「影が聞こえてくる」

人一

「影が聞こえてくる」

街中で聞こえてくる笛の音色。

豆腐屋、焼き芋屋、ラーメン屋台……他には?

あなたはそれが、どこから聞こえているのか気にしたことはありますか?


これは、とある閑静な住宅街の真ん中にある公園でのお話。

そこには不審者がいた。

その男はいつもほとんど決まった時間に、どこからともなく現れる。

そして決まったベンチに座り、笛を吹き始める。

別に何をする訳でもない、子供たちに声をかけることはおろか見てさえもいないようだった。

ただ笛を吹いているだけ。

その得体の知れなさから、保護者たちは子供に近づかないようにキツく言い聞かせていた。


それでも興味のあるものには近づいてしまうのが、子供というもの。

子供たちは"おじさん"に話しかけるが、返事はない。

ちょっかいを出しても、反応がない。

ただ笛を吹き続ける。

邪魔されたら音が変になるという、ごく普通の変化しかない。

でも子供たちの興味は失せない。

とある子供が立ち去る男を尾行したが、いつも必ず路地で見失ってしまう。


晴れの日も雨の日も雪の日も、男は決まってベンチで笛を吹いていた。

吹いている曲は、日によって違う。

屋台っぽい曲、流行りの曲、聞いたこともないような曲……と、様々で規則性もない。

流行りの曲の日は、子供たちにとって当たりの日であり一層盛り上がっていた。


「その日」は突然やってきた。

今日は、当たりの日。

子供たちは楽しく盛り上がって、思い思いに踊っている。

男はその日は珍しく、笛を片付けず公園を出た。

いつもは笛を片付けて、ひっそりと出ていくのに。

子供ながらに不思議がるが、もっと聞きたいのでちょうどいい。

子供たちは列をなして、男の後を踊りながらついて行く。

そして男は夜闇の境に消えた。

1人ではなく、大勢の子供たちと一緒に。

どこからともなく、笛の音が聞こえてくる。

日は完全に落ちた。

笛の音もやんだ。


「おい!いたか?」

「いや、こっちには……」

「警察は!?」

「もう捜査に出てくれている。」

「くそっ……頼むから無事でいてくれよ……」

大人たちは駆け出し、四方に散ってゆく。


笛が落ちている。

ベンチの下に。

ゴミのように。

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「影が聞こえてくる」 人一 @hitoHito93

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