勝鯉のお供に珈琲はいかが?
赤花
1杯目
夕方の広島駅、行き交う人々は赤で満ちていた。
「よし!今日も美味しいコーヒー淹れるぞ!」
ここは広島駅から徒歩5分、マツダスタジアムすぐ近くのキッチンカー。店主の
「今日は、の間違いじゃろ。」
振り向くと今日最初のお客さん。常連のカープファンのおじちゃんが笑いながら言う。私は思わず頬を膨らませる。
「もう!いっつも美味しいじゃろー?……今日はどんなのにする?」
「じゃあ苦めのやつがええわ!心羽ちゃんは試合始まったらいっつも薄いコーヒー出すけぇの!」
痛いところを突かれる。私はカープが好きすぎるあまり、試合中はついつい集中力が切れてしまうのだ。
「今日はまだ試合始まっとらんけぇ大丈夫!任して!」
「ほんまかいね。期待せんと待っとくわー。」
ミルを回して豆を挽く。注文が入ってから挽きたてのコーヒーを淹れるのがこだわり。今日はブラジルの深煎り豆を使っている。苦さの中にコクもあり、深みのある味わいのコーヒーになるのが特徴だ。
豆を挽き終わってドリッパーに移そうとしたその時、球場が歓声で沸く。途端に手元が滑って豆が少しこぼれてしまう。
「え!?まだ試合前よね!?」
「ほら出た、心羽ちゃんの『カープ抽出』。もはやこれ見たさに来とるようなもんよね。」
「もう!変な名前付けんといてやー!で、なんで歓声?」
「スタメン発表じゃろ。ほら。」
おじちゃんがスマホの画面を見せてくれる。確かに、今日は期待のルーキーが初スタメンらしい。
「そりゃこれは盛り上がるねぇ!面白い試合になりそうじゃ!おじちゃんしっかり応援してきてよ!」
「まぁまずは心羽ちゃんが美味しいコーヒー淹れれるように応援しちゃるわ。」
「うっ……ありがとう……。がんばります……。」
思わず苦笑いしながら、出来上がったコーヒーをおじちゃんに手渡すとおじちゃんは私に笑いかけて答える。
「ありがとう!また来るわー。」
「うん!しっかり応援して勝たしてきてねー!」
私はホッとして見送る。
県外の人はドラマや映画のイメージで広島は怖いと思いがちかもしれないけれど、実は広島の人は意外とみんな優しい。
だから私は、カープはもちろん、この温かい街・広島が、大好きだ。
「よし、次こそは落ち着いてがんばろ!」
だから今日も私は、ここ広島で、コーヒーを淹れる。
赤い歓声を間近で感じながら。
勝鯉のお供に珈琲はいかが? 赤花 @chargezm
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