第8話 葉隠ダンジョン
葉隠ダンジョンの入り口は、街外れの森の奥にひっそりと口を開けていた。昼間の光が差し込む入り口の先には、薄暗い空間と冷たい空気が漂っている。
「ユウマさん……ちょっと、暗いですね……」
ターリアは魔導書を抱え、少し身を縮めながらつぶやく。
「大丈夫、怖がらなくていい。暗くても魔力で照らせるし、俺たちが一緒なら問題ない」
俺は落ち着いた声でターリアに言い、手元の魔力を確認する。
まずは小型の魔力結界を展開し、松明代わりに光を作る。暖かく柔らかい光がダンジョン内部を照らすと、ターリアも少し安心したように息を吐いた。
「じゃあ、行こうか」
俺はターリアに合図を送り、二人は慎重に一歩ずつダンジョンの奥へ進む。
最初の部屋には、小さなモンスターが数体うろついていた。
ゴブリンのような姿だが、Eランク冒険者でも十分に手応えのある相手だ。
「まずはマナバレットで牽制しよう」
俺が指示すると、ターリアは魔導書を構えて集中する。
小さな光の弾が飛び出し、ゴブリンの一体を軽く弾き飛ばした。
「うまくいった……!」
ターリアは嬉しそうに目を輝かせる。だが、まだ油断はできない。残りの敵がこちらに向かって突進してくる。
「次はマナバリア! 俺が前に出るから、安全に反撃できるように!」
ターリアは魔力を壁に変え、俺はリインフォースをかけて筋力と敏捷性を底上げする。
壁の後ろから、俺は剣を振り、突進してきたゴブリンを斬り伏せる。
ターリアも魔法で援護し、敵を一体ずつ確実に倒していく。
(うまく連携できてる……ターリア、思ったより飲み込みが早いな)
俺は内心で感心しつつも、次の部屋の準備を始める。
ダンジョンの奥には簡単な仕掛けや小型の罠が配置されている。落とし穴や圧迫トラップなどだが、ターリアと協力すれば問題ない。
「ここは俺が先に探る、ターリアは後ろから援護して」
ターリアは少し緊張しつつも頷き、魔導書から光を放って俺をサポートする。
罠を慎重に解除しながら進むと、最後の部屋にたどり着いた。そこには少し大きめのモンスターが一体、こちらを睨んで待っている。
「よし、ここが本番だな」
俺は剣を握り、ターリアも魔導書を握り直す。
モンスターの目が鋭く光り、低く唸る。普通のゴブリンよりもひと回り大きく、筋肉質で、しかも体の一部には硬そうな鱗が覆っている。
(……これは、通常の剣技やマナバレットだけじゃ致命傷は無理だな)
俺はターリアに目で合図を送り、低く声をかける。
「ターリア、お願いだ。俺にリインフォースをかけてくれ」
ターリアは一瞬驚いた顔をするが、すぐに魔導書をしっかりと握り直し、魔力を集中させる。
「わ、わかりました……ユウマさん!」
魔力がターリアから俺の体に流れ込み、腕や脚の筋肉が熱を帯びるように力強くなる感覚が広がる。
「よし、ありがとう……これで攻撃力と回避力が上がるはずだ」
俺は剣を握り直し、モンスターに向かって突進する。ターリアは後ろで光の壁を準備し、必要なら防御で援護できる態勢を整える。
最初の一撃で、鱗の隙間を狙って斬り込む。リインフォースで強化された腕力が剣先に乗り、モンスターの皮膚に深い傷を刻む。
「やった……!」
俺の攻撃を見て、ターリアは少しだけ安堵の表情を見せる。
しかし、モンスターは倒れるどころか、逆に怒りを露わにしてこちらに突進してくる。
(よし、ここからは連携だ……ターリアはマナバリアで俺を守れ!)
ターリアは魔力の壁を展開し、モンスターの突進を食い止める。その隙に、俺は回避して横から斬り込み、弱点部を集中的に攻撃する。
ターリアも魔力の弾を正確に放ち、モンスターの動きを制御する。二人の連携で、モンスターは次第に動きが鈍くなっていく。
俺はターリアに声を張り上げる。
「ターリア!! マナバレットでひきつけておいてくれ!」
ターリアは驚いた表情を見せながらも、すぐに魔導書を構え直す。魔力の集中が高まり、小さな光弾がモンスターの視界にちらつき、注意を引きつける。
「わ、わかりました……ユウマさん、任せて!」
モンスターは光弾に向かって突進する。ターリアのマナバレットが絶妙なタイミングで飛び、敵の動きを制御しつつ牽制する。
(よし……ここだ)
俺は心の中で決意を固める。バーストストライク――このスキルは短時間だけ自分の攻撃力を大幅に強化することができる。今を逃せば、致命打は狙えない。
魔力を剣に集中させ、全身にバーストストライクを展開する。筋肉と反射神経が強化され、剣に込める一撃の威力が桁違いになる感覚が全身に広がる。
「行くぞ……!」
俺はモンスターの隙間を見極め、横から踏み込み、強化された剣で斬りかかる。リインフォースとバーストストライクの相乗効果で、剣先は鱗の硬い部分も突き破り、深く食い込む。
モンスターは大きな悲鳴を上げ、後ろに倒れ込む。ターリアもさらに光の弾を放ち、動きを完全に封じる。
「やった……倒せた……!」
息を切らしながら振り返ると、ターリアは満面の笑みで魔導書を抱きしめている。
「ユウマさん……すごい……! 一緒に勝てました……!」
俺も剣を地面に突き立て、深呼吸をする。短時間の激しい戦闘だったが、二人の連携で無事に勝利できた。
(これで少しはターリアの自信にもなる……次はもっと複雑な連携も試せそうだな)
倒したモンスターの残骸からは、少しの装備と経験値が得られる。俺たちはそれを回収し、葉隠ダンジョンの攻略を完了する――初めての本格的な連携戦闘だったが、確実に二人の絆は深まった。
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