第10話

シーン1:神々の選択

【時間】 現代、深夜

【場所】 冥府、閻魔庁の玉座の間


SE: 厳かなBGM、玉座の間が静寂に包まれている


閻魔大王は、浄玻璃の鏡に映る地上の様子を見つめている。鏡には、カイ、ソラ、ひかり、そして献太が、それぞれに神隠し事件の捜査をしている姿が映し出されていた。その時、玉座の間に、一つの影が現れる。それは、黒い豆柴の姿をしたクロ、すなわちシジマだった。


閻魔大王: (驚きと、どこか安堵の表情で) 「…シジマ。なぜ、お前がここに…?」


シジマ: (心の中で) 「大王様…。お願いです。あの子たちを、助けてください…。」


閻魔大王: (苦悩の表情で) 「…俺には、もう何もできん。スサノオの力は、俺の想像を遥かに超えている。俺が、あの者たちを助けようとすれば、冥府全体の秩序が崩壊しかねん。」


シジマ: (心の中で) 「…それでも、あの子たちは、あなたがお守りになろうとした、希望の光ではないのですか?」


閻魔大王: (苦い顔で) 「…シジマ。お前は、この千年間、俺の側を離れず、俺の孤独を、ただ見つめてきた。だが、俺は、お前を…そして、ソトを、苦しみから解放してやることができなかった。それが、俺の…唯一の…悔いだ。」


閻魔大王の瞳に、深い悲しみが宿る。その時、シジマは、閻魔大王の足元に、そっと懐中時計を置いた。それは、冥府の遺失物倉庫に眠っていた、持ち主の記憶が残る、古い懐中時計だった。


シジマ: (心の中で) 「大王様。あの子たちの魂は、この時計が持つ、温かい記憶と同じです。…あなたが、この時計を、大切に保管していたように、あの子たちの魂も…この世界に、必要とされているのです。」


閻魔大王は、懐中時計を手に取る。そして、懐中時計に込められた、温かい記憶…愛する人を想う心、夢への憧れ、子供の成長を願う祈り…それらの記憶が、閻魔大王の心に、静かに、しかし、温かく流れ込んでくる。


閻魔大王: (心の中で) 「…そうか。…そうだな。」


閻魔大王は、静かに、そして力強く、一つの決断を下す。


シーン2:黒き学び舎の掟

【時間】 現代、深夜

【場所】 冥府、死神たちの会議室


SE: 邪悪な笑い声、囁くような声


クロガネとヤミは、鏡に映る地上の光景を見て、嘲笑っている。鏡には、カイ、ソラ、ひかり、そして献太が、それぞれに神隠し事件の捜査をしている姿が映し出されている。


クロガネ: (冷静に) 「ヤミ。奴らは、我々を倒すことなどできん。なぜなら、奴らの力は、まだ不完全だからだ。…我らの真の狙いは、奴らが互いの『絆』を深め、その力を完全に覚醒させることだ。」


ヤミ: (不気味に) 「…どういうことですか?」


クロガネ: 「絆が深ければ深いほど…それが引き裂かれた時の絶望は、より大きく、甘美なものとなる。我らは、奴らの『日常』を、徹底的に破壊する。そして…その絶望のエネルギーを、スサノオ様へと捧げるのだ。」


SE: 邪悪な笑い声がこだまする


シーン3:神々の再会

【時間】 現代、深夜

【場所】 冥府、閻魔庁の玉座の間


SE: 厳かなBGM、玉座の間が静寂に包まれている


閻魔大王が一人、玉座に座り、大きな水晶に映る地上の様子を見つめている。鏡には、カイたち4人の姿が映し出されている。


閻魔大王: (苦悩の表情で) 「…もはや、俺の手には負えん。このままでは、あの者たちの魂が、スサノオに弄ばれてしまう。」


その時、玉座の間に、光が差し込む。それは、天照皇大神だった。


天照: 「閻魔大王。あなたの苦悩は、私も感じています。あの者たちの魂は、我々、神々の理を超越した、新たなる『希望』の光。」


閻魔大王: (驚いて) 「天照…あなたは、なぜここに…?」


天照: 「彼らの戦いは、もはや冥府だけの問題ではありません。スサノオの野望は、天界をも巻き込み、宇宙全体の秩序を破壊しようとしています。」


天照: 「私は、あの者たちを、信じています。彼らは、人の身でありながら、神の理を超越した奇跡を起こす。…彼らが、スサノオの野望を打ち砕き、この宇宙に、新たなる『調和』をもたらすことを。」


閻魔大王: (驚いて) 「…しかし、それは…」


天照: 「ええ。禁断の賭けです。…ですが、私には、それしか、彼らを救う道が見つからない。そして、あなたも…そうでしょう?」


閻魔大王: (力なく頷く) 「…ああ。そうだ。」


シーン4:犬の忠誠

【時間】 現代、深夜

【場所】 カイとソラの自宅、庭


SE: 嵐が収まり、静かな夜の虫の音


カイとソラは、庭で、クロと一緒に座っている。


ソラ: (クロの頭を撫でて) 「ねぇ、クロ。もし、また神隠しが起きたら…どうする?」


クロ: (小さく) 「クゥン…」


クロは、カイの足元に体をすり寄せる。


カイ: (クロを抱きしめて) 「ありがとう、クロ。君がいてくれて、本当によかった。」


シジマ: (心の中で) 「…俺は、もう冥府には戻らない。俺は、落ちこぼれのシジマではない。俺は…クロだ。」


シジマの魂は、カイとソラ、そしてひかり、献太…彼らとの絆によって、かつてないほどの温かさで満たされていた。


シーン5:新たな脅威

【時間】 現代、深夜

【場所】 街中


SE: 不気味な風の音


ヤミとクロガネは、街の路地裏に立っている。


クロガネ: 「ヤミ。次の『神隠し』のターゲットは、あの男だ。」


クロガネが指差す先には、一人の青年が立っていた。彼は、カイの幼なじみ、相沢ひかりの弟だった。


ヤミ: (不気味な笑みを浮かべて) 「…お安い御用です。クロガネ様。」


ナレーション(閻魔の声): 冥府の王と天界の神は、静かに、しかし決然と、一つの決断を下した。それは、彼らの戦いを、宇宙全体の命運を賭けた、新たなるステージへと引き上げるものだった。そして、彼らが知らないところで、スサノオは、彼らの最も大切なものを奪おうと、静かに、しかし確実に、牙を剥き始めていた。


【第10話 完】

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