第2話 うつむく中学生

 うつむきかげんの・・・

 黒い学生服の少年は

 近隣の中学生のようでした。

 中学生だとわかるのは、

 小柄な体躯と幼さを残した顔立ちから。


 4月のはじめ、入学したばかりの1年生だとわかります。楽しい部活動とは無縁のよう。

 部活動の勧誘にあぶれた、輪に馴染めない子どもなのでしょう。


 オリエンテーションが終わった

 放課後でしょうか?

 しかし、未来ある中学1年生が正午の・・・

 それも山の上の公園を訪れるなんて、

 不思議な光景です。

 他に遊ぶ場所があるでしょうに。


 お花見でのんだくれ人生を無駄にしたバブル世代ではあるまいし、わたしのように有給消化でヒマを潰す社会人でもあるまいし。

 わたしは不思議に思い、

 少年の動向に目を向けます。


 少年はなにやら黒表紙の手帳・・・

 メモ帳ですか?

 それを大事にかかえて歩いていました。

 遠目にはA4・・・

 いえ、B5サイズの手帳だとわかります。


 手帳をかかえて歩きながら、

 少年はうわのそらでした。

 まるで、手帳を大切にあつかうような・・・

 あしたの天気を心配するような・・・


 さながら見当はずれな困りかたをする、さして困っていない困ったような少年と言えましょう。大物ですね。近頃はあまり見かけないタイプの若者です。


 わたしは少しだけ心配になりました。

 大物な中学生男子が、後生大事にかかえている黒表紙の手帳。それが意中のクラスメイトに送る恋文の下書き用紙なら、笑って見逃してあげようと思いましたが・・・


 しかし様子がおかしい。

 少年はなにやら怖がっているようです。

 大道だいどうすたれて仁義じんぎあり、さりとて、他人の不安をまるっきり無視をするのはやはり常識人の道に反する。


 おせっかい焼きの年長者として

 わたしは席を立ちました。

 お弁当のからを片付けて、

 ペットボトルのお茶を8割飲み干して、

 のどをうるおし

 黒い学生服の少年に声をかけます。


「こんにちは、おともだちとお花見ですか?」


 びくっ、少年の肩がふるえました。

 見知らぬ異性に、それも同年代ではない赤の他人に声をかけられたのですから、おどろくのはあたりまえのことです。


 わたしとしても職業柄、中学生をあいてにする機会はありませんから、あまり上手に話しかけられなかったかもしれません。

 少年の不安をやわらげようと、

 わたしは笑顔をつくるのです。


「スケッチブックですか? ひょっとして、美術の課題が出たとか? ふふ?」


 かくいうわたしは、中学時代に美術『3』を記録した前衛芸術家でございます。

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