 +10


 スキル 魔法剣


 装備 ショートソード

   レディアーマー



 エンドレスな特訓で体力結構削られてるけど、ランクルと同レベルまでは来れた。

 とりあえず目標の達成完了だね。


 後は無事に宿屋まで辿り着けるか、僕は陰ながらボディガードをする。



「報告は、明日でいっか……疲れたし」


「うん……すっごい戦い込んでたよね」


 ルシオとロイスは話しながらエスポワの宿屋まで辿り着いて、中へ入っていく。

 彼らが無事に帰ったから、とりあえず僕もお腹が空いたし、レイカママの美味しいご飯を食べに帰ろう。


 勇者のレベル上げをしたし、後はランクルが動いて来るのを待つだけ。

 果報は寝て待て……とは違うか。


 そして翌日、イベントの時は来た──。

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