〜閑話〜ハサンとアブド
焚き火の火がぱちりと爆ぜた、そのときだった。
「……おい」
低く、腹の底を打つような声。
振り向いたアルの視界を、一瞬で“人の壁”が塞いだ。
――大きい。
肩幅、腕の太さ、首の太さ。
人を殴るために生まれてきたような体つきの男が、そこに立っている。
「街人」
男は、低く言った。
「よく……その首をつけたまま、ここに立って
いるな」
挑発とも、脅しともつかない言葉。
アルの喉が、無意識に鳴る。
言葉を探した、その瞬間――
「やめろ、ハサン」
穏やかな声が、横合いから割って入った。
もう一人の男が、焚き火を跨ぐようにして現れる。
背は高いが、体つきは柔らかく、
目元には、どこか人懐っこさが残っている。
「その声量だけで、十分怖いって」
軽く、苦笑する。
「夜にそれやられたら、夢に出るやつだぞ」
「……出るか、そんな夢」
「出る。
俺だったら三日は引きずる」
ハサンは舌打ちした。
男は、アルのほうへ向き直る。
「悪いな。
こいつ、声がデカいだけで人格までデカい
んだ」
「で、その言い方が必要か、アブド」
「必要だ。
お前、見かけだけで人を倒しそうだ」
火を挟んで、二人は一瞬にらみ合う。
その空気を、スミが切った。
「……用件は?」
ハサンは、ようやくアルから視線を外し、スミを見る。
「この街人だ」
短く言い切る。
「族長の前で……平気な顔で立ってた。
あれが、気に入らん」
「“気に入らない”って言い方、やめろって」
アブドがすかさず入る。
「お前が言うと、だいたい悪い方向に聞こえ
るって。あと、こいつお前のことを"心配"
してるってのもあるから」
「余計なことをするな」
「余計じゃない。お前のためでもあるんだ」
アブドは、小さく息を吐いてからアルを見る。
「なんだ追加の間の昼間のことだ……すまなか
ったな」
その声は、軽口とは別の色をしていた。
「ハサンは、疑い深い」
ハサンが、ふっと鼻を鳴らす。
「……誇り高い、だ」
「はいはい、そっちでもいい」
アブドは続けた。
「部族を、誰よりも大事にしてる。
だから……守る相手ほど、強く出るんだ」
ハサンは、ぐっと口を結んだまま、焚き火を見つめる。
「……謝るつもりは、ない」
ぽつりと言った。
「だが……」
少し、間。
「無闇に殺す気も、ない」
アルは、そこで初めて声を出した。
「……それは、安心できませんね」
一瞬、空気が止まる。
次の瞬間――
アブドが、吹き出した。
「ほらな、ハサン。
怖がりながらも、ちゃんと話す」
「……変な奴だ」
ハサンは、面白くなさそうに言った。
「怖いなら、逃げればいい」
「怖いですけど……」
アルは、少しだけ笑った。
「ここ、嫌じゃないです。少なくとも私の実家
よりは」
ハサンはそれを聞いて、ほんの一瞬、目を細めた。
「……物好きめ」
アブドはその様子を見て、肩をすくめる。
「安心しろ。
あいつ、仲間に対しても口が悪い」
「それ、欠点ですね」
「本人が一番気づいてない」
ハサンは、くるりと背を向けた。
「……勝手にしろ」
ぶっきらぼうなその背中は、
どこか――先ほどより、大きく見えなかった。
アブドは、アルに向かって言った。
「ようこそ、だ。
歓迎は……この通り、不器用だけどな」
焚き火の熱の中で、
敵意ではない何かが、ようやく生まれ始めてい
————
時間があったので閑話出してみました!
あの族長に反対した筋骨隆々の男!少し読者の皆さんもマイナスイメージあると思ったので、ハサンのこと描写してみました!
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