第4話

シーン1:廃工場の再会

【時間】 現代、深夜

【場所】 町外れの廃工場、入り口


SE: 嵐の音、雷鳴、雨が地面を叩く音


カイは、鉄の扉に必死に耳を押し付けるひかりの肩に、そっと手を置く。


カイ: 「ソラ…!」


ひかり: (涙声で) 「カイくん…!ソラちゃんの声がするの!でも、扉が開かない…」


カイは、その扉に手を触れる。彼には、ひかりには聞こえない、鉄の扉にまとわりつく、不気味な霊的エネルギーを感じていた。


カイ: 「これは…ただの鍵じゃない。念を込めて、鎖を固く結んでいる。」


SE: 遠くから聞こえる、犬の鳴き声


その時、雨に濡れたクロが、二人の足元に駆け寄ってくる。クロは、小さく「クゥン」と鳴き、カイを見上げる。


カイ: (クロの頭を撫でて) 「…ありがとう、クロ。大丈夫だ。僕が、なんとかする。」


カイは、扉に向かって両手をかざす。彼の瞳が、かすかに光を放ち始める。


カイ: (低い声で) 「…開け。」


その言葉は、まるで呪文のように、扉の霊的な結界を震わせる。鉄の扉が、ミシミシと音を立てる。


ひかり: 「すごい…!」


SE: 重い鉄の扉が軋み、ゆっくりと開く音


扉が開くと、中からカビと埃の匂いが立ち込める。ひかりが懐中電灯をかざすと、工場の内部には、無数の機械や瓦礫が散乱していた。


シーン2:神隠しの正体

【時間】 現代、同時刻

【場所】 廃工場、内部


SE: 不気味な静寂、雨が屋根を叩く音


カイとひかり、そしてクロは、懐中電灯の光を頼りに、工場内を進んでいく。ひかりの顔は、恐怖で引きつっていたが、カイの手を強く握りしめ、必死に耐えている。


ひかり: 「カイくん…やっぱり、ここ、変だよ…」


カイ: 「ああ。この空気…間違いなく、死神だ。」


その時、二人の目の前に、一人の少年が横たわっているのが見えた。懐中電灯の光がその顔を照らし出すと、それは、神隠しにあったクラスメイト、高山献太だった。献太は、まるで眠っているかのように、穏やかな表情で横たわっている。


ひかり: 「献太くん!…でも、どうして…」


ひかりが献太に駆け寄ろうとした、その瞬間、二人の背後から、不気味な声が響く。


声: 「よく来たな、小僧ども。」


振り返ると、そこには、漆黒の衣をまとった死神が、嘲るような笑みを浮かべて立っていた。


死神: 「お前たちは、我らが放った『神隠し』の幻覚に惑わされず、ここまでたどり着いた。さすがは、冥府の『異物』…だが、遊びはここまでだ。お前たちの魂、ここで狩らせてもらう!」


SE: 鋭い金属音、鎌を振るう音


死神は巨大な鎌を構える。その殺気に、ひかりは悲鳴を上げ、腰を抜かす。カイは、ひかりを庇うように、前に立つ。


シーン3:犬の奇策

【時間】 現代、同時刻

【場所】 廃工場、内部


SE: 激しい戦闘音、犬の唸り声


死神が鎌を振り下ろす。その瞬間、カイとひかりの前に、黒い影が躍り出た。クロだった。


SE: 獣の咆哮


クロの体が、淡い光に包まれる。カイとひかりが息を飲む前で、豆柴の小さな体は、見る見るうちに引き伸ばされ、変形していく。光が収まった時、そこにいたのは、翼を広げれば二メートルはあろうかという、一羽の巨大な黒鷲だった。


ひかり: (驚きと恐怖で震えながら) 「クロが…!?」


黒鷲(クロ)は、鋭い爪で死神の鎌を受け止め、弾き返す。死神の攻撃をかわしながら、黒鷲は二人に何かを伝えるように、鋭く鳴いた。


カイ: (心の中で) 「『…時間を稼ぐ。お前たちは、献太を助けるんだ!』…そう言ってるのか?」


ひかり: (我に返って) 「カイくん!献太くんを早く!」


カイは、献太の体を抱きかかえる。その時、献太の体から、微かに光が漏れていることに気づく。それは、死神が魂を一時的に亜空間に隔離するために使った、霊的な光だった。


カイ: (心の中で) 「…この光を消せば…!」


カイ: (光に手をかざし、静かに) 「…消えろ。」


SE: 光が弾けるような音


カイの言葉が、献太の魂にかけられた術を、無力化する。献太の体が、光を失い、深い眠りにつく。


死神: (苛立ちながら) 「小賢しい真似を…!」


死神は、再び鎌を振り上げる。その鎌は、黒鷲に直撃し、黒鷲の体は、傷を負いながら、再び豆柴の姿に戻る。


ひかり: 「クロ!」


カイ: (クロを抱きかかえ、決意の表情で) 「…もう、逃げない。」


シーン4:虚無の覚醒

【時間】 現代、同時刻

【場所】 廃工場、内部


SE: BGMが不穏で壮大な曲調に変わる


カイは、倒れたひかりとクロを庇い、死神と対峙する。


死神: 「諦めろ。お前は、この世界では無力な、ただの人間だ。」


カイ: (静かに) 「…違う。僕は、人間だ。だからこそ…守りたいものがある!」


カイの瞳に、怒り、悲しみ、そして、愛するものを守りたいという、強い感情が宿る。その瞬間、彼の体から、黒いオーラが陽炎のように立ち上る。それは、千年の地獄で培われた、圧倒的な『虚無』の力。


死神: (慄然と) 「な…なんだ、この力は…!?これは、地獄の業火が生み出した、究極の魂の…」


カイの放つオーラは、死神の魂に直接流れ込む。死神は、カイが千年かけて耐え抜いた、究極の苦痛を、一瞬だけ追体験させられる。


死神: (絶叫) 「やめろぉおおおっ!!私の頭の中に…入ってくるな!」


死神は、その場で膝をつき、苦痛にのたうち回る。


カイ: (冷たい瞳で) 「…お前が弄んだ、人間の感情。その痛みを、ほんの少しだけ味わえ。」


シーン5:黎明の光

【時間】 現代、早朝

【場所】 廃工場、入り口付近


SE: パトカーのサイレンが鳴り響く音


警察官たちが廃工場に突入する。彼らは、地面に倒れている献太と、恐怖に震えているカイ、ひかり、そして一匹の犬を見つける。死神の姿は、影も形もなかった。


警察官: 「君たち!大丈夫か!?」


カイ: (力なく) 「…はい。献太くんは、無事です。」


献太は、病院へと搬送された。警察の取り調べに対し、献太は「肝試しをしていて、いつの間にか眠ってしまった」と証言したため、事件は、子供の悪戯という形で幕を閉じる。


【時間】 現代、その日の夜

【場所】 カイとソラの自宅、ソラの部屋


SE: 穏やかな音楽


ソラは、ベッドの上でぐっすりと眠っている。その枕元には、小さな犬のぬいぐるみが置かれていた。


カイ: (ソラの頭を優しく撫でて) 「…おかえり、ソラ。」


ナレーション(閻魔の声): 遠い昔、冥府で一人、何億もの魂を初期化し続けたソトの魂は、地上で、『おかえり』という、温かい言葉と再会した。それは、彼女の魂を、静かに、しかし確実に、癒やしていく。


SE: 電話の着信音


カイのスマホが鳴る。相手は、ひかりだった。


ひかり: (電話口で) 「カイくん…!ソラちゃん、無事だったんだね!よかった…!」


カイ: (安堵の表情で) 「ああ。ありがとう、ひかり。君がいてくれて、本当によかった。」


ひかり: (照れながら) 「…うん。ねぇ、カイくん。一つだけ、約束してほしいことがあるの。」


カイ: 「なんだ?」


ひかり: 「もう、一人で戦わないで。私と…クロと…そしてソラちゃんと、一緒に戦おう。この、わけの分からない敵と、私たちの日常を守るために…」


カイ: (微笑んで) 「…ああ。約束する。」


カイは、静かに電話を切る。そして、眠っているソラの顔を、愛おしそうに見つめる。彼の瞳の奥で、千年の地獄を耐え抜いた魂が、再び、強く、静かな輝きを放ち始めていた。

【第4話 完】

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